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政治学

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2017年2月25日

安全保障研究ギルドMK3発足 

今度、下記の同人3名をかたらって「安全保障研究ギルド MK3」なる団体を立ち上げ、その新しいメール・マガジン「軍事から見た世界主要動向」を本日発刊しました。当面のアウトレットはここのみですが、他にもベースを提供して下さるところがあれば、リンクを設定願います。

軍事から見た世界主要動向 創刊号

(2017年2月25日)


安全保障研究ギルド "MK3"

 ギルド発足に当たって:

冷戦終結以降、日本が世界を自分の目で見て、自分で生き方を決める必要性が益々増大している。そして世界は政治・経済・社会等、複眼的に分析するべきものだが、日本ではそのうち軍事的視点が特に弱い気味があった。安全保障を日米安保に大きく依存し、安保政策と言えば基地対策であった時代が長かったからである。その弱点を補うべく、次の4名の同人が隔月にこの「軍事から見た世界主要動向」を発行することとした。MK3(エムケースリー)とは、以下の同人の頭文字を取ったもので、いずれからも補助金、助成金の類を受けていない任意団体である。

 (同人名:あいうえお順)
  河東哲夫 Japan World Trends代表(欧州及び総括)
      (個別のサイトはwww.japan-world-trends.com)
  小泉悠 未来工学研究所(ロシア及び周辺)
  近藤大介 講談社週刊現代編集員(中国、朝鮮半島)
  村野将 岡崎研究所研究員(米国)

目次
1.総括(文責:河東、村野)・・・3
1) 米国:「第三のオフセット戦略」とトランプ
2) 中国:軍拡も高原状、忍び寄る経済停滞の影
3) ロシア:この10年の急速な軍拡も高原状、経済息切れ
4)トランプとプーチンの狭間のEU・NATO

2.主要地域における主なトレンド・・・5
1)米国(担当:村野)
a)国防改革イニシアティブ(DII)と「第三のオフセット戦略」
b)先端技術の実用化事例
c) A2/AD環境に踏みとどまる米軍の対抗戦術
d)トランプ政権における政策の継続性

2)中国(担当:近藤)・・・8
a)習近平政権2期目(2017年後半から5年)の目標
b)具体的な軍事態勢
c)トランプ政権発足による中国の軍事的メリット
d)トランプ政権発足による中国の軍事的デメリット
e)海軍司令員の交代

3)ロシア及び周辺(担当:小泉)・・・9
a)国防予算
b)人員充足
c)訓練
d)装備調達

4)NATO欧州方面(担当:河東)・・・12
a) トランプが拍車をかけた「GDP2%分の国防費」
b) バルト・東欧へのNATO軍増派
c) 黒海・南欧方面でのロシアとの張り合い増大
d) ドイツでの核武装論議
e) NATO・ロシア関係の修復
f) Brexitの意味
g) トルコの異質化

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1.総括(文責:河東、村野)
 
当面、世界の情勢はトランプ政権の出方待ち、と言うか、トランプ政権発足の埃がおさまるのを待っている状態にある。フリン大統領補佐官辞任の頃は、トランプ政権も早や、レーム・ダック状態を呈していたが、マクマスターの任命で事態は小康状態にある。その中で次第に明らかになっているトレンドは、「実際の外交・安全保障政策は国務省・国防省の実務家が既存の路線を踏襲。トランプ大統領はトーク・ショーの司会者よろしく、横からコメント」という感じである。

トランプ自身の親ロ的傾向はフリン補佐官辞任事件等によって封印されてしまい、マケイン上院議員等の率いる「民主化のための介入」工作は(米国諜報機関、国務省の一部の部局及びNGOが行っている)、オバマ時代よりも大胆な海外軍事行動によっても支えられることとなろう。

ロシアはこれまで、トランプ政権の「親ロ」的傾向を慎重に品定めしてきたが、次第にこれを見限る姿勢に転じて来るだろう。但し、ロシアによる限定的な軍事作戦で鼻を明かすことのできたオバマ政権の時と違って、現在の米国に対抗しようと思えば、ロシアの国力を傾けるような軍事行動を強いられかねない。

従って当面、ロシアは中国との連携を強化しようとするだろうし、それは中国にとっても渡りに船であろう。当面5月14日北京で予定される第1回「一帯一路諸国首脳会議」、及びその際のプーチン大統領訪中が一つの節目となるだろう。但し中国も最近は資金切れの感があり、右首脳会議も前向きの勢いを欠くものとなるだろうが。
以下、目下の米中ロシア欧州で目立つ点は、次の通りである。
 
