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世界文明

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2020年2月24日

アジアの時代 終焉へ

(これは2019年12月、日本版Newsweek誌に掲載された記事の原稿です)

 この前、ある英国の学者が後悔気味に言っていた。「これまで欧州はアジアに上から目線で接してきましたが、今はアジアが世界の中心。欧州・アジアの協力が大事」だと。そんなことを今言っても、もう遅い。欧州を相手にしないという意味でなく、アジアも沈みつつあるからだ。

 「アジアの時代」は、日米欧の投資を受けた「アジアの竜」、つまり韓国、台湾、香港、シンガポールの台頭で始まった。そしてそれは、冷戦の終結で、人口大国の中国が加わることで、一気に勢いを増す。欧米の金融機関は相次いで中国経済の明るい見通しを書きたてて、中国の株価を吊り上げては儲けるビジネスを展開。中国の成長は西側実業界の利益とぴたりと一致し、急増する中国での投資・消費需要は、西側諸国にとって成長のエンジンとなった。そして2000年代、西側から中国に流入したカネは、中国への直接投資と、その結果としての貿易黒字(中国の輸出は今でも40%程度は外資企業による)、毎年合計30兆円以上に上り、中国にとっての成長のエンジンとなった。「アジア」は、後進性の代名詞から輝く未来の星へと一変した。

しかし中国は、西側にカネや技術をまだ依存していることを忘れて、世界で我を通し始める。他者から得た強さを自力と勘違いした者が滅びる話は、昔話に数多い。米国、そして世界の多くは中国への警戒心を高め、トランプの高関税は、中国の成長のエンジンであった対米輸出を激減させた 。中国はもはや西側諸国への輸出製品を組み立てる場所としては安全でなくなり、中国企業ですらベトナム等へ流出し始めている。

中国の成長率は高齢化社会のつけを負えない程の率に落ち、政府、地方自治体、企業の債務は増える一方、「一帯一路」の鳴り物入りで発足したアジア・インフラ開発銀行も、この頃では音沙汰を聞かない。中央アジアを通って欧州に通ずる鉄道を2,3本作ると豪語していたのに、新しい路線は一つもできていない。

中国に代わるべきインド経済も、この頃は勢いを失っている。皮肉なことに、インドの誇る民主主義、そして私的所有権への保護の強さが、法制度の乱れ、そして土地・不動産の買収困難といった問題を起こして、2000年代中国のような外資の大量流入を妨げているのだ。 

そしてASEAN諸国の多くは、「経済発展は民主主義をもたらす」という期待を、残念ながら裏切っている。王政の権威主義、地主=小作制に由来する根深い格差と利権闘争。経済の発展は、こうした構造を打ち破れずにいる。

かくて、「アジアの時代」は幻と消える。「これからの国際政治の中心もアジア」ともてはやされてきたが、中国が沈めば米国もアジアから身を引くだろう。もともと、中東におけるイスラエルのような、米国の関与を絶対につなぎ留める存在は、アジアにはないのだ。

この中で、日本はどうする? 経済面では、アジアに代わる成長のエンジンを探さねばならない。それは、米欧諸国も同じことなのだが、これまでの成長が国際的な格差を利用した――途上国の低賃金労働でモノを組み立て、それを販売・輸出して利益を上げる――ものであるなら、これからは自国内部の格差を成長のエンジンに転化できないものか。例えば、低所得層に国内の余剰資金を分配して需要を喚起し、それを成長の良循環に結び付けていくなど、どんなものだろう。

国際政治の面では、日本はアジアでは珍しい民主政治を守ることを主眼に、バランス外交を展開することになるだろう。近世西欧に発するヒューマニズム=人間中心主義、そしてそれに基ずく民主主義は、アジアでは珍しく、地主―小作の関係が薄かった日本にとって、押付けられたものではない、自分本来のものなのだ

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