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街角での雑想

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2010年8月29日

日本経済自縄自縛からの脱出 Ⅵ デンマークの福祉を支える社会・制度的要因

ここでは、デンマークの社会保障を支えるいくつかの制度的・社会的な要因を見てみよう。

(1)最適規模の地方自治体
地方自治体は大きくなれば住民の参加実感が薄れ、小さすぎれば財務基盤が弱くなるというジレンマにある
だが、デンマークの地方自治体は住民の参加実感、財務基盤その双方を満たせる絶妙な規模に整理された、と評価されている。デンマークでは1970年に自治体改革が行われ、1388あった市町村は277に、25あった県は14に統合された。
そして福祉・初等教育は市、医療・障害者福祉・高校は金がかかるので県レベルが担当することとされた

(2)国民総背番号制
この1970年自治体改革の際、国民総背番号制がさしたる抵抗もなく導入されたことが、現在のデンマークの社会保障・医療体制を大きく助けている。日本も総背番号制を導入すれば、年金額の計算違い等の問題は起こりにくくなる。
もっとも、総背番号制は当局による所得の把握を容易にし、徴税の強化につながる。デンマークでも、この1970年改革と同時に源泉徴収の税制が導入された由。

個人の権利を尊重する北欧市民に、国民総背番号制がよくすんなり受け入れられたものだと思うが、当時「なんとなく」受け入れられてしまったそうで、現在の担当者はこれを「幸運だった」と述懐している由(グロコム資料 猪狩典子 http://www.glocom.ac.jp/column/denmark/#start)。

背番号制のおかげで、行政におけるIT化が進んでいる。WEFによるIT国際競争力ランキングでは、2000年まで政府部門で3年連続世界一の座を占めた。

(3)労使協約の伝統
デンマークにおいては労組組織率が高く、賃金労働者の75%が労組に入っている。日本では22%に過ぎないことに鑑みると、非常に高い組織率である。これは、最低賃金、労働時間などは法律ではなく、労使間の協約で決める伝統が確立しているためだろう。

デンマークでは、1800年代後期から労働組合が強力であり、これが使用者団体(Dansk Arbejdsgiverforening デンマーク雇用者連盟)と中央、地方双方で話し合って、労使協約を結ぶようになった由。

現在でも、デンマーク産業連盟(DI:Dansk Industri)が担当する労使協約は労働者の50%をカバーしている。他のEU諸国では、国家レベルで制定された法律に準じて各業界で労使協定を締結するのが通例だそうだから、デンマークの慣例は際立っている。

そして、既述の完備された失業保険・転職支援制度に支えられて、デンマークにおける労使協約は従業員の生活水準向上と企業の投資能力保全の間のバランスをうまく確保している由。なお、労使協約は通常3~4年間で更新されるそうだ。

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