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街角での雑想

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2010年7月22日

富山紀行 No.6 国際化も楽じゃない

東京にいるとよく、「日本は国際化しなければならない」などと偉そうな口調で言いだしがちなものだが、国内で十分暮らしていけるなら、なにもわざわざ外国に出て苦労する必要もない。だから地方はもっと地に足のついたアプローチをとっている。

富山と「国際化」
富山県庁はレトロ調、明治のようなレンガ作り。映画のロケもできそうだ。県庁舎がこうして質素なのは好感を持てる。それにこの県庁はそこここに「県民サロン」と名付けた談話室があって、県民が茶でも飲みながらおしゃべりしたり、雑誌を見ることなどできるようになっている。温い。

そしてその廊下に1枚の地図が貼ってある。土産物としても売っている。これは、地図の向きを変えてみると、世界がいかに変わって見えるかという典型例だ。この変わり地図では、これまでどこかよそよそしい、縁の薄い感じだった日本海が、にわかに瀬戸内海のような、あるいは地中海のような内海に見えてくる。

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(日本海、逆さに見れば地中海――通商のゆりかご)

「見えてくる」だけではない。日本海は実際に、日本を朝鮮半島、中国東北部と結びつける内海のようなものだったろう。長い歴史を通じてだ。だから太平洋岸が「表」日本であったことなど、ペリー来航以来の短いことで、日本では実は日本海岸がずっと「表」であったのではないか? 糸魚川のヒスイが朝鮮半島まで運ばれていたのなどは、その好例だ。

富山ではけっこう「外人」の姿を目にする。ロシア人が400人近く定住しているのだそうだ。数年前まで伏木港がロシア極東への中古車積み出し中心地だったので、その名残だろう。この中古車積み出したるやハンパでなく、最盛時には年間50万台、30億ドル分もの中古車が日本からロシア極東へ積み出されていった。今ではロシアが輸入関税をつりあげたため、輸出は年間5万台に急減してしまったが。夜、学校の横を通ったら、校庭で消火訓練をやっているようで、それがなぜかロシア語でやっていた。日本海側ではロシアや中国はごく普通の存在になっているらしい。なお、富山県には中国人が約6000人定住しているそうだが、これはもう日本人と見分けがつかない。

伏木富山港
富山県庁は国際化に向けて音頭を取っていて、知事は上海、瀋陽、大連、そしてロシアなどをこまめにまわっている。中国の東北地方への玄関である大連には県の事務所があって、北陸銀行から一名出向、現地職員を2名雇って斡旋業務をやっている。大連には伏木富山港から週4便のコンテナ船が出ており、釜山、上海、バンコクなどにもこれは出ている。ウラジオストックへも隔週に出ている由。韓国、台湾、タイ方面への定期船もあり、航空路では大連、ソウル便が頻繁に出ている。

伏木富山港は新潟とならんで、日本海側では二つしかない「特定重要港湾」に指定されている。だが今のところコンテナ数では新潟が2~2.5倍と、富山の先を行っている。富山港は神通川の河口を2つに仕切ったうちのひとつにあるのだが、1万5000トンの船が同時に4隻係留でき、沖合には28万トン級タンカー用のバースもある。精油所、発電所が港にあるので、サハリンや東シベリアの原油、LNGを輸入するには便利な港だろう。

中国東北地方への入り口は北朝鮮の羅津
2009年、富山県の貿易相手は中国が500億円強、韓国が450億円、ロシアが350億円の順番だった。米国とは100億円強しかない。これからの日本海交易は、何と言っても人口1億2000万人の中国東北地方が相手なのだが、中国は清の時代にウラジオストック周辺の沿海地方をロシアに渡してしまったために、今では日本海への出口がない。国境延辺州から一番近い港は北朝鮮の羅津港なのだ。

この港は昔、日本が満州への入り口として整備したらしいが、今では中国が一つの埠頭を長期租借、延辺州への道路を修復しようとしている。羅津港から中国船が定期的に日本海岸に来るようになれば、そして羅津と延辺州の輝春市、延吉市が鉄道で結ばれれば、日本海は本当の地中海になってくるだろう。

ロシア極東にあまり押し掛けても
ロシア極東方面はどうか? この機会に富山だけではなく、日本海側諸都市全般の動きについて書いておく。
ロシア極東部から日本へは既に、サハリンのLNG、原油だけでなく東シベリアからも原油が入るようになっている。ところが日本からロシア極東部への輸出、あるいは直接投資となると、めっきり難しくなる。

ロシア極東部はもともと、人口はわずか650万人で、中国東北地方の1.2億人の20分の1である。にもかかわらず2012年ウラジオストックでのAPEC首脳会議特需を期待してか、あるいは東京から補助金が出ているのか、日本海側諸都市はロシア極東、特にウラジオストックに殺到している。だがAPEC関係の建設案件の成約は、モスクワで行われており、これまでロシア企業が殆どを成約している。

日本から消費財などを輸出しようと思っても、ロシア沿海州ではまともな「バイヤー」の数も限られているので、彼らは相次いでやってくる各県代表団への応対で忙殺されている。日本の各県は競争で彼らを日本に招待し取り入ろうとするので、最後には足元を見られて不利な条件を吹っかけられる。うまくいっているのは、現地での人脈、ノウハウを有する日本人商社OBを見つけ、現地でのリエゾンをやってもらっている場合だ。役所は自分で商談はできないので、リスクを取れる企業家が前面に出てこないとどうしようもない。

直接投資となると、話しはもっと難しくなる。ロシア極東は労賃、物価とも日本より高いほどになってしまっている。それに日本の中小企業にとっては、ロシアでの直接投資はリスクが大きすぎる。なんでもトップ・ダウンの国柄だから、何か問題が起きると、こちらも社長が数週間現地に貼りついたままでロシア側と折衝しないと話が進まない。

ロシア極東の港を使って中国東北部に輸出することも考えられるが、ロシアの港は特定の企業に実質的に「専属」していることを忘れてならない。たとえばボストチヌイ港はクズバス炭のみでヤクート炭を扱おうとしないし、石炭会社のメチェルはポシェット港を「購入」しているのだそうだ(以上、ロシアNIS貿易会で聴取)。

「国際化は大変なだけだ」
今の富山は、国際化という面では日本海側他県に後れを取っている。外国へ行く人の数が全国で2番目に少ないのだそうだ。話を聞いてみると、「十分食っていけるがゆえの、国際化の遅れ」の典型例のようだ。「大陸に農産物を出してみても値が低くてもうからない、リスクばかりで大変なだけだ」とか、「輸出用の生産までできる人手がない」とかの文句を聞いた。

それでