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経済学

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2014年12月10日

総選挙までするなら アベノミクス2.0 を

今回の選挙は大義がないとか言われるが、要するに消費税増税延期を財務省の抵抗、野党による批判、自民党内で政局に使われる危険を抑えるため、同時に長期政権を敷くためということで、選挙と言うより安倍政権に対する信任投票、「アベノミクス」に対する国民投票みたいなものだ。日本では、憲法改正の時を除いては国民投票ができないから(法律がない)、野党が弱体なのにつけこんで、総選挙を国民投票代わりに使おうということになる。

安倍政権がこの先過度の国家主義にふれたり、対米中関係をこじらせて漂流を始めたりしないのならば、長期政権化を支持するが、折角選挙という大がかりなことをやるのだったら、この機会にこれまでのアベノミックスのうまくいかなかったところを機動的に修正してもらいたい。この頃隣の大国・中国が世界中で売りこんでいる、かの孔子様も、「君子、過ちては則ち改めるに憚ること勿れ」とおっしゃっているではないか。

アベノミックスの基本は成長回復、つまり投資と消費を増やすということにある。投資を増やすためにはデフレではなくインフレ気味にすれば企業の利益が増えて投資を増やすだろうという見立てで、2014年中に消費者物価上昇率を2%にまで上げる目標をかかげた。そして企業への銀行融資を増やすため、日銀が銀行保有の国債を大量に買い上げて、銀行に資金を供給した。そして消費を増やすために、企業に賃上げを呼びかけたのである。

ところが4月の消費税増税は国民の消費意欲を大きく減退させ、7-9月に至ってもGDPは年率換算で1.6%減と不振に沈んだ。それで、今回の総選挙となったわけだ。だったら、無理無体にアベノミックスへの信を問うのではなく、間違っていたところを点検して修正の方向を打ち出してもらいたい。今は野党が弱いから、方針を修正しても責任を問われないだろう。アベノミクスが間違っていたところとして、僕が思うのは次の点だ。

1) 消費者物価指数が思うように上がらないのは、この指数を計算するための対象になっている品目(バスケット)が工業製品に傾きすぎているからでないか。安倍政権になって30%はすでに上がった感のある魚介類、一時価格が跳ね上がっていたガソリンなどは、このバスケットの中に入っていない。工業製品の値段はこれからもずっと下がっていくので、これを基にした指数を上げるために無理な金融緩和などされたら、円が下がって輸入品の値段が跳ね上がり、消費者はたまったものではない。景気を良くするために価格を上げるという政策が、消費を冷やして景気を下押しするというねじれが生じているのだ。指数のバスケットの中身を変えるか、政策目標を別の指数に変えてもらいたい

2) 企業に対する銀行の融資がいっこうに増えない。銀行は手持ちの国債をずいぶん日銀に売却したが、その代金は企業への融資に回らず、銀行の日銀口座に眠っている。なぜこういうことになるかというと、もともと日本では企業の利益率が低い上(終身雇用制で高年齢の社員が多数残っている。また大銀行がいくつもあって、それぞれがメイン・バンクとなって異なる大企業を盛り立ててきたため、一業種に大企業がいくつもひしめきあって過当競争を展開している)、中小企業への融資においては銀行側に目利きのできる者が少なく、(と言うか、官僚主義になってしまって)リスクを取ることに極度に慎重になっている。

前者1)は、政策を変えれば対処できる。後者2)は、日本の社会の在り方を変えることを意味するので少々骨が折れる。日本は終身雇用で「最大多数の最大幸福」(ジェレミー・ベンサム)を実現し、国民の90%以上が自分を中流と認識するような結構な社会を作ってきたわけだがーー大企業に依存した社会主義のようなものだーー、今は少しそれを変えないと経済が駄目になり、元も子も失ってしまう、しかし誰もリストラの対象になりたくはない。こういう状況にあるからだ。

ではどうしたらいいかと言うと、工業製品の価格を無理に上げようとするのではなく、工業製品の価格を下げる、つまり企業の合理化を助ける投資を奨励するような政策が必要なのだと思う。一律法人税を下げるというようなバラマキでなく、終戦直後の日本がやったように、近代化・効率化投資に対しては加速償却を認めるなどの、ピン・ポイントの企業減税をやってもらいたい

そして、銀行は融資審査体制を強化するべきだ。僕の地元の西武信用金庫などは、早くから人口減、需要減、デフレを見越し、企業への貸付・支援業務を強化してきた(窓口も午後5時まで開いている)。多数のアドバイザーを抱えて、こまめに地元企業を足でまわっているようだ。

終身雇用制は、良い面ももちろん持っている。社員の企業への忠誠心が高まるからだ。他方、窓際族は忠誠よりタカリとなって、企業の収益を圧迫する。終身雇用制による所得保障と、企業の効率性、その両方を確保できるような方策を考えたい。本社員の解雇条件を緩和するとか(そのためには、本社員の解雇をほとんど不可能にしている裁判所判例を、実質的に変更するような立法が必要になると思う)。

まあ、下手に転職を促すと、やる気と独創性のある人材ばかり流出し、イエスマンとタカリしか残らなくなったりするから、難しいのだが。北欧では失業保険期間が2年ほどあり、その間に転職のための研修をしたりするのだが、それだけでうまくいくとも思えない。

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