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世界はこう変わる

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2007年01月16日

新年のっけからディベートだ ― イラク戦争は失敗したのか

ジャーナリストの友人から寄稿いただいたので、ディベートの起爆剤として掲載します。
ご意見は、末尾のコメント欄にご記入ください。


イラク戦争は失敗したのか?
                                                 2007年1月   K.J.


 ブッシュ政権はあまり好きではないが、それでも「論調」があまりに一面的なので、あえて、コメントしようと思う。
 ある政策(軍事行動)の成功・失敗は、その目的がどの程度達成されたかで、判断すべきものとおもう。米国がイラクに侵攻し、フセイン政権を打倒したイラク戦争の目的は3つあったと考える。
 第1には、中東の産油地帯に「反米・独裁国家」の存在を許さないこと。その国家が中東の覇権を握れば、エネルギー分野ばかりでなく、「米国の世界覇権」にとって深刻な脅威となる。フセイン政権の打倒は、イラク・フセイン政権のこの野心を事前に阻止し、米国の確固たる意志を示すものだった。この点に限れば成功といえる。
 この目的にはサウジ、湾岸首長国、イランを含め、いずれもそれぞれの利害から、支持または暗黙の了解を与えている。
 日本にとっては、エネルギー供給の安定のみならず、米国の「核の傘」と専守防衛政策の裏腹としての「敵地攻撃力」を米国に依存しているという二重の意味で、米国の覇権に依存している以上、それが揺らぐことは、好ましくない。したがって、支持・協力するのは当然のことだろう。
 大量破壊兵器をイラクが当時、保有していたかどうかは、大きな問題ではない。フセイン自身が、それが単なるブラフであろうとも「保有の意思」を示していたのは事実であり、放置すれば、いずれは現実のものになる可能性が大きいからだ。

第2の目的はアフガン侵攻との関連で「テロ、特に反米テロの世界拡散の防止」だろうが、これは現段階では、判断しにくい。少なくとも、アフガン・イラク侵攻後は米国へのテロは起きていないことを、指摘するにとどめる。ただ、イラクの混乱は、周辺国にとっても、今後の事態の掌握を一層困難にしたことは、間違いないだろう。

第3の目的は「自由で民主的な統一国家の建設」。米国流の「理想主義」はこの際、脇に置いて、本音は「親米国家」だろうが、どちらにしろ、これは失敗。そもそもアラブ世界に前者の国家ができるかどうかは、大きな疑問だった。ただ、後者も「作れなかった」のはなぜかを深刻に受け止めねばならない。
米国が政権を打倒し、長期に駐留しても、「反米国家」が後に残ったーーという例は、過去にあまりない。このことの方が、米国の将来の世界戦略にとっても、より深刻な問題をなげかけるだろう。

では、何が問題だったのだろうか。ブッシュ・ネオコン政権の失敗の1つは、イラクに「金」を落とさなかったことではないだろうか。イラク国民への経済的恩恵がなさすぎることだろう。金を使わず、戦争だけやる軍隊の駐留は、その国にとっては「最悪」だ。
米軍兵士にとっては「酒も女もだめ」というのでは、イラクで「金」を使いようがないだろう。あれほど評判が悪かったベトナム戦争ですら、米国が支援した「南ベトナム政権」の支配地域では、かなりの「特需」を生み出したはずだ。イラクでそのような「話」がまったく伝わってこないことが、もっとも、不思議なことである。米国の「軍事支出」は、ネオコンと結託した米国企業(コンサル)が吸い上げたのだろうか?
もっとも、いくら「金」を落としたからと言って、イラクのような国で、うまくいくも思えない。アラブ・イスラムにはそれなりの文化があることを、まず、認めなければならないだろう。

繰り返しになるが、今後の日本にとっての大きな課題は「世界レベル、地域レベル(中南米も含めて)での米国の支配力の低下」である。冷戦時代は「米ソ2極」とその従属関数を見ていればよかったが、今や、地域ごとに「主体」はさまざまあり、それぞれの要因で動いている。主体そのものも「国家」とは限らない。また、平和的軍事的双方の核エネルギー、石油エネルギーについても、米国の支配力は大きく傷ついている。次の50年はきっと、これまでの50年より分かりにくい対応の難しい世界になるだろう。

