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政治学

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2016年3月19日

米ロ対立激化の中の日ロ関係

(これは「ロシア通信」誌3月号に掲載された記事の原稿です)

今から8年前、外務省に「2020年のロシア」と題する調査を数名で提出したことがある。北海道大学の田畑伸一郎教授の計算に基づいて、当時のテンポでいくとロシア経済は2020年には世界で4~5位程度になり得る、しかもその金を使って再び軍事大国になり得る、このシナリオを大きく攪乱し得る要因はただ二つ、一つはロシアが米国を敵に回した場合、もう一つは石油価格が崩落した場合、と書いた。

当時、この報告は随分批判されたものだ。「ロシア経済がそんなに大きくなるはずがない」という批判が多かった。しかしカネというものは、それが原油価格上昇というあぶく銭であっても、投資されて膨らむものなので、ロシア経済はその後も膨らんでいった。そしてロシアはそのカネで国防費を増やし、2008年にはグルジア(ジョージア)、2014年にはウクライナ、そして2015年にはシリアと、海外での軍事力行使のたがが外れたような振る舞いを見せるようになった。

だがロシアは、ウクライナ情勢で「米国を敵に回して」制裁措置を招いただけでなく、容赦ない原油価格暴落を浴びせられる。2020年のロシア報告書が最大の攪乱要因として挙げたことが、二つとも現実のものとなってしまったのである。原油価格は米国の先物市場で決まる部分が大きいので、先物市場への資金流入ぶりを操作することで原油価格を操作できるのである。ロシア経済はドル・ベースではほぼ半減、メキシコ以下の水準に縮小してしまった。

プーチン大統領への支持率はまだ高いが、国民の間ではこれからの生活に対する不安感が増大している。ロシアは今、シリアで優勢に立って粋がっているが、そのズボンはもうほとんど地面にまでずり落ちている。ドル・ベースでいけば米国のGDPは今やロシアの17倍になってしまったのだから。

追い打ちをかけるように米国は、2017年度予算で国防予算5827億ドル(ドル・ベースではロシアのGDPの約60%相当)を計上、「欧州方面でのロシアの脅威」に対処することに主眼の一つを置き、バルト地域等防衛のための予算を今年度の4倍の34億ドルにするとしている。後者の金額は大したことはないが、Bob Work国防副長官などは昨年11月レーガン・ライブラリーでのスピーチで、「この1年、中ロとの戦闘がこれからあり得るとの前提で考えてきた。Third Offset Strategy(第3次盛り返し戦略)として、中ロに米国と戦う意欲を萎えさせてしまうような軍備を考える。Human-machine collaborationを目指す」と述べている。その中には核兵器の超小型化、ロボットやドローンの多用、そして宇宙戦争への対処が入っている。

 これは1979年、アフガニスタンに侵入し、居座ったままだったソ連が受けた仕打ちに似ている。優柔不断とされた民主党のカーター政権を一期だけで引きずりおろしたレーガン大統領は、ソ連を「悪の帝国」と呼んで、国防費を大増強(その中にはSDI=宇宙配備兵器を開発するというブラフも入っていた)、あげくに1985年には石油価格の暴落まで演出したのである。これに散々締め上げられたゴルバチョフは、アフガニスタンからの撤退、INF(欧州向けに配備した中距離核ミサイル)撤廃など、べた下りに下りざるを得なくなった。社会主義経済のテコ入れをはかろうと、中途半端な自由化をはかったゴルバチョフは、それで却って政治・経済両面のガバナンスを失い、遂にはソ連崩壊を招いてしまう。
 
米ロ対立の中の日ロ関係

米国の対決姿勢復活を見てとったロシアでは、「冷戦復活」の声がかまびすしい。米国でも、ロシア敵対視は賢い戦略なのかどうかをめぐって硬軟両論、議論が盛んになっている。硬派のはずの共和党でも、ローラバッカー下院議員(外交問題委員会の欧州・ユーラシア問題小委員会委員長)が「ロシアは拡張主義ではない。イスラム過激派や拡張主義の中国に対する同盟相手にもなり得るロシアを敵に回すのか」と指摘して(2月11日The National Interest)、まとまっていない。
しかしカーター国防長官等幹部の発言を見れば、国防省がロシアをダシに兵装近代化をはかろうとしているのは確実だ。この数年中ロが軍備を増強してきたために、米国の軍事的優位が脅かされてきたからだ。国防省は、アジア重視政策は変えないとしているが、中国を名指しすることは控え、もっぱらロシアを主たる脅威と名づけている。経済関係が緊密な中国を前面に立てるのは適当でないからだ。

 この中で、日本はロシアとの関係のかじ取りをしていかなければならない。日本は、安全保障や経済をロシアに大きく依存しているわけではなく、ロシアもそこは同じ。関係を断つ必要は毛頭ないが、関係を進めるために何かを犠牲にする必要もない。米ロが対決している時に、米国と同盟を結んで抑止力を確保している日本、そのために米軍の駐留を認めている日本に、ロシアが大きく歩み寄ることはなく、中国との共同軍事演習や日本領空すれすれの示威偵察飛行もやめないだろう。

日本が米ロの間を取り持てば何とかなると思うかもしれないが、両国の対立はそんな生易しいものではない。日本は対中国で抑止力を効かせるためには米軍の協力が不可欠だし、経済的にも円高という匕首をいつも喉元につきつけられている。日本のやり方が勝手だと思えば、大統領が「今のドルは高すぎる」と一言言えば、市場はなだれを打って円高の方向に流れるだろう。日本人は場の空気は読むが、国際政治の場で鼻が利かない。実力を顧みずに我を通すと、ロシアと同じ、奈落の底に落ちるだろう。
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