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街角での雑想

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2012年7月17日

原発をめぐる自縄自縛

政府は今、「新しいエネルギー基本計画」を固めようとしている。土壇場でこんなことを言ってももうtoo lateだが、これまで調べてきたことをベースに、今思っていることを書いておく。

1.権限分散、コンセンサス型の日本の社会では、原発のような巨大な装置が危険に陥ると、敏速な措置をとることができずに、大変な災害を招く。原発事故の放射能は大都市圏の住民全面疎開を必要とするマグニチュードを持つが、それは大混乱を引き起こすし、数百万規模の長期疎開は不可能であろう。特に東京でこれが起きた場合、日本全体が長期にわたって麻痺することとなる。原発は、狭い日本の国土においてはリスクの大きすぎる代物である。

2.様々のリスクは「日本の優れた技術」で防ぐことができるという思い込みがあるが、福島の場合、災害が起きた場合のロボットもなく、様々な資材は米国等に頭を下げて借りまくるしかなかった。散水クレーンは中国から供与を受けた始末である。潜在的に技術があっても、災害の想定で想像力が不足しリスクを過小評価する、つまり運営能力に欠けているから、このようなことになる。

3.「想定外の津波」にやられたとなると、今度は1000年に一度しかないような津波にも耐える原発を作って、それで担当者は責任と任務を果たした気になっているが、問題はそれでも危険は除去されておらず、またそのことに対して動こうとする者は誰もいないということである(本来は総理かその代理だろう。まさに「政治家主導」の出番なのだ)。テロやサイバー・テロ、隕石落下、ミサイル攻撃、足元の地割れ等は「想定」に入っておらず、この面で措置を取る動きは見られないようだ。

権限と所掌が分散している中で、担当者たちはそれぞれの責任を果たしているのだが、想定外のことが起こると、対応を一元的、かつ機敏に行える体制がない。原発は一応民間企業なので、有事には総理なり経済産業大臣なりが指揮権を接収し、東電社長は総理の補佐として官邸の危機対策本部に常駐する、そしてその体制下での決定過誤により国民が被害を蒙った場合には国家として補償するような体制を、法的に整備しておかないといけない。

4.原発代替は、再生可能エネルギーだけでは無理であり、火力発電増強が不可欠である。ところがここで、二つの自縄自縛の議論が行われている。一つは、天然ガスの価格が急上昇したために、これで発電すると電力料金を上げざるを得ない、料金を上げると日本でのモノづくりは不可能になるという議論。もう一つは、安価な石炭での発電を強化しようとすると、CO2の排出量が大きくなって、京都議定書での日本の義務を果たせなくなる、というものである。
天然ガスのスポットものの価格は、日本が買い付けを急増させたために、昨年は確かに急騰した。その負担増加分は電力料金の約10%に相当する規模のものである(12年5月10日の日経)。だが天然ガス価格がこのまま高止まりする公算は小さい。つまり、火力発電重視が料金上昇、日本の製造業空洞化に直ちにつながるということはないのである。

石炭発電については、以前IEAが新設を禁じていた時代の名残りか、「石炭は安価だが旧時代の環境汚染技術」という思い込みが強すぎる。実際には石炭ガス化複合発電などの新技術を使えば、石油・天然ガスと同等のCO2排出ですむのである。そして石炭発電にしても石油・天然ガス発電にしても、関連機器の生産と輸出で日本の東芝、三菱等が既に大きな利益をあげていることが示す通り、原発新設停止に代わる需要を生むことができる。

そして火力発電については、CO2回収技術が日進月歩であることも考慮するべきである。三菱重工は昨年6月、1日500トンのCO2を回収できる装置を米アラバマ州の石炭火力発電所で稼働し、さらに12件の受注を獲得している(12年5月16日日経)。

IEAによると、世界の石炭火力発電設備容量は2030年に08年比2倍の14億kWに増える見通しであり、石炭発電関連は有望産業なのである。例えばIHI、東芝、住商などの企業連合は台湾で、CO2の排出を約1割減らせる新型石炭発電設備を1600億円前後で受注した。発電能力80万KW級の大型設備2基を5月中に着工し、2016年以降に順次稼働の予定である(12年5月8日日経)。