コメント

投稿者: 河東哲夫 | 2007年01月16日 02:58

70%くらい賛成します。
僕にはなぜあの時点で対イラク戦争を起こさなければならなかったのかが、わかりません。
世界の国々は、大量破壊兵器があるということで、だまされた感じを拭えないでいます。
そして、アメリカが戦後営々として築いてきた「ソフト・パワー」や、「リベラリズム」の輝きがいっぺんに消えてしまったことは、僕にとっては成人して以降の生き甲斐を踏みにじられたような気がしています。
アメリカは、戦後統治の初期段階でいくつかの大誤算をしたのではないか? 一つは治安維持に必要なだけの兵力を投入しなかったこと、一つはイラク軍を解体し、将校、兵士の一部を反体制の方に追いやったこと、一つは徴兵制が廃止されたためもあってか、アメリカ人将兵の中にも「アメリカの価値観」を体現しているとは到底言えない者がいることを、数々の不祥事件の末に世界中に見せてしまったこと(米国の軍隊が「民主主義」や「自由」の価値観を体現したものに見えなくなった、ということは、これからの米国の海外での行動の効果をいつも減殺していくことでしょう)、そして権威主義的なイラク国民は民主主義などよりは、強権的な、そして「何かをくれる」指導者を求めているのに、そこを認識していなかったこと、そのため当初は米軍に期待を寄せていたイラク人の多くを敵に回してしまったこと、などだと思っています。

これから世界のガバナンスがどうなるか?
これは、僕にとっても最大の関心事です。
ただこの頃は、アメリカの後退や没落を論ずることが流行になっていますが、そこは僕はまだ留保をつけて考えています。
僕自身は60年代末のヒッピーの時代に成人しましたし、ニクソン大統領弾劾が始まろうという「民主的復元力を備えたアメリカ」の70年代初めにボストンに留学していましたから、今でも心の3分の1くらいはボストンにあるような、アメリカが好きな人間なのです(そのアメリカが変な風になってしまったから、怒っているわけです)。
だから希望的観測なのかもしれませんが、アメリカの力は本当にそんなに簡単に後退するだろうか、主要国の中で一番腰の強い経済パーフォーマンスを示しているのはアメリカではないか、他の先進国はその経済成長のかなりの部分を対米輸出に負っているのではないか、これからも人口が大きく伸びるのは先進国の中ではアメリカだけではないか、と思うわけです。
1996年僕がボストン総領事として久しぶりにアメリカ東海岸に降り立った時、そこには錆びた鉄橋、ひびの入った高速道路、そういったものばかりが目に付き、バブルの栄華のあとがまだ残っていた日本から赴任した目には随分みすぼらしく見えたものです。
その時僕も、「ああ、アメリカはこれから駄目になるかもしれない」と思いました。(このあたり、拙著「意味が解体する世界へ」(草思社)に描いてあります)
ところが、冷戦終結で軍需生産を失い、「錆びた海岸地帯ーーラスト・ベルト」という名まで頂戴したボストン周辺の東海岸は、ちょうどその1996年頃から再起を始めていたのです。
IT産業の立地で有名な128号環状線の外側には496号(だったかな?)環状線ができて、そこにもITや新しい金融、バイテク企業が次々にたちました。
今では日本でも活動している「フィデリティ」証券や世界一の信託銀行State Streetはボストンに本店を持っていて、それら金融企業は当時でも500兆円相当の資産を動かしていました。MIT卒業生が作ったヴェンチャー企業の利益を合わせると、世界で20番目のGDPを持った国家に相当するとも言われていました。ニューイングランドは重厚長大産業・軍需産業に代わって、金融、IT、バイオテク、医療機器、法務コンサルティングなどに活路を見出したのです。
あの国は欠点を見つけるとそれを直す力をまだ持っています。そのヴァイタリティーと競争精神は大変なものです。そして自由や民主主義を支える人達も、他のどの国よりも多数います。
まあ、あまり浮き足立たずに、現在起きている変化の本質を見て生きたいと思います。
安易に反米、日米安保解消の道を歩めば、価値観が相対化し、その中で強硬なナショナリズムが必ず台頭するでしょう。、軍隊内部の下克上の動きを抑えられず、最後にはマスコミも雪崩を打って戦争支持に突入していった、戦前の繰り返しになりかねません。
日本はコンセンサスの社会ですが、それは責任を取る者の不在、ポピュリズム、一部の者による操作の可能性をもたらします。
絶大な力をもった近代国民国家が、未だに封建時代の村落共同体の論理で立ち回っているーーー考え、改善していくべきことが沢山あると思います。