1) 米国:「第三のオフセット戦略」とトランプ
米国はこの20年ほど、ネットワークを活用することで、軍の統合的、かつ機敏な運用でロシア、中国に対する圧倒的優位を築いていた。しかし中ロとも自前の電子戦能力を開発するとともに、米軍のネットワーク・インフラをジャミングする能力を高めている。また中ロとも、自国の国境周辺に米軍を寄せ付けないためのA2/AD能力を高めている。
これに対して米国は2014年から「第三のオフセット戦略」を標榜し、先端技術開発を進めるとともに,既存技術の応用を通じた戦術開発を進めている。 なかでも重視されているのは,装備単体の低コスト化による彼我の費用対効果の逆転と,それを補助する自律的な無人システムの実用化である。
トランプ政権は発足して早くもレーム・ダック化様相を示しているが、一時懸念されていたNATO、日米同盟に対するコミットメントについては、これまでの手堅い路線を再確認している。当面は、国防費の拡充を議会が認めるかどうか(共和党の一部は財政支出拡大を嫌っている)、また「第三のオフセット戦略」が維持されるかどうかが目の付け所であろう。
 
2) 中国:軍拡も高原状、忍び寄る経済停滞の影
中国は,トランプ政権が従来の政権に比べて,グローバルなコミットメントを低下させることを期待・予想しており,その出方を見極めるべく,人民解放軍や法執行機関による海洋活動を継続,空母をはじめとする装備開発も従来通り継続する見通しである。2017年後半以降の第二期習近平体制でも,最大の目標は台湾であり,威嚇を通じたクリミア型の無血開城を達成する上で必要な,米国の参戦意欲を削ぐ拒否能力の拡充を続けている。
なお中国は、米軍が韓国に配備しようとしているミサイル撃墜用ミサイル・システムTHAADに反発、韓国との関係を冷却化させ、ロシアとともにTHAAD配備を阻止しようとしているが、ロシアはこれに本気では乗っていない。THAADはその長距離レーダーが問題で、中国は遼寧省等での自軍ミサイルの動きを把握されるのを嫌っているが、ロシアの場合、極東に長距離ミサイルは配備しておらず泰然としているものと見られる。
 
3) ロシア:この10年の急速な軍拡も高原状、経済息切れ
2016年度におけるロシアの国防費は,過去最高の3兆8890億ルーブルとなったが,対GDP比は4.7%と財政的限界に達しており,2017年度からの減少は必至。2018年度に始まる新軍備計画の完全履行も難航が予想される。装備調達では,米・NATO軍の精密誘導兵器や近代化に,通常戦力で追随できないことから,核(及び発射プラットフォーム)の近代化とその早期使用の可能性をちらつかせることで相殺を図っている。
 
4)トランプとプーチンの狭間のEU・NATO
EU・NATO諸国では,脅威認識のギャップと防衛力負担の不均衡が際立ってきている。バルト・東欧諸国では,クリミア併合後のロシアに対する警戒心が増大し,これらの諸国を再保証する措置としてバルト及びポーランドへの冷戦後最大規模となる4大隊のローテーション展開が始まった。他方,独を中心とする西欧では,ウクライナ危機以降中断していたNATO・ロシアの大使級会合を4月に再開した他,バルト海での軍用機接近をきっかけにCBM設定交渉などが行われている。そうした中,英のEU離脱に伴って,EUを軸とするCDSPやEUFORなどの軍事協力(NATOとは別個の仕組みで、米加は入っていない。但し有名無実の気味あり)が成り立たなくなることが懸念される。

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2.主要地域における主なトレンド
1)米国(担当:村野)

a)国防改革イニシアティブ(DII)と「第三のオフセット戦略」
・現在の米国における軍事近代化は,2014年11月に始まったDIIと「第三のオフセット戦略」という概念が鍵となっている。これは競合的になる安全保障環境で,米国が優位性を維持・強化していくための取り組みの総称とされる。

・これまで米国には,1950年代後半に核戦力を用いてソ連の通常戦力に対抗することを狙った大量報復戦略(=第一のオフセット戦略),1970年代に米ソが戦略核パリティに達する中,情報通信技術と精密誘導兵器を用いて,通常戦での優位獲得を目指した相殺戦略(=第二のオフセット戦略)があった。

