Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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2010年8月13日

忙しい方々のために、結論のいくつかを並べておく。詳しいことはあとで掲載する詳しい「結論」を読んでいただきたい。

(イ)デンマークが日本より経済成長できるのは・・・①企業の低負担:企業は若干高めの賃金を払うが、法人税は日本より低く、さらに年金・医療など社会保障の一部を負担することもない。
②国民が貯蓄より消費に向かうよう、諸制度が作られている。

③企業が低負担であることから外国の直接投資が入ってくる。また通貨のクローネがユーロにペッグしていることも外資を入りやすくしている。従ってデンマークには大量の間接投資が流入して経済を刺激している。
④産油国であり、石油・天然ガス輸出国である。

 この要因がなかった1970年代、デンマークは対外公的借り入れでその高福祉を賄っていた(当時国債累積額はGDPの約70%に達していた)。
 
 (ロ)高福祉が可能なのは・・・
①個人所得税が高い累進課税であり、付加価値税は25%にもなること。
②人口規模が適正な地方自治体単位で社会保障を担当しているため、小回りがきくこ
と。

③社会福祉メニューの中で現役層向けのものが金額ベースで半分以上に及ぶため、「高福祉・高負担」への不満が出にくいこと。
④1970年代から国民総背番号制が導入されていることが、社会保障制度の運営を大きく助けていること。

 (ハ)世界金融危機後の不調
上記モデルは盤石ではない。リーマン・ブラザーズ金融不況でデンマークはその輸出を大きく失い、GDPは減少した。2010年5月政府は、大幅な緊縮政策を発表するに至った(例えば失業保険支給期間を、これまでの4年間から2年間に短縮)。

 (ニ)日本ができること、するべきこと
デンマークの高負担、高福祉の制度は、日本でそのままは使えない。当面日本がその経済再活性化、社会保障システム改革のためにできること、するべきことは、次の諸点ではなかろうか。
①需要面についての政策をしっかりしてほしい
最近、何人かのエコノミストが指摘しているが、日本では生産については政策が揃っているが、需要についてはこれがない。
成長率を増幅させる効果の高い需要・消費(消費が投資・生産を誘起し、それが賃金増加を通じて更に消費を増やす良循環を生むようなもの)が増える方向で社会を誘導し、その条件整備のために予算を振り向ける。

②個々人が、「自分はこういう生活がしたい」という目標を持つ
日本人の戦後の生活では、当面のモデル、目標があった。今、多くの人が現在の生活に満足してしまっていることが、日本における需要不足の原因の一つになっている。広い家、落ち着いた景観、人口は少なくても維持される経済の活気などをわれわれが目標として共有し、それを実現する方向で政府や個人のカネを使っていったら、これまでのようなバラマキではない、意味のある需要喚起ができるだろう。
目標、モデルは、政府が上から与えるものであってはならない。商業主義が絡んでもかまわないので、「それがエチケットで、皆さんそうしています」という雰囲気が社会にみなぎった時に日本人は動き出す。

③「学校卒業後は自立」を徹底させる
平等性に重点を置くあまりに、「助けてもらうこと」、「平等性を確保してもらうこと」に馴れた人間を社会に送り出すのはやめるべきだ。「学校で学ぶのは、社会で生きていけるようになるためだ。学校は皆に平等に教える。だが学校を卒業したら、あとは自力でやる」のが社会のエチケットなのだということを、徹底してほしい。

④勤労意欲を持つ女性・高齢者を支援する体制を
少子化とか人口減で、将来への希望を失ったり、外国人労働力の移入の大幅緩和を主張したりすることは必要ない。女性、引退者を活用できる。

⑤労働分配率を上げる
法人税を下げる、下げないに関係なく、雇用者の賃金は上げ(労働分配率を上げる)てもらいたい。まず個人の取り分を大きくしないと日本では需要が十分生み出されず、従って投資をしてももうからないので、銀行から資金を借りる企業も少なく、銀行は徒に国債を買いこむしかないという、情けない現実が今でも日本を支配しているのである。
この20年間、日本の企業は賃金水準を上げないことで、中国などの低賃金に対抗してきたが、中国での賃金水準は昨今のストライキ続発に見られるように急速に上昇している。日本が賃金水準を上げても競争力を失わない時が来た(8月現在、円高の亢進でそれもまた危うくなってきたが)。労働分配率を上げて個人消費を拡大し、それによって投資増加も招く良循環を作り出すことが可能になった。

