Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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2010年9月25日

ロシア極東をみんなで発展させよう

今回ウラジオストックに行って、好感をもって帰ってきた。ロシア極東を米国、韓国、中国などとともにもっと支えていったらいい――こういう思いだ。
そこで、日本とロシア極東の間の関係をここでさらっておきたい。

RIMG0094.JPGウラジオストックと言うと、日本海のかなたの極地のように思えるのだが、富山県で売っている上の逆さま地図では地中海に面するアレクサンドリアのように通商上枢要な位置を占めている。

ロシアがこの地に出てきたのは近々、わずか1860年のことだが(北京条約で清から沿海州を割譲させたのである)、それまでも北海道周辺のアイヌはアムール川周辺地域と交易をおこなっていたらしい。

ロシア革命直後、日本は米とともにこの地方に「シベリア出兵」を行った。当時のモスクワ革命政府は日本と直接対峙するのを避けるために、極東を独立した共和国に変えた(極東共和国)ことがある。

高度成長時代の日本は、ソ連にとって常に最上位の貿易相手となった。日本はソ連の資源を求めて、1970年代から一連の「シベリア・極東開発」案件を展開した。それは森林資源開発、ウランゲル港建設、原料炭開発、そしてサハリン石油・天然ガス開発などに関するもので、日本輸出入銀行(現在の国際協力銀行)はおそらく合計150億ドル以上の融資を行ったであろう。このうちサハリン石油・天然ガス開発は昨年遂に稼働開始し、ロシアからの天然ガス輸入は日本の天然ガス需要の7%程度にまで至ることが予想されている。

ソ連崩壊後、これも下火となったが、中古車の輸入を中心にロシア極東部と日本の経済関係は大きく進展、1998年には10億ドルに満たなかったが、2008年には70億ドルとなった(2009年には40億ドルに下落)。

日本からの中古車は2008年には年間40万台も輸入され、ロシア極東部で約2万人分もの雇用、間接的には15万人~20万人分もの雇用を創出していたと推定されるが、輸入関税の引き上げでその数は激減した。

「東シベリア・太平洋」石油パイプラインが2014年には完成を予定されている。シベリアの石油は既に鉄道で太平洋岸のコズミノ港に運ばれ、輸出が開始されている。日本の商社もこの石油に大きな関心を示しており、品質、供給量かつ積み出し能力が安定すれば、日露間での大きな貿易品目に育っていくだろう。

またサハリンの石油・天然ガス輸入はこれから益々本格化し、日ロ貿易額を押し上げて行くだろう。日本の技術・資金両面にわたる協力で、ガスプロムがサハリン南部に世界でも最大級のLNGプラントを完成させたことは、サハリン天然ガスの輸出先を広げよう。なお、日本は多くの工業生産を中国等に移転しており、エネルギー需要は落ちているが、シベリアからの石油・ガス輸入は他の供給元に代替する形で伸ばしていくだろう。

日本が必要とするのは、石油・天然ガスだけではない。高度化した日本の工業にとっては、銅、クロム、チタン、ニッケル等の非鉄金属や原料炭に加えて、稀土類、稀金属の供給確保も必要となっている。またカザフスタン等で日本企業が得たウラン鉱石をロシアで濃縮して日本に輸入するプロジェクトが始動しようとしているが、ロシア極東はこれにも参画できるだろう。

昨年、シベリアの石油が米国カリフォルニア州にも輸出されたことは、大きな意味を持ち得る。アラスカ原油増産が困難になった場合、米国西岸はシベリア原油にますます大きな関心を示すかもしれず、そうなると米国もこれまで無関心だったシベリア・極東地方の開発に前向きになってくるかもしれないからだ

日ロ両国政府は、ロシア極東部開発における協力を進めようとしている。日本政府は2007年6月、「極東・東シベリア地域における日露間協力強化に関するイニシアティブ」を発表し、エネルギー、運輸、情報通信、安全保障などの面での協力を強め、地域間の交流も促進する意向を確認した。日露政府間委員会の貿易投資分科会は本年3月初めて次官級に格上げされ、極東・東シベリア地域のプロジェクトについても進捗状況のレビューを行っている。

本年11月には横浜で、来年秋には米国で、そして2012年にはウラジオストクでAPEC首脳会議が開かれることも、ロシアと東アジア経済圏および米国との経済関係を有機的なものにしていく上で、大きな意味を持っている。ロシア極東部と日本の間の関係も、アジア太平洋地域全体の安定の維持と経済成長を実現していく大きな構図のなかで考えて行くべきであろう。

日本とロシア極東部の間の関係の現状は、その可能性に見合ったものになっていない。だが相手を非難するだけでなく、問題点は着実に具体的に解決していかねばならない。
まず貿易については、ロシア極東に多数の港があるにもかかわらず、その利用が少数の株主に牛耳られている例が多いようであり、また極東地方の税関のキャパシティーが小さいことも以前から指摘されている。これらは、極東部がロシアの太平洋部における玄関となることを妨げる。

ロシアでは、経済開発における政府の権限が日本よりはるかに大きい。日本では富の再配分において政府は非常に大きな比重を持っているが、生産・経済活動は各企業が政府の助けや介入なしに自由に行う。このため、ロシア側が何度となく日本側に提示した「極東部開発案件リスト」にしても、日本側は相い競争する企業がばらばらに検討するだけで一向に進まない。個々の企業にとっては、引きあわない案件が多いからである。

1970年代、「シベリア開発」案件を進めたときは、経団連が業界を調整する機能を果たした。現在同じ役割を経団連に期待することはできまいが、ロシアが完全に市場経済化する日を待っていてはらちが明かないので、日本側も旧ソ連圏諸国を相手にする場合には業界を調整するフォーラムを何らかの形で設定するべきである。そして日本側が関心を有する案件については、ロシア政府側からも十分な負担分担を得るため(そうでなければ採算が取れない)日本政府を含めた協議メカニズムを作る必要がある。

また日本海に面する日本の地方自治体は、ロシア極東部に産物を売り込むため個々に努力しているが、ロシア極東部の人口、バイヤーの数は限られているために空回りをしたり、望ましい販売価格を提示されない例が多い。これは日本側の問題であるが、農協と商社が協力するなりして、効率性の高い貿易ができるようにするべきである。

中世の東南アジアやムガール帝国などに所在した無数の「港市国家」は、自由な通商を基礎に自由で豊かな社会を建設した。ウラジオストックも港湾都市であることのメリットを活用して、東アジアにおける確固たる地位を築いていってほしい。

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