投稿者: 勝又 俊介 | 2007年01月17日 13:37

イラク情勢が相変わらずの激しい流動性を持っているなかで、この戦争の成功・失敗を判断するのは難しく、数十年後には、もしかしたら「成功であった」と総括できるようなものになっているのかもしれませんが(そうあってほしいという希望的観測が多分に含まれています)、アメリカにとっての成否もさることながら、とにかく、現地のイラクの方々、そして周辺の地域の方々にとって「幸せをもたらす
もの」であってほしいと切に願います。

そんな観点から見ても、そしてアメリカの立場から見ても、シーア派がここまで幅を利かせる現状が加速しているのは、決して歓迎できることではないはずです。
同じシーア派政権であるイランと、現在のイラクの結びつきが強まっていけば、アメリカにとってかなり暗いシナリオも想定できるでしょうし、今後の日本は、盲目的に支持・協力することそのものも、非常に困難になってくるはずですから、どうせ困難な道を歩むのであれば、今こそ、イランも巻き込んだ「日本としての外交努力」を見せていただきたいものです。
クルドの独立機運に対しても、民族としてのごく自然な成り行き」を、「クルドの独立が加速したらどうするのだ!?」という視点でとらえてしまわざるをえない現状は、現地に幸せをもたらしているかといえば、YESとは言えないでしょう。
自爆テロに身を投じている若者のなかでも、サウジアラビアをはじめとする「豊かな産油国」から来ている人は少なくなく、恵まれすぎた生活環境・高福祉のなかで、「オウムへと走った若者」と同じような存在は続々と生まれている状況下で、 テロに対する格別な緊張感を持っているアメリカへのテロは現時点では起きてはいませんが、今後、少しでも緊張感のタガが外れれば、いつでも泥沼へと突入していってしまうのではないかと思います。

アメリカが世界をリードしていることは間違いない事実ですが、アメリカ単独では、どの問題も解決しえないくらい、いまの国際情勢は一事が万事、複雑化しています。
アメリカの懐の深さを認識しているからこそ、我々はどこまでも厳しくアメリカの政策をウォッチしていかねばならないと思いますし、適切な表現かどうかは分かりませんが、やはりアメリカが風邪をひいてしまうと、世界全体に影響が出ることは認めざるをえませんので。

投稿者: 佐武寛 | 2007年01月29日 13:12

 何10年も前にアメリカにいたとき、ブッシュの親父が大統領に立候補していた。そのとき、アメリカ人が「ブッシュは危険な人物だ」と言っていたが、湾岸戦争が起きた。息子のフッシュ派、イラク戦争を起こした。9・11への復讐の延長だから理由など要らなかった。ユダヤ系ネオコンに操られていたのか操ったのかはわからないが、この戦争はヴェトナム戦争の二の舞になる可能性が、アメリカ国内の厭戦気分からもでているようだ。アメリカ人の血を流すに値するかという批判が、民主党の勝利をみちびいた。
 名誉ある撤退を賭けてブッシュはイラン・イラク人の武装勢力殲滅作戦に出たが成功の可能性はイラク人の反応にかかっている。シリア、イランとの対話というアメリカの民意を退けたのは失敗だろう。アメリカの民主主義が機能すればこの戦争を終結できる。米軍の死者の数によって決まるという構図になった。 

投稿者: 塩尻悟 | 2007年01月29日 20:22

政治の世界は人類が未熟だと言うことの証以外の何物でもない。アメリカがイラクがイランが北朝鮮がと言う前に人類が何時までも、必要以上の殺人を犯すという愚を演じているだけである。生き物を殺すことが許されるのは、食べるために必要なだけの殺戮であったはずである。そもそも人類が保存方法を知ったときから堕落が始まったと思う。必要以上に蓄えようとするからである。そこから権力が発生し、大量殺人へ繋がったと思う。戦争は大抵の場合、国を守る、国民を守ると言う大義名分を持ち、少数の兵士たちが犠牲になる。国民と言う多数を守るため少数が犠牲になることを許そうとしているのは、民主主義の最大の欠点だと思う。少数になる人はたまらない。これが分からないところに人類の未熟さがあり、必要以上の消費をやめることができないところにも未熟さがある。大量消費をやめ、必要以上に物を蓄えないことを知れば争いは減るのではないか。景気の上昇など必要でない。景気がよくなると言うことは消費が拡大すると言うことであり、消費が拡大すると言うことは資源が枯渇すると言うことである。私達の家の中にどれだけ不要のものが多くあるか誰でも知っているはずだ。政治にとって大切なことは景気の拡大より本当に必要なものだけを供給できるようにバランスをとることと、食べれない人たちが存在するなら、その人たちも食べられるように世界規模で考えることだと思う。自分のことだけを考えないようにすれば自ずと争いは減るのではないかと思っている。アメリカもイスラム諸国もきっとそれが分かる時代が来ると信じている。少数も大切にしよう。

