Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界文明

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2023年5月26日

人手不足は成長の母 中世西欧のペスト禍の実例

(これは24日発刊のメルマガ「文明の万華鏡」の一部です)
 この頃、駅前のタクシーが消えて閉口している。15分、20分待つこともある。運転手に聞いてみると、「人手不足。コロナで客が減って、運転手は基本給しか出なくなりました。一月15万も出ませんでしたからね。それじゃ生活できないんで、みんな辞めちまいました。政府は補償金をくれたんですが、これは会社のお偉いさんたちが取ってしまって、運転手には来ないんですよ。コロナも下火になりましたが、もうみんな戻ってこないでしょうね。今は若手でタクシー運転手やろうってのも、いませんし。きついから」ということでした。

 どこも人手不足。でもコロナの時に、泣く泣く辞めていった人たちは大勢いるはず。彼らはもっといい職を見つけたので、もう戻ってこないのだろうか?

 「人手不足が日本経済成長の足を引っ張る」? こう言われると、アマノジャクが頭をもたげる。「そうじゃない。人手不足は経済成長の母だ」と言いたくなる。だいたい、僕の知っている世界の国で、生活水準が高い北欧諸国やドイツなどは、人手不足の最たるものだ。

それに、歴史をひもとくと人手不足が繁栄を導いた実例がある。西欧では14世紀末からペストが猛威を振るい、人口の半分以上がやられたと言われる。確かにそれで、経済活動は一時大きく止まったが、落ち着いてみると、経済はいい方に回りだしたのだ。財産を相続する者の数が減ったから、遺産が一人に集中して金持ちが増えた。人手が足りないから賃金は上がる。これで、ペスト後の15世紀の西欧は経済が大きく成長するのだ。筆者がコロナ禍の間書いてきた、西欧の経済発展史(未完・未刊)から引用してみる。

――十五世紀半ば考案された活版印刷はそれまでの筆写に代わるものだったし、鉱山では新式の水力ポンプが考案されて、少人数で深くまで採掘することが可能となった。フッガー家などによる南ドイツ鉱山での銀採掘は十六世紀初頭、頂点を迎えている。またオランダは少ない乗組員でも大量の貨物を運べるフリュート型帆船を開発して、世界の海運を牛耳るに至る。
ガラスや織物の生産が盛んになる。ブルージュでは、ペストで止まっていた羅紗の製造が再びはじまり、リヨンではイタリア人絹織工を招いてその繁栄をはかり、パリでは印刷業が一四七〇年に始まる 。
国王たちは平和を保証し、銀行家たちを招き、その取り引きを保護し、ぜいたく品、金属、香料の取り引きを支配して国家の独占にする。都市経済は国民経済に拡大し、自給自足から輸出志向へと段階的な進歩を遂げていく。
ドイツとイタリアの都市では当時水道の発達が著しい。ピッコロミーニという人は一四五八年、「正直に言って、ドイツ以上に美しく気持ちのよい都市を持つところはどこにもない」と書いている ――。

日本では、介護や保育園など働く人の手取りをもっと良くすれば、それだけ良質の人材が集まるだろう。賃上げの分は、料金引き上げ、政府からの補助金で賄う。

それに「生成AI」の普及で、人手が余る部門も出ている。近年花形だったソフト・アプリ制作部門もそうだ。AIに「こういうアプリを作ってくれ」と指示すると、見本を作ってくれるのだそうで、こうなるとソフト・アプリ制作企業は人手の多くがいらなくなる。必要なのは、AIを使うことのできる高度のエンジニアだけなのだ。だからこそ、米国のIT大手がこの数カ月、一万人、何千人の単位でレイ・オフをしているのだ。
人手不足どころか、これから失業が増えてくるかもしれない。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/4261