Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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街角での雑想

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2009年02月12日

中国台頭時代の日米関係

1月29日から2月7日までホノルル、ボストン、ワシントンDCで米国の国際関係専門家多数と意見交換してきたので、その結果を以下に記す。

出発するまでは不安で、日英同盟消滅の前例などが・・・
日本は戦後、米国のアジアにおけるNo.1のパートナーとして長らく扱われてきたが、これは明治以降初めてのこと。ペリー提督は、米中貿易の中継地として日本に開港を求めたのだ。
そして敗戦国が短期間の間にNo.1のパートナーにされたことも、史上稀なことだった。その理由はいうまでもなく共産主義の台頭、つまりソ連との冷戦と中国共産党の政権掌握だ。

そして1991年ソ連は崩壊し、2000年代中国は大型の政治・経済・軍事パワーとして台頭してきた。日本はその史上初めて米国、中国という、互いに依存し、敵対していない2つの大国に両側から挟まれることになった。僕の胸裏には昔ドイツとロシアに分割されたポーランドの例が浮かんだ。日本が現在の混迷を続ければ、中国からも基地の使用を強要される場面があるかもしれないとさえ思った。日米識者の間では、「米中による日本の植民地化」の可能性がまことしやかに論じられている。

確かに日本から見ていると、米国が日本の肩越しに中国と、アジアのことで話をつけようとする姿勢がひところは顕著だった。僕も心安からず思い、1923年の日英同盟失効の時のことを調べてみさえした。日英同盟失効が日本外交漂流の原因だったのか結果だったのかは知らないが、日本がその後孤立して自らを戦争に追い込んだのは確かだ。
だからホノルルに旅発つとき、僕の心は暗かった。「またアメリカ人にしがみついて、捨てないでくれと懇願するのか?」と。それじゃまるで植民地官僚の心性だ。

「中国が強くなればなるほど、米国は日本を必要とする」
だがホノルルで早や僕の気持ちはなぜか晴れ、ボストン大学のトーマス・バーガー教授が「アメリカはアジアで強大な中国とつきあっていく上で、頼りになる友人をますます必要としています。見渡してみると、それは日本をおいていないのです。ところが日本は一人で拗ねて、どんどん離れて行ってしまおうとする。アメリカは日本を必要としているのです」と言ったことで、それは確信となった。

「中国が強くなればなるほど、米国は日本を必要とする」―--それ以後、僕は会う人毎に言ってみた。日本専門家も中国専門家も、それに全面的に賛同してくれた。
確かにその日ハーバードでは、リバーソール前大統領特別補佐官がスピーチをしていて、アジアは米中で取り仕切る、というようなことを言ったらしい。彼の持論だ。僕はそれに出席したわけではないが、次の日にMITでスピーチして言った。「アジアを米中だけで仕切ろうとすると、それはアジアを中国に委せてしまうことにつながるだろう。アジアは米国にとって政治・経済・軍事すべての面で重要であり、これを失えば米国は世界における地位を大きく後退させることになるだろう」

東南アジア諸国も、南西アジア諸国も、アジア太平洋地域で中国だけが突出して支配力を振るうようになるのを望んでいない。バランスを維持するために、彼らは米国、日本との関係に多くをかけている。

そして他ならぬ中国から見ても、米国との関係だけにすべてをかけるのは、まだ危なくて仕方ない。オバマ政権の下では保護主義もちらついているし、また天安門事件のようなことでもあれば、日本の支持は中国にとって不可欠だからだ。

日本だって、米中だけが突出して良くなるのを座視してはいない。福田政権になってから、中国との関係を緊密にしたことが何よりの手立てになっている。
現代の世の中で、大国にはさまれた国が分割されてしまうことは、その国がガバナンスを完全に失えば別だが、ほぼあり得ない。モンゴルもカザフスタンもロシア、中国の間に挟まれながら、うまくやっている。その点は安心なのだ。

だがそれにしても、それにしても、どうして日本はこんなに頼りないんだ。はっきりしないんだ―――これがアメリカの識者の日本に対する思いだ。ごもっとも。

日米で今何ができるか、するべきなのか?
オバマ大統領が世界で持っている「ソフト・パワー」は甚大なものだ。日本もこれと一緒にやっていけば、外国から米国の手先として煙たがれることもないだろう。そこで何をやるか? 円が上がったことで、日本のODA供与額は今年、再び世界2位に返り咲くだろう。この面でも日本の比重は上がるのだ。

①アジアでのバランス維持のため、日米間でConcerted Policyを
日本と言えば「政治的小人」とすぐ決め付けられ、世界で政治力など全然ないかのように見くびられてきた。だが中国、韓国との間では歴史問題をめぐるいさかいを収めて昨年12月には日中韓首脳会談を初めて日本で開き、東南アジアとの協力強化の話ではアメリカが外されないよう常に調整に努め、インドではODA供与額No.1でこの国の安定強化に大きく資している。そして中央アジア、ロシア極東にも支援、直接投資を行って、これら地域の安定維持に貢献している。ユーラシア大陸の東半分のバランス、安定維持のために日本がしていることは、ハンパじゃない。