⑥高年層から現役層への貯蓄移転を促進する策
日本における個人の貯蓄は高年層に集中している。これを国債で吸い上げて消費に回すようなまわりくどいことをするよりも、高年層がこれを自ら使えば有利だ、と思うような環境を創れないものか? 子供の世代に家を贈った高年者には医療の自己負担分を大きく軽減するなど新しい措置を加えるなりして、「将来の世代に財産を譲るのが美徳だし、得なのだ」という雰囲気を社会に創っていくべきだ。

⑦地方経済の活性化
政権交代も終わったのだから、公共投資を少し復活させてはどうか。既存のインフラの修理、改善がこれから大変な需要になってくる。それに都市乱開発のあとを再開発し、住みよい環境を創るための投資も必要だ。

そしてこうしたことの多くには、地元住民の創意、知事・市長のマニフェストを重視することで、住民自身の意欲をかきたてるのだ。
農産品、地場産品の輸出は、ほとんど進んでいない。量が安定し、利益があがり、集金がしっかりしていないと、農民も業者もとても本腰を入れられないし、何よりも今のやり方で十分食べていけるので、面倒でしかもリスクのあることはやりたくない。ここに最近落ち目の農協の使命がある。農協が地元をまとめ、融資も行う。そして商社などと提携して、農協が慣れていない外国での仕事をやってもらう。商社も人手が足りないので、県などが商社のOBを嘱託として雇って、海外の商社事務所などにその県のことばかりやるスタッフとして出向させる体裁を取る。

⑧増税か国債か――日本人の「国民負担率」は本当に低いのか?
今年のような野放図な新規発行が積み増しされていくと、財政は崩壊し、高率のインフレが社会を襲う。しかし、「だから増税だ。日本人の国民負担率(税+社会保障負担分をGDP値で割ったもの)は他の先進国に比べて低いのだから、増税できるのだ」と言われると、ちょっと待ってくれ、と言いたくなる。それは、次の諸点に基づく。

日本の国債が一度に「取り付け」に会うことはないだろう
★「日本人の国民負担率が低い」(2008年度で40.6%)というのは言葉の魔術で、われわれの生活実感にまったくあわない。独立行政法人、特殊法人がわれわれに課している高速道路料金、視聴料、自動車免許関連の諸料金、そして日本に独特の高額の生命保険料を合わせると、オランダ、ドイツなみの60%にはなるのでないか(因みに世界一はデンマークの71.7%(2007年)。
つまりこれ以上の負担をすればわれわれは顎が上がる。既存の負担の枠内で付け替え、あるいは合理化をはかることが基本となるだろう。
デンマークの場合、高税率などで国民の貯蓄を吸い上げ、それを社会保障に回している。日本の場合、国債で国民の貯蓄を吸い上げ、それを社会保障に回している。
社会保障は、税でやろうが国債でやろうがどちらでもいいのだが
、景気維持、財政規模膨張への歯止めという観点からも、日本には今のモデルの方がいいだろう。

(ホ)「社会保障を充実させて内需を拡大」は可能か?
社会保障を充実させることで内需を拡大するのは、もちろん可能だ。しかし経済を拡大するためには、社会保障以上に効率的な公的投資の対象があるだろう。

(ヘ)社会保障体制の合理化もし社会保障への支出増をどうしてもやるのなら、その前に次のことをやってほしい。

①現役世代への保障給付増大
現在の国民年金制度は、若年層に不当な負担がかかっており、改革が必須となっている。年金受給層のうち、一定水準以上の年収を有する者は、国民年金受給を一時停止する等の制度を設けるべきである。その場合、所得に対しては税率を下げてもらいたい。

②公的部門の労働組合の財務・活動の透明化
社会保障システムに勤務する公務員・半公務員には、きちんとした待遇が与えられるべきである。しかし、労組が前面に出てコンピューター画面に向かう時間を制限しようとしたり、中央の諸省庁の地方出先機関で働く膨大な数の国家公務員の削減に反対する等、民間企業にくらべて明らかに楽な待遇を求める場合には、人事院、国会、マスコミ等で議論されてしかるべきである。政治家、官僚にならって、組合幹部の収入もガラス張りにされるべきである。

③社会保障の一部を民営化
巨大な給付システムを、役人が業務として行うのはある意味では滑稽になってきている。税を国民にまた還元するくらいなら、最初から徴収しなければいいではないか。
自分で十分稼いでいる人間のために、政府が莫大な人員と費用をかけて国民皆保険、国民皆年金のようなことをやる必要はあるのか?

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