・第三のオフセット戦略では,ロボティクス,自律システム,ビッグデータ+学習型AI,ヒューマン・マシン・コラボレーション,3Dプリンターなどの先端技術,軍民両用技術を活用し,効率的な戦力態勢を構築する。

・オフセット戦略の実務責任者は,ロバート・ワーク国防副長官でトランプ政権でもしばらく留任が決まっている。

b)先端技術の実用化事例
・第三のオフセット戦略で特に重視されているポイントは,①自律性,②長射程化,③低コスト化。

・この一環として,国防省はMicro-Drone Swarm/LOCUST(Low-Cost UAV Swarming Technology)技術を開発中。2016年10月25日には,103機の小型自律ドローン"Perdix"の編隊飛行実験を実施。従来の遠隔操縦型ドローンと異なり,人間の介在が殆どない状況で,ドローン同士が互いに意思疎通を行い,集合・分散・損耗からの回復など統制のとれた行動をさせることに成功した。カーター前国防長官は,2016年9月29日の演説で「詳しくは言えないが,アジア太平洋に資する"いくつかのサプライズ"を用意している」と述べており,これがその第一弾と見られる。

・BAEおよびGAでプロトタイプを開発中のレールガンは,電磁加速を用いることでマッハ6,有効射程200km超の飛翔体を発射可能。ただし,秒間10発の連射を可能にするには25メガワットの電力供給と,連続使用に耐えうる伝導レールが必要となり,開発上の課題となっている。2020年代半ばの実用化を目指し,DDG-1000(ズムウォルト級駆逐艦)に搭載することを予定している。

・レールガンから派生する技術として,HVP(Hyper Velocity Projectile)と呼ばれる飛翔体も開発中。レールガン用飛翔体(の改良版)を通常の5インチ砲および155mm砲から発射する構想で,レールガンから発射する場合と比べて初速・射程は半分程度(マッハ3)に落ちるものの,対艦巡航ミサイル迎撃などには十分対応可能と言われる。また,対地火力支援,経空脅威対処,対水上戦などマルチ・ミッション対応,誘導可能なものも開発中。

・レールガンやHVPが,弾道ミサイルなど質量の大きい高速の飛翔体を撃破することを想定している一方,より火力の限定されるSSL(Solid State Laser)/LaWS(Laser Weapon System)は,巡航ミサイルや航空機,小型船舶などから艦船を防護するCIWSの代わりとして置き換えを想定。2013年4月より,USSポンセ(AFSB:Afloat Forward Staging Base)に搭載して実験中で,FY2020~21に初期運用能力(IOC)獲得見込み。


c) A2/AD環境に踏みとどまる米軍の対抗戦術
・上記のような先端技術の開発が進められる一方で,自律性の高い無人システムや次世代長距離ステルス爆撃機(B-21)などの大型プラットフォームの実用化は,早くとも2025~30年以降となる。したがって,同時期までに中国のA2/ADエリアを上回る遠方から作戦を行いうる能力は十分に構築しえず,当面米軍は前方展開基地や空母を使用した従来型の態勢を継続せざるをえない。
 (注:日本では米国の戦略を論じる上で,装備調達計画の現実と時間軸が軽んじられる傾向にあるが,過去の蓄積を無視した急激な態勢転換や戦略は不可能である点に留意)

・そのため,米軍はA2/AD環境下で戦うための新たな戦術開発を行っている。米海軍の分散型水上戦闘構想:Distributed Lethality(DL)では,従来のように空母を大規模な護衛艦隊で守るのではなく,①攻撃能力を付与した水上艦を小規模に分散,②戦力パッケージを柔軟に組み替え,③各艦や艦載機のセンサーを活用し,④長射程ミサイルやレールガンを用いて多方向から同時攻撃を仕掛られるような態勢を目指している。これにより,敵の飽和攻撃に対する脆弱性を回避するとともに,数で優る敵にも分散を強制し,米国が優位を持つセンサーとネットワーク能力を活かせる状況を形成,彼我の優劣を逆転させる狙いがある。

