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政治学

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2016年4月29日

伊勢志摩サミットは景色とおもてなしだけでは、とてもとても

(これは、4月19日付Newsweek日本版に掲載された記事の原稿です)

 電車に乗るとアナウンス。「警視庁では先進国サミットに向けて警戒を・・・」。ああ、あと1カ月で、伊勢志摩サミットなのだと思い出す。5月の連休、安倍総理は欧州諸国を歴訪し、「伊勢志摩ではお手柔らかに」と挨拶して回るのだ。

G7は始まった1975年には世紀の大イベント、そこに招かれた日本にとっては晴れ舞台。だが40年経ってG7の比重は世界GDPの半分を割る46%となり 、今では若干レトロ調。数年前は「グローバル経済反対」を叫ぶ青年達の格好の攻撃目標だったが、今では彼らも相手にしてくれない。

 しかし今中国、ロシア、そしてブラジルと、BRICS諸国の多くで経済がおかしくなっている。G7が世界の平和と繁栄に向けて責任を負う姿勢を示す好機なのだ。ところが今回は折悪しく、足元がふらついたり尻に火がついている指導者が目立つ。オバマ大統領は任期があと1年もなく、いわゆるレーム・ダック。シリアにしてもウクライナにしても、解決への主導権を失っている。他の問題でも、解決にこれから数年もかかるようなら、彼と話し合っても埒は明くまい。中国、ロシアにどう対応するかという問題も、欧州からの首脳にとっては今二義的な問題だ。それもあり、オバマは広島を訪問することで、後世の語り伝えになるような業績(レガシー)にすることに専念するかもしれない。

キャメロン英首相は6月23日に、EU脱退の是非についての国民投票と言う大一番を控えていて、伊勢志摩の絶景にも気もそぞろだろう。国民が脱退を是とする判断を示した場合、すぐ脱退することはなかろうが、与党内では政争が始まり、スコットランドはまた独立を叫び始めるだろう。それにキャメロンは、オフショアの口座で租税回避をしていたことを指摘されれば、伊勢志摩の前に辞めてしまっているかもしれない。

EUは、トルコに中東からの難民を引き受けさせることで、難民問題にはしばし休止符を打っている。しかしイスラム・テロの問題は簡単には片付くまい。伊勢志摩サミットの直前、あるいは最中に本国でテロが起きれば、欧州諸国の首脳は欠席か、早退をすることになるだろう。G7のうち4カ国を占める欧州諸国の首脳の目は、今回国内の問題で目がつり上がっているのである。こういう中で、日本文化の神髄とかおもてなしの精神とか言っても、彼らは気もそぞろ。「大変な時に日本観光」という非難を国内で浴びないよう、テレビ・カメラも避けかねない。

だから、今回のサミットを成功させるためには、欧州諸国首脳の関心を引くことが必要である。どうするか? まず、G7としてテロ防止・撲滅のための協力体制を具体的に示すことが必要だ。日本はISISとの戦闘に加わるべきではないが、情報交換、金融面での監視強化などでは協力できる。そして日本は何よりも、途上国をテロの温床としないよう、それら諸国の経済発展を助けるための援助(ODA)、投資を拡大できる。

難民問題についても、日本は関連諸国にかなりの支援をもう行っている。それでも「日本は難民を受け入れようとしない国。一人だけ好い目を見ている」という声が欧州にあることを意識して、静かな広報を展開しておくことが必要だろう。「日本はかつてベトナムのボート難民を1万人以上も受け入れた 、昨年だけで約5000人の外国人が難民認定の申請を出していて、審査期間中は日本での居住と就労が認められている。それにアジアでは今大量に難民が生ずる情勢にある国はなく、日本その他の国によるODA、直接投資でできた工場や企業に職を得ている者が多い。中国で操業する日本企業は約千万人の中国人に職を提供しており、また日本国内に定住する約210万の外国人の大部分は中国などアジア出身の人たちなのだ。こちらの方が難民を受け入れるよりはるかに前向きである」等々を宣伝しておくのだ。

G7サミットは本来、こういった後ろ向きの問題より、自由・民主主義と発達した市場経済を実行する国々の集まりとして、もっと前向きのメッセージを発する場である。自由貿易、自由経済の原則を掲げ、TPP、TTIP(TTPの米欧版)の締結・批准を急ぐことを声明すれば、保護主義体質、自国の利益優先主義のロシア、中国に対する無言のメッセージとなる。返す刀で脱税のためのオフショア市場使用規制、透明化を訴えれば、先進国側としても自らの襟をただしたことになる。
普通、G7サミットと言うとしゃんしゃん大会。膨大な文書を発表するが誰も読まないお祭りと化していたが、今回は「おもてなし」もさることながら、日本人が不得手な内容面での振付に気を入れてやらないと、失敗ということになるだろう。
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