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街角での雑想

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2009年4月24日

国後、択捉の問題はもっと静かに

谷内前外務次官が、北方領土の問題は面積五分五分でロシアと分け合うことに賛成だと言った、とか言わなかったとかで随分話題になっている。

谷内氏がなんと言ったか本当のことを確かめたわけではないけれど、いずれにしてもこの問題を、ロシアが聞き耳立てている中で、大声で議論するのは、交渉のためには下策だ。泥沼に落ちたら、動いた方が沈んでいくのだ。

ロシアも、できればこの積年の問題を解決したい(どこまで譲るかは別の問題だが)。解決しなければ、日本という外交カードをフルに利用できず、そうなれば極東で中国からの風圧を一手に引き受けざるを得ないことは、彼らもよく知っている。極東を見ただけでも、中国との人口格差は、中国が一億、ロシアが600万人、つまりロシアは20分の1以下の力しかなく、しかもロシアが極東に進出してきたのは近々1850年頃のことだ。

日本だって、ロシアという外交カード、経済的パートナーをもっと使えるようになりたい。だから1997年、時の橋本総理は、「領土問題解決が経済関係推進の前提条件」という長年の対ロシア政経不可分の政策を下ろし、「北方4島への日本の主権を認めさえすれば、実際の返還のタイミング、やり方は柔軟に検討する」というところまで譲歩してみせたのだ。

だが、国境画定問題というのは、どの国の指導者にとっても最大の内政上のリスクを伴う。日本でロシアのことを憎いと思っている人達が多いのと同じように、「あの」日本にだけは負けたくない、と思っているロシア人も数多い。だからロシアの指導者を動かすためには、日本との関係推進が彼らにとって最重点事項となるような状況を作り出さなければならない。

そして、今のロシア指導部はメドベジェフ大統領もプーチン首相も法学部出身で、物事の法的正当性を重視することを忘れてはならない。解決は政治的手法で行うにしても、入り口は法的にしっかりした議論を作っておかないと、彼らは交渉の門をくぐってこない。中露の場合、係争点だったウスリー江の川中島を2つで割ったが、北方4島の場合、法的正当性は日本の方にある。そのことをロシアの指導者に納得させることの方が先決だろうと思う。

そしてプーチン首相は、2001年頃の鈴木宗男問題をめぐるごたごたを忘れていまい。あれは一体何だったのか、彼は今でも不思議に思っていることだろう。日本側が交渉を進めたいのなら、国境画定交渉というものが持つ政治的リスクをよく考えた上で腹をくくり、明確なマンデート(委任状)を交渉者に与えなければならない。そして交渉のチャンネルは総理の委任を受けた代表によるもの一つにしぼり、静かにしかしきっぱりと交渉を進めることが必要だ。

静かに交渉を進めることは、戦前のリッベントロップ・モロトフ合意のような秘密外交ではない。一挙手一投足をマスコミに縛られ、次の差し手を大声で指示されたら、どんな名人でも将棋に負けてしまうだろう。交渉をまとめてから、それを国会、マスコミで論ずる機会と時間は十分ある。世論の納得を得られなければ、その合意は実行されない。そこが秘密外交と違うところである。
河東



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