そしてこのことは、アメリカの対アジア外交とベクトルはほぼ一致するだろう。日本はアメリカと何でも同じことをすることはできない。ODAにしても、アメリカは即断即決だが日本はじっくりフィージビリティ(経済発展に本当に役に立つかどうか)、アカウンタビリティ(不正はないかどうか)を検討するから、一つの案件に日米双方がODA資金を出し合って進めるのも容易なことではない。

だが、日米が目指す方向は一緒、安定維持と経済発展、そしてオープンで不正のない社会を各国が築くのを助けることだ(まず手前国内のことをやってから)。「民主主義」と「市場経済」を広めるのだ、などという難しい言葉を大上段にふりかざすと、現地の大衆の反感を買う。「ハリウッドの価値観を押し付ける」と言われるのだ。そこを「オープンでフェアーな社会を作るのだ」と言えば、大衆を仲間にすることができる。
方向を共有し、互いにやっていることを通報し合いながら進めるから、これをConcerted Policyと名づける。ジョゼフ・ナイ教授も同じような言葉を僕に言った。

②そのために日米間にしっかりした政策調整メカニズムを
Concerted Policyを行っていくためには、日米政府間の種々のレベルで連絡、調整を強化する。ただ、それだけでは足りない。これまでも「グローバル・パートナーシップ」などと日本が言って、種々の細かいプロジェクトを世界中で展開してきたが、それは米国側から十分評価されていないからだ。

日米間で何かを一緒にやるのだったら、それが米政権上層部にしっかり伝わる体制を兼備する必要があるのだ。これは、ブッシュ政権第二期になくなってしまった次官級協議を復活させることで実現できるだろう。

そして日本は、実質的で明確なメッセージを伝えなければならない。できないことはできない理由を説明し、代案を直ちに提示するべきだ。ぐじゅぐじゅしていることを、米国は最も嫌う。

③「過剰期待が満たされず失望」の悪循環を防ぐ
これまでアメリカは、日本が自衛隊を派遣するかどうかに過度の比重をかけすぎたと思う。日本は平成4年の国際平和協力法によって、国連のPKOであれば自衛隊を派遣できる。ただ、国連安保理決議を経ない多国籍軍への参加については、日本国内の逡巡が強く、それが選挙の時重要な要素となるのだから、当面難しい。

だがアメリカには、日本の軍事基地提供が米軍のグローバルな展開に不可欠な要素になっていることをもっと評価してもらいたい。これだけでも、日米安保条約の存在価値がある。

そして日本がアメリカに期待する最小限のこと、それは核抑止だろう。核拡散防止条約(NPT)体制が空洞化しつつある現在、日本は北朝鮮の核等に対する抑止策を明確にしておく必要がある。ドイツではその領内に多数の米戦術核が配備されているが、それを実際に使用する場合にはドイツ政府の同意を必要とする。これを「二重引き金」(Dual Key)という。

日本の場合、領内に核兵器を配備することは必要でもなければ、好ましくもない。公海に戦術核を搭載した巡航ミサイルを配備しておいてもらうだけで十分かもしれない。こうしたことをオープンに議論、決定することが、日本の核抑止力を向上させるだろう。
基地の提供、核抑止の提供、これをもって日米安保のミニマムとしたい。

④日本がアメリカを守らなければ、アメリカも気が抜ける
日米安保条約は「片務条約」で、日本周辺の有事には対応するが、アメリカの有事については規定がない。これは戦後間もない時の両国の力の差を反映したものだが、今の時代、日本周辺で米軍が襲われても自衛隊は何もできない、というのではいかにも道理が通らない。憲法も認める集団自衛権の解釈を拡大するべきだ。

日本では「アメリカの戦争に巻き込まれる」ことへの恐れが常に強いが、今のアメリカでは「日本と周辺アジア諸国の間の歴史上のもめごとに巻き込まれる」ことへの懸念が強い。つまり、日本がやることをやっておかないと、アメリカも日本を助ける気は起こりにくいということだ

⑤「一緒に戦争しよう」から「一緒に戦争を防ごう」へ
まあ、上記に書いたことを総括すると、これまでの「一緒に戦争しよう」から「一緒に戦争を防ごう」ということになるかな、と思う。それを、オバマ時代の日米間の長期的目標としてもいいだろう。

ただ、短期的にはアフガニスタン情勢への日本の対処が重要だ。ヒラリー・クリントン国務長官が日本を最初に訪問することは日米両国関係者の努力の賜物なのだろうが、それだけにアフガニスタンの安定化で日本が何をできるかが厳しく問われ、それが当面のリトマス試験紙のようになるだろう。

僕は、中国がアフガニスタンに軍を送ることになっても驚かない。それに見合うだけのマグニチュードをもった支援を日本はしなければならない。そしてそれは、自衛隊派遣以外のことであっても構わない。とにかくはっきりと、そして迅速にこちらのできることをアメリカに伝えることだ。
河東哲夫


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