・DL実現のために重要となるのが,既存アセットを改修し,短期間で実戦投入するアプローチ。具体的には,トマホーク(射程1600km~)とSM-6(射程340km)に対艦攻撃能力を付与するとともに,ヴァージニア級攻撃原潜の巡航ミサイル発射能力を拡張する。また,E-2D等の共同交戦能力(CEC)を通じて,ミサイルの長射程化・ネットワーク誘導能力を強化する。

・米空軍の第5世代機F-22やF-35のステルス性は,A2/AD圏内で効果を発揮するが,空中での迎撃が困難であるからこそ,敵としては前方展開拠点に駐機中を先制攻撃で撃破してしまうメリットが大きい。そのため,①F-22×4,②整備要員,③機材,ミサイル等を,④C-17輸送機にセットにし,ハワイやアラスカ等の拠点から24時間以内に展開可能とするラピッド・ラプター・パッケージ構想を実施。即応性強化と分散化により,中国の中距離ミサイルに先制攻撃されるリスクを低減する狙いがある。米比EDCAで合意した5つの比軍基地は,米戦術航空機の緊急展開拠点になると目される。

・戦略爆撃機の前方展開拠点となっているグアム・アンダーセン基地では,強化型格納庫の建造,航空燃料や指揮所の抗たん化,滑走路等の復元材料拡充などを実施中。また,ステルス性の維持,回復のための施設も建造されており,B-2爆撃機の展開頻度が増加すると見られる。

・海空軍に注目が集まる一方で,陸軍・海兵隊はA2/AD環境における伝統的任務(大規模地上戦,着上陸強襲)を継続することの難しさに直面している。そこで陸軍種の存在意義を維持するべく,長距離誘導ミサイル,火砲,防空システムを拡充し,「第一列島線」上における対A2/AD作戦への貢献を推奨する論調が国防省内外で増加している。ただし,伝統的任務と新たな任務をどうバランスするか,射程500~5500kmの地上配備型ミサイルを規制するINF条約との兼ね合いなど課題もある。なお,ロシアが2014年頃よりINF条約に違反するミサイルを実験・配備している疑いがあること,中国がINF基準のミサイルを拡充していることなどを理由に,米の戦略コミュニティではINF条約を維持すべきか否かに関する議論が続いている。

d)トランプ政権における政策の継続性
・トランプ大統領は,オバマ政権が米軍を弱体化させてしまったとの批判的前提に立ち,強い米軍を再建するための大規模軍拡案を打ち出しており,それを妨げる国防予算の歳出強制削減を撤廃することを主張している。強制削減撤廃自体は,軍や議会を含むワシントンの国防コミュニティに好意的に受け止められているが,共和党には大規模な政府支出を是としない「小さな政府」を重視する向きが少なくないことにも留意が必要。そもそも,中国やロシアの軍事近代化やA2/AD脅威の対処に際して,艦船や航空機の量的増強に注力することが必ずしも適切な対応策とは言い難い。

・そうした中,トランプ大統領がワーク国防副長官に留任を求めたことは吉報ではある。ただし,共和党議会とホワイトハウスとの間で,国防予算を含めた財政支出や財源に対する考えが衝突し,トランプ政権が当初想定していたような国防支出が見込めない場合,米軍部隊の量的増強に関心が傾斜し,第3のオフセット戦略で謳われているような先端技術開発への投資が,短期間で成果が見えにくく,白人ブルーカラーの雇用創出に繋がりにくいものとして疎かにされるようなことがあれば,米軍の適切な近代化に支障をきたす可能性があるため,その方向性を注視する必要あり。

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2)中国(担当:近藤)
a)習近平政権2期目(2017年後半から5年)の目標

・ 台湾統一を最大の目標に掲げ、そのためにすべての軍事力を収斂させるだろう。台湾統一に関しては、最悪の場合、アメリカとの局地戦も辞さない。台湾戦において対米優位を築き、アメリカに参戦意欲を失わせることを目指す。
(河東コメント:下記e]の軍人事に、南シナ海作戦重視を見る向きもある)

b)具体的な軍事態勢
・空母「遼寧」に加え、「山東」を今年中に完成。もう1隻作って3隻態勢にする。戦闘態勢強化以上に、台湾への威嚇が目的。3隻態勢にすれば、大陸沿岸部を含めて台湾を四方から囲める。年末年始の「遼寧」の台湾一周も、台湾威嚇が目的。クリミア半島方式の台湾への「無血入城」を狙う。
 (河東コメント:空母艦隊は通常、3セット持たないと恒常的な作戦ができないとされる。また台湾を威嚇するにしても、台湾東岸、つまりバシー海峡と日本の南西諸島を抜けて、太平洋で大規模作戦を行っても、帰投する際、南西諸島とバシー海峡を閉鎖されると、無力化するリスクがあるだろう)

c)トランプ政権発足による中国の軍事的メリット
・①経済的中国包囲網であるTPPを葬り去ってくれた。TPPの発効によって、「軍事はアメリカを頼り、経済は中国を頼る」というアジア各国・地域のバランスが崩れるところだったが、それを未然に喰い止められた。