5.「エネルギー自立」=原発という思い込み
日本で原発建設が急速に進んだのは、1974年の石油危機のあおりを受けたものである。「中東の原油が止まる」という恐怖感が、原発への期待を高めた。しかし原発と言えども、ウランを輸入しないと発電できず、ウランを濃縮するのもまた海外で行っている。プルトニウムを取り出して再度燃やす技術を確立することで「エネルギー自立」を達成するのだ、ということになっているが、そのための「もんじゅ」は開発が止まったままである。
中近東の産油国は、原油を輸出しなければ国が立ちいかないので、イランやイスラエルに油田を破壊でもされないかぎり、原油や天然ガスの輸出を止めるはずがない。
つまり、「エネルギー自立」論は正しいが、その前提と解決策のいくつかは幻想に立脚しているのである。

できるだけCO2を出さないエネルギー自立の方策としては、安価な手段で(例えば光合成を人工的に再現して)海水とCO2から酸素と水素を製造、水素を各家庭・事業所の燃料電池に配達して発電する、などが考えられる。光合成はまだ開発段階にあるので、当面は海べりの太陽発電などで水素を製造すればよい。

6.CO2削減という強迫観念
原発削減反対論者が根拠とするのは、「原発を火力発電で代替するとCO2削減ができなくなる」ということである。CO2が増えれば地球が温暖化するのか、太陽活動のせいで地球が温暖化するとCO2が地中・海中から大量に発生するのか、どちらかわからないのに、日本は欧州の環境原理主義に引きずられるまま、CO2排出25%削減を外交上のセールス・ポイントとするような、自殺行為をしている

日本はもともと、国民一人あたりのCO2排出量は米露より低く、ドイツと同等だし、GDP1単位あたりで見るとそれはもっと下がる。従ってCO2を減らすために原発事故のリスクを冒すようなことをするよりも、日本は地震のリスクが高い狭い国であることを国際社会に説明し、CO2削減義務を少し下げるという意図表明をするべきなのだ。事前に通報、説明しておけば、反発を抑えることができるだろう。そしてこれも、総理が直接介入しないと、諸方面の調整はおさまりがつかないだろう。
以上に手をつけず、「電力はモノづくり維持のために必要。他方CO2削減義務も重要」というのでは、原発維持という惰性の解法しか出てこない。

CO2削減率を外交のセールスポイントにするのは止めて、例えば「世界光合成実現計画」のようなものをぶち上げ、旗を振り、ついでに利益も上げるような現実的な外交をやってもらいたい。

.「原発をやめるということは、核武装を永久に諦めることだ」
日本で原発が急速に建設されるようになったのは、1974年のエネルギー危機を背景としているが、それは日本が核拡散防止条約に1970年に署名して76年に批准するまでの期間とも一致している(中国は既に1964年に最初の核実験を行っている)。原発推進によって核技術を確保しておこうとの意図もあっただろう。
しかし米国の「核の傘」が破れ、日本が核武装に踏み切ったとしても、国土の狭い日本は核大国に対して決定的に脆弱な立場であり続ける。日本は関東地方への一発の水爆で麻痺するが、核大国はそうではないからである。戦略兵器面での日本の努力は、核ミサイルよりも精密巡航ミサイル、MD、サイバー作戦などに向けられるべきだろう。
核兵器開発能力保持のために原発を続けるというのは本末転倒な議論であり、核兵器そのものも日本にとっては有効な兵器にはなり得ないだろう。

8.原発撤廃議論の政治化をやめる
以上の議論は、原発の即時全面停止を求めるものではない。10~15年以内の全面停止を目標として明確にし、そこに至るまでの作業工程を明確にするべきだと言っている。既存諸政党が即時撤廃を政治スローガンとし、支持者を動員しようとしているのに乗るつもりはない。自民党が原発利権を票集めに使い、野党がそれに反対して原発撤廃を叫ぶと言う、これもまた本末転倒の議論は旧世代とともに去るべきである。既存政党の色がついていない、若年層、あるいは女性組織が、本音の議論として取り上げてほしい。

9.原発関連補助金に代わるもの
原発は、日本の中央、地方の政治・経済構造にしっかりとはめ込まれている。特に原発所在の地方自治体の財政は、原発なしに成り立ちにくい。しかしそれゆえに原発存続を受け入れるのは、ひどい話だ。ここでも原発にこだわる必要はないので、大火力発電所を原発の代わりに建設すれば現地の雇用と税収は確保できるし、発生するCO2に対する補償金、海への熱湯放出による漁業損失への補償金も支払うことができるだろう。

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