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街角での雑想

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2008年08月14日

BRICsの神話ーー人の多さより資本の大きさが決め手だろうに

オリンピックが続いている。中国はその力を大いに世界に示すことができたが、上海株価は低値に張り付いたままだ。サブプライム問題で輸出は不振だし、内需を刺激しようにもインフレが亢進している状況下ではそれも思うに任せない。ロシア経済は、まさかと思った原油価格の5倍以上の暴騰で復活したかの印象を与えたが、6月には鉱工業生産の伸びは鈍化し始め、にもかかわらずインフレの亢進が止まらないというスタグフレーションの様相を呈し始めている。インドはこの数年間の急成長でインフレ気味な上、来年は総選挙の年で、経済は節目を迎える。

1997年以降世銀などが、中国のGDPは購買力平価で計算すれば既に世界の5指に入ると指摘して以来(最近になって、実際より4割過大評価していたことを認めているが)、グローバルな投資銀行は“BRICs”の素晴らしい潜在性を言い立ててはこれら諸国の企業の株価を吊り上げ、これを外国で公開することで巨万の富を得てきた。これは、一種のバブルではなかったのか? 三匹の子豚の話にあるとおり煉瓦(brick)の家は風には強いが、地震には弱いのではないか?

ロシアのGDPは2000年以来、ドル・ベースで5倍以上にも増えたが、その殆どは原油価格の上昇とそこから派生したサービス、投資、そしてルーブルの対ドル・レートの上昇で得たものだ。だが、原油価格が上昇を止める時、ロシアは自立的な発展に移行できるかどうか。何しろルーブル・レートが上がりすぎた上に、今や運転手が月2,000ドルは稼ぐという高賃金国になってしまったために、工業製品はほとんど何でも輸入した方が安いのだ。ロシア人の購入する耐久消費財のほとんどは輸入品で、天然資源に依存したこの国の経済構造は90年代の混乱期からほとんど改善されていない。

中国の経済は毎年二桁の成長を続けてきたが、輸出がGDPの38%にも相当するのは経済を脆弱なものとするし(日本は16%。因みに産業革命初期の英国が今の中国と同等の輸出依存だった)、国内では建設への依存度が高すぎる。ロシアが石油で資本を蓄積したとすれば、中国は外資導入による急速な輸出増で富を築き、それを不動産やサービス部門を拡大することで膨らませていくという経済モデルなのだ。中国でも労賃が上がっていて、今や中国企業でさえも低賃金を求めてベトナムやインドネシアに工場を立地させる時代になった。

そこで、中国やインドにはこれからは、内需の拡大で成長を維持することが期待されている。中国もインドも膨大なその人口はこれまでは経済発展の重荷と言われていたのが、いつも間にか論理がすりかえられて、急速な内需の拡大をもたらすものと言われるようになった。ここには何か作為が感じられる。購買力を持っていない人間は、どう考えてみても急速な内需の拡大はもたらさないだろうに。

輸出で儲けた企業から税金で金を取り上げて貧困層にばらまけばいいと言うかもしれないが、そうやって重税を課された企業は発展のための投資ができなくなる。では、ということで紙幣を印刷して国民に配れば、インフレがひどくなるだけだろう。

それに、中国やインドが生産を急激に拡大しようとしても、天然資源や原材料のボトルネックに突き当たるだろう。天然資源に乏しい両国はこの大半を輸入に依存しているが、輸入するためには輸出して外貨を稼がねばならない。ところが、先進国経済は飽和状態にあって、これ以上両国からの輸入を大幅に増やすことはないだろう。

こうしてつらつら考えてみると、BRICsの経済は曲がり角にさしかかったのではないか? その経済はこれから何回か破綻的状況に陥ることも予想される。BRICs諸国はそれに備えて、今からIMFへの拠出を増やしておくべきだろう。先進国も、そのような場合の膨大な救済資金需要に今から心構えをしておかなければならない。

先進国は、BRICsの荒い鼻息の前に自信を失っていた。サブプライム問題もあって「米国一極支配」(大体この言い方は大げさなのだ)の終焉とか、「無極時代の到来」とか騒がれているが、この200年来、世界の支配構造は容易なことでは変わっていない。産業革命期のイギリスは、インドを植民地としたからこそ、大きな富を築き覇権を唱えることができたのだ。その後ドイツ、アメリカが台頭するが、アメリカが超大国の座を築いたのは、第2次大戦で西欧諸国が植民地を失った後の話である。

世界は、簡単には「無極化」しないだろう。自信を失い、「無極化」のパーセプションに溺れれば、その時にはパーセプションが現実になってしまうだろうが。

BRICsについても、ここでひとつ考え直してみよう。生み出される新しい富の規模を決めるのは資本の規模であって「人口」の大きさではない、という単純な公理を思い出そう。人口が富を生む打ち出の小槌であるかのような幻想を世界に広め、そうすることで濡れ手に粟の利益を得てきた国際的金融企業には、バブルの始末を自分でつけてほしいものだ。

この数年、IT、次には住宅そしてBRICsをめぐってバブルが作られては破裂してきた。今や、資本を増やすための最も地道な手段としての、ものづくりやサービスの価値が再評価されてしかるべきなのだ。そしてこの点で、日本は実は有利な位置にある。次世代の重要商品である電気自動車、ロボットの生産では日本は世界の先端をいっている。

しかもその賃金水準や物価・地価水準は相対的に下がっており、日本は今や実は世界の先進国の中では低物価国になったのだ。都心の一流ホテルが3万円以下で泊まれるところなど、G8諸国の中では珍しい。つまり、日本は再び「世界の工場」になれる状況になってきたということだ。土地を含めて、これからはひょっとして対日投資、日本バブルの時代になってもおかしくない。外国人も日本市場で十分稼ぐことができるようにしてやれば、そうなる確率は非常に高くなるだろう。                                 河東哲夫

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