・②アメリカは「内戦状態」によってアジアに手が回らなくなる。孫子の兵法によれば、戦勝は「次策」で不戦勝が「上策」。アメリカ国内が混乱し、メキシコやカナダと揉めることは、世界第二の大国である中国にとって「上策」。この先、600万在米華僑も動員して、アメリカ国内を混乱させる。
  (河東コメント:在米中国系の動きは重要であるが、彼らは中国共産党政権に批判的な者、台湾系の者等、多様である。)

d)トランプ政権発足による中国の軍事的デメリット
・アメリカが自国の兵器を日本に売り込み、自衛隊の軍事力を拡大して、中国と直接対決させようとする。このため日中のリスクが高まる。韓国軍に対しても同様で、北朝鮮リスクが高まる。

e)海軍司令員の交代
・1月20日、1980年代の福建省時代から習近平の盟友だった呉勝利上将(71歳)が海軍司令員を下りて、瀋金竜中将(60歳)にバトンタッチした。呉勝利は、異例の11年にわたって海軍司令員を務め、「第一列島線確保」を掲げ、海軍力増強に邁進した。だがこれで引退というわけではなく、党中央軍事委員は今年後半の共産党大会まで、国家中央軍事委員は来年3月の全国人民代表大会まで続ける見込み。


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3)ロシア及び周辺(担当:小泉)
急速に近代化の進むロシア軍の現状を理解していただくため、2016年度の各種指標を示す。

a)国防予算
・2016年度は過去最高の3兆8890億ルーブル。対GDPは4.7%に(シリア戦費が含まれている可能性もあるが、ロシア側報道では、これまで政府保証の下に銀行から軍需産業に貸付させた融資が焦げ付く例が増えたため、政府支出が臨時に膨らんだ事情もあるらしい)。その他の国防関連支出を含めると4兆2000億ルーブルになるとの見方も。秘匿度も過去最高で、「国防」の項目中、72%が秘密指定(大部分は装備関連)。

・2017年度以降は2兆7000-8000億ルーブルで推移の見込み。焦点は2018年からスタートする新軍備計画GPV-2025。軍は10年間で22兆ルーブルを要求と伝えられるが、財務省は12兆ルーブルの線を譲らず。

b)人員充足

・ロシア軍の人員充足率が93%(定数100万人中93万人)に。特に契約軍人(志願兵)が38万4000人で過去最多(対前年度比3万2000人増)。徴兵分は約30万人で例年通り。プロフェッショナルを中心とする軍への転換という路線を反映している。他方、いざという時の大量動員能力確保のため、大学での軍事教練や国防省傘下の青年団体「ユノアルミヤ」で「広く薄い」基礎軍事教練を施す施策も並行して実施。

c)訓練
・2016年は5回の大規模抜き打ち演習を実施(全軍管区、軍種、兵科が参加。その他の政府機関及び地方自治体の機関の参加も増加)。南部軍管区(北カフカス)では定例大規模演習として戦略指揮参謀演習「カフカス2016」を実施(4個軍が最大で2500km機動して再編成を行い、ロシア南方における国家安全保障上の脅威に対する対処能力を実証)。これは、ウクライナに対する軍事的圧力と見られる(後述する組織面も参照)。
2017年はベラルーシ及びカリーニングラードを主な舞台として「ザーパト2017」を実施予定であり、東欧〜バルト地域で軍事的緊張が高まる可能性大。

・その他、作戦級及び戦術級演習を合計3630回実施(うち、1250回が軍種間合同演習)。

d)装備調達

・2016年はICBM23基を含む長距離弾道ミサイル41基を調達。過去最多の調達ペースであり、ロシア唯一の固体燃料ミサイル工場であるヴォトキンスク工場(ウドムリト共和国)への重点投資が効いてきたと見られる。通常戦力で劣るロシアは核兵器への依存を強めており、2000年版「軍事ドクトリン」以降、積極核使用ドクトリン(冷戦期のNATOが採用した柔軟反応戦略のロシア版)を採用したと言われる。

