Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2008年04月11日

ロシア大統領選挙寸描

今回のモスクワ滞在は偶然、大統領選挙に当たってしまった。
政府の「選挙監視団」に入ってもなかなか真相はわからないので、友人にくっついて投票所をのぞきに行った。

見ていると1分に一人くらいのペースで投票している。1時間で60人~100人。10時間でも最大1,000人。まあ、不在投票があるから投票率が70%近くにいくのでしょう。
今回の選挙はメドベジェフが当選することが最初から皆にわかっていたし、それでも「投票に行け」、「メドベジェフに投票しろ」と職場のボスがうるさいものだから、嫌気がさしているインテリが多かった。それでもルシコフ市長は、モスクワ市での投票率が低かったり、メドベジェフの得票率が低かったら、任期途中で更迭されるだろうとの観測がもっぱらだったから、随分頑張った。

でインテリは、「しょうがないから投票へ行くけど(投票所に行ったかどうかは当局にわかる)、こうしたやり方に抗議する意味で、ジリノフスキーに投票する」とか、「投票に行くのは、用紙にいたずら書きして投票するため。そうしておけば、あとて投票用紙を悪用することもできなくなる」とか言って、投票所に出かけていった。

投票は、用紙をスキャンナーに通すやり方に変わってきた。デジタルで、あっという間に集計してしまう。もっともデジタルだから公正だということには全然ならない。集計ソフトにバイアスを埋め込んでおけば、結果はいくらでも操作できる。西側から行った選挙監視団は、そのあたりをちゃんと事前にチェックしたのか?

大統領選の前の2月28日、テレビを見ていたら、大統領選候補者のディベートと称する番組に出くわした。
ちょうどアメリカで丁々発止のプライマリーがたけなわだった頃なので、比べてみるのも面白いと思って見たが、ディベートと言うよりは、ディベートのパロディー。役者ジリノフスキー自由民主党党首の独壇場だった。

メドベジェフは自分を他の候補者と同水準に下げたくないので、出てこない。だからジュガーノフ共産党党首、ジリノフスキー自民党党首、そして泡沫候補と言われたボグダノフ民主党首の3人。
ボグダノフは200万票の署名を集めたから大統領候補になれたのだが、いざ投票になると100万票も集められなかった男で、そこらへんは一体どうなっているのだろう。
いずれにしても彼はジュガーノフ、ジリノフスキーに批判票が集まるのを防ぐ当て馬で、だから「野党」候補だったカシヤノフが苦労して集めた署名を根掘り葉掘り当局に審査された挙句、立候補を却下されるようなことはなかったのだ。

でそのボグダノフ、テレビ慣れしていないようで、ジリノフスキーを非難する原稿を読み上げ始めた途端、百戦錬磨のジリノフスキーの餌食になる。
「お前は犯罪分子で、選挙をかく乱するために当局に送り込まれたのだ」とか、普通だったら名誉毀損になるようなことを平気でぽんぽんぶつける。ロシア版浜幸を見ているようで小気味がいい。
ボグダノフが反論しようとして息を吸い込むと、そこにすかさずジリノフスキーが割り込むから、ボグダノフはフグのように膨れるばかり。何も言えずに立ち往生するうち遂に持ち時間切れのゴングが鳴って、頭にきた彼はそのままスタジオを飛び出てしまう。
残ったのはジュガーノフとジリノフスキーという、90年代初期から野党大統領候補を「務めている」歴戦の野党候補者。寄る年波には勝てず、前髪には白いものもまざってはいるものの、政見は一応語る。そしてこの2人は互いにいたわりあうかの如く、骨を断つような悪口は言い合わない。

3月1日土曜の夜、つまり大統領選の前夜、モスクワ南部、モスクワ川のほとりの雀が丘にそびえるあの広壮なモスクワ大学の建物の真正面に、高さ20メートルはあろうかというスノーボード・ジャンピング世界大会用の台がしつらえられた。
夜中の10時まで、もう若くはないモスクワ大学の建物全体をゆるがせる大音響の音楽とともに、ジャンピング大会が繰り広げられる。僕の部屋はその真ん前にあったからたまらない。2時間くらい、「音楽按摩」にかかっていたようなものだった。
テレビで見ていると、プーチン大統領とメドベジェフ候補が連れ立ってやってきて、大会を面白そうに見ている。大統領選前夜だというのに、何たる余裕。

大統領選の日の夜。開票結果が明らかになっていくにつれ、ジリノフスキーはテレビで憮然たる表情。
「これはどうしたことだ。俺は票の30%は取ったはずなのに。」。ジュガーノフはもう満足して、「地区によっては40%の票を取った。成果はあった。」 (あとで言い直している)

クレムリン前の赤の広場では、昔山本寛斎が20万名は集めたというビッグ・ショーをやったことがあるが、その同じ場所でロック・コンサートが開かれた。当選したばかりのメドベジェフ、そしてプーチン大統領が熱い挨拶をする。プーチンは、「市民社会を建設するのだ。欧米に並び、追い越すのだ!」と悲愴な声で訴える。

メドベジェフはこれまで、「頼りない」とか「学生っぽい」とかの評価を受けてきたが、大統領選を前にしてイメチェンをはかった。選挙集会とかロック・コンサートに出てくる時は、黒い皮ジャンで身を固め、拳をふって体を揺すりながら大股に舞台に歩み出る。
それは果敢な決断力、力強さ、オープンさ、そういったイメージを創りだす。西側やロシアの一部のリベラルが期待をこめて語るような「リベラル」一筋縄ではいかない男だ
彼は大股に歩み出るとマイクを握って、「ロシアよ。前進せよ! ラッシーヤー、フピリョット!」と大声で叫んで拳を突き出す。

かと思えば、インテリを相手にした集会では本当にリベラルなことを言う。これは政治家として当然のことで、要するに聴衆に合わせ、選挙民に合わせてパフォーマンスをしている面が大きい。もちろん本人の趣味はあって、どちらかと言えばリベラル、合理主義なのだろうが、TPOで如何様にでも変えるということだ。

大統領選翌日はロシア正教会の祭日だった。それはマースレニツァと言って、春の訪れを断食で祝う前にブリヌイという薄いパンケーキをたらふく食べる祭り。西欧で言えばカーニヴァル、中央アジアで言えばナヴルースの祭りを思わせる。みんな、このマースレニツァのことばかり話題にしていた。口直しといったところか。
インテリが何のかのと言ったって、西側のマスコミがロシアをどう批判したって、今のロシアではメドベジェフを選んでおくことが大多数の国民の利益に適っているのだ。

大統領選の直後、政治家達が結果をテレビで議論してみせたが、彼らの顔にはどことなく苦笑、冷笑が浮かび、論評しても仕方ないことを自分は論評してみせているのだ、演技しているのだといった風情がありありとしていた。
彼らは、プーチン大統領の「8年間の素晴らしい成果」を口を揃えて誉めそやす。
8年前彼が就任したばかりの頃、新参者の彼は軽視され、政治家を人形にして風刺する「クークルィ」という番組でも、随分馬鹿にされていた。それが今では・・・・・


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