投稿者: 河東哲夫 | 2007年01月30日 22:34

佐竹様のコメントに感謝します。
僕は、パパ・ブッシュはソ連崩壊の過程を司りましたが、ジュニア・ブッシュは米国の権威を世界的に後退させ、石油高価格にも本格的取り組みを怠ったことで、どうもソ連復活を助ける道を歩んでいるのではないかと感じてきました。
ベトナム戦争の時は、世界全体がまだ冷戦の中にあったので、米国の力と権威の後退が世界的混乱を生むことはなかったと思いますが、今度はわかりません。
その中で、このブログの世論調査欄で、「日米同盟を棄てて核武装、自主防衛の道」を選ぶ人がトップになっていますが、僕はこれに恐怖感を持ちます。
日本が満州事変に引きずり込まれていった経緯を知っているのか、その結果、日本国内がどんなに専制社会化したか、知っているのでしょうか。
戦争は、政府や役人や兵隊がどこかよそでやってくれるものではありません。我々自身の税金と血が行われるものです。
いきなり日米同盟を棄てるのは、もったいないと思いますが。
アメリカの子分のような気がして仕方ないのだったら、国連PKOにももっと積極的に自衛隊を派遣して世界の平和に発言力を確保すればいいでしょう。そして、北朝鮮の核に対しては、米国の核の傘は十分有効だと思います。ロシア、中国に対して核を持っても、あまり意味はないでしょう。

投稿者: 河東哲夫 | 2007年01月30日 22:45

塩尻様のコメントについて。
おっしゃることはよくわかります。少数者の利益を尊重するべきこともその通りだと思います。
ただ経済成長を否定し、「必要なものだけ作るよう」政府が監督するというのは、無理があるかと思います。
成長を否定すると、業容の伸びない日本の企業は次々に倒れるか、外国に買収されていくでしょう。その過程で大変な失業が発生します。
「必要なものだけ作る」ように経済を計画していたソ連は、ろくな消費財を作れませんでした。利潤動機以外のもので経済を動かすことには、人間はまだ成功していません。
それは、人間に聖人はまれであり、大多数が自己の利益を増やすことを根本的動機として動いているからです。これを教育で直すとしても、このような社会、経済を運営する司祭のような連中、つまり官僚がのさばり、彼らはソ連時代の共産党官僚のように特権を享受しつつ、大衆には粗悪な消費財を押し付けるでしょう。
「成長しない社会」---これは、日本を鎖国すれば2年くらいはもつかもしれません。でもその後は、日本の製品はどこの国からも締め出され、日本はどんどん貧しい国になっていくでしょう。
では資源の制約と環境問題はどうするのか? 日本は世界でも一番、資源の効率的な使用と(デパートの包み紙など無駄はいっぱいありますが)、環境問題の改善に成功した国です。まず他の浪費国に対策を取ってもらわないと、日本だけがお人好しに経済を縮小させることになるでしょう。資源の制約と環境問題は、資源再生と技術で克服するしか、今のところ対策を考え付きません。

投稿者: way | 2007年02月09日 03:01

>このブログの世論調査欄で、「日米同盟を棄てて核武装、自主防衛の道」を選ぶ人がトップに
悪戯ではないのでしょうか?
諸外国にも影響力のあるサイトで、「日米安保を解消し、核武装・自主防衛を」といった、誤解を受けかねない端的な内容が最多票を取得していることに恐怖を覚えます。
できれば、重複投票がないかどうか調べていただけないでしょうか。

投稿者: 河東 | 2007年02月09日 22:27

重複投票ができないようになってはいるのですが、コンピューターを良く知っている人はできるでしょう。そのやり方を調べることもできますが、それはまた後で。

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