・その一方、核による抑止力はいつまでも続かないとロシア側が見ている兆候もある。2012年にはプーチン首相(当時)が公表した国防政策に関する論文の中で、「核兵器よりも敷居が低い兵器の出現によって核兵器の価値は低下する可能性がある」と述べたほか、現在の最新版である2014年版「軍事ドクトリン」には「非核抑止力システム」の語が初めて登場した。2017年1月にはショイグ国防相が「戦略抑止力のファクターとしての核兵器は精密誘導兵器によって代替される可能性がある」と発言した。核兵器による抑止は決断のハードルが高いために抑止としての信頼性に問題が出る場合がある、ということは度々指摘されており、核戦力と並行してより「使いやすい」抑止力としての長距離精密誘導兵器が重視されるようになってきたものと見られる(ただし、核抑止力の役割を低下させるわけではないだろう。また、より「使いやすい」超小威力核についての報道もときおり見られる)。

・一方、ICBM発射装置に油圧システムを供給するポドリスク電気機械工場が資金難から納期を守れなくなるなど、苦しい経済状況の一端も垣間見える。

・航空機調達は139機で2015年の243機から大幅減。ウクライナ製ヘリコプター用エンジンの入途絶によるヘリ生産数減が響いたか。固定翼機もやや減少。早期警戒レーダー網の再建によるロシア全土のレーダーカバー回復、S-400防空システムの導入など防空網の再建はハイペースで進行。

・イスカンデル-M戦術ミサイル・システムは2個旅団/年で配備を進行中。既存ミサイル旅団の9/10は装備更新済み(残るはカリーニングラードのみ)。しかし国防省は配備継続を明言しており、ミサイル旅団の数自体が増える可能性大。
イスカンデル、あるいは先般シリアでも使用された巡航ミサイルが極東に配備されると、日本にも到達し得る脅威となる。

・無人航空機は2000機に達したが、ごく小型のもののみで、米国に匹敵する中・大型の実用化はまだ。


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4)NATO欧州方面(担当:河東)
a) トランプが拍車をかけた「GDP2%分の国防費」

冷戦終結後の「怠慢」を戒めるべく、米国はNATO欧州諸国に「GDP2%分の国防費」実現に向けて圧力をかけてきた。
トランプ当選前の昨年10月、ドイツのメルケル首相は国防費を60%増額してGDPの2%に近づけることを確言したが、現在では「細かい数字の問題ではない」として、発言をトーン・ダウンしている。
 
b) バルト・東欧へのNATO軍増派
 バルト諸国、東欧諸国においては、クリミヤ併合後のロシアに対する警戒心が増大し(ロシアの兵力・配置を見れば、今の所これは杞憂)、これに対してNATOは昨年7月の首脳会議でバルト諸国及びポーランドへの兵力配置(各1個大隊ずつ。つまり総計で4000名程度)を決定。これは、1月に実行され、米本土からも3000名の兵員と戦車・装甲車等が到着(うち一部は後記の如くブルガリア、ルーマニアへ)。冷戦時代30万名の米軍がNATO欧州部に展開していた(現在3万名弱)ことに比べれば少人数であるが、冷戦後最大の米軍増派となった。また英国等、他のNATO諸国も派兵する中で、ドイツがリトアニアに600名以上の兵力を派遣することは、日本が朝鮮半島に自衛隊を派遣するような意味を持つために注目される。
 なお、1997年バルト諸国のNATO加盟に際して、NATOとロシアが「基本文書」を結んだ際、NATO側はこれら新規加盟諸国に大規模な常駐は避けることを約しているため、今回の増派はローテーションの建前で行われる。

c) 黒海・南欧方面でのロシアとの張り合い増大
 クリミヤはロシアにとり実質上最大の不凍港セヴァストーポリ(ウクライナ時代からロシア海軍のために租借)を擁する。プーチン大統領は2015年3月のインタビューで、クリミヤ併合の過程を振り返り、14年2月ウクライナで右翼が台頭してヤヌコヴィチ大統領を追い出した時、彼が真っ先に考えたのはセヴァスーポリ防衛、そしてそのためにクリミヤ併合が必要ということだったと述べている。つまり黒海方面はロシアにとって非常に重要なのである。

 ロシアはジョージアのアブハジア(2008年グルジア戦争後、ジョージアからの分離を宣言。ロシアが保護下に)に基地を有し、対空ミサイルS-300を配備していたが、クリミヤ併合後は同地にS-400を配備(未確認)する等、更に黒海方面の軍備を増強している。

   NATOは右に対抗して、前記1月米国がバルト方面等に増派した兵力の一部はブルガリア、ルーマニアにも配備された。またルーマニアには米国がMD基地(Devesel)を建設中であり、またここにはトルコのインジルリク基地の戦術核爆弾約50のうち20以上が移転してくるとの報道もある。トルコのエルドアン政権とNATOの関係が不安定化しているためである。トルコはNATOとロシアの間でバランスを取っており、ルーマニアが提唱している黒海でのNATO共同演習の実現を止めている。
 なお、黒海北岸のモルドヴァ共和国は昨年末の大統領選で社会党のドドン党首が大統領に当選して以来、これまでの反ロ的姿勢から一転して親ロ的姿勢に転じている。
一方、地中海岸のモンテネグロはロシアが大きな経済プレゼンスを有しているにもかかわらず、NATO加盟の意志を表明し、ロシアの強い反対工作を受けている。またセルビアも、EU加盟交渉が進まないことにロシアがつけこみ、関係増進をはかっている。

d) ドイツでの核武装論議
 ドイツでは戦後一貫して強い反核気運が存在する。しかし冷戦時代から米軍は西独領内に戦術核兵器を有し、ソ連の大軍が侵入してきた場合、これを撃破するため使用する構えでいた。これは今でも20発ほど(NATOの欧州全体で200発)、ドイツ領内に配備されていると報じられている。つまりドイツは、非核三原則などは掲げていない。
右核兵器はドイツ領内での使用を前提とするため、使用に当たってはdual key方式と言って、米独双方の合意が必要とされる。

トランプ政権の誕生を受けて、ドイツの本格的核武装を求める論調が昨年末一部の紙誌(シュピーゲル、フランクフルター・アルゲマイネ)に現れた。しかし反核気運に変化はなく、同種論調は盛り上がっていない。

e) NATO・ロシア関係の修復
 NATOが兵力をバルト・東欧方面に増派する一方、NATO・ロシア関係の修復も進んでいる。昨年4月には、ウクライナ情勢以後凍結されていたNATO・ロシア理事会会合が大使レベルで復活(於:ブラッセル)。その後、バルト海でのNATO軍演習の際、ロシア戦闘機が至近をかすめたことをきっかけに、双方の間での信頼醸成措置制定の交渉が始まっている。

また東ウクライナでは戦闘の激化が報道されているが、これはトランプ政権がウクライナから手を引くことを恐れたポロシェンコ政府がしかけている面もあるとされ、一方では親ロシア側勢力中、跳ね上がりの野戦司令官たちが相次いで暗殺されていたり、ウクライナの有力ブローカー、メドヴェドチュクが中心となって東ウクライナ調停策が交渉中であるとの報道もある。他方ロシアは、東ウクライナの親ロシア「共和国」発行の旅券を承認する等、西側とは硬軟両様で対応できるカードを揃えている。

f) Brexitの意味
 英国軍はNATO欧州諸国の中では最大であり、これがEUを抜けると、EUベースでの軍事協力(共通外交・安全保障政策(CFSP)と欧州連合部隊(EUFOR))が成り立たなくなる。
 
g) トルコの異質化
 昨年7月のクーデター未遂で、エルドアン大統領が米国の関与を疑っていること、またシリア問題などでロシアに歩み寄ったことで、NATOにおけるトルコの地位が微妙になっている。昨年8月、ベルギーのEurActiv紙は、米国はトルコのインジルリク基地にある核爆弾約50個のうち20個程をルーマニアのDevesel基地に移転する、と報じている。
 
h) 中東、アジア方面との米軍の「取り合い」
 世界には、欧州、中東、東アジアという、米軍の関与が枢要な意味を持つ、紛争の三大巣が存在する。別の言葉で言えば、欧州、イスラエル・サウジ、そして日本は米軍の関与を求めて競争する立場にある。現在動意はあるものの、3地域の間で、米軍配置に大きな異同は生じていない。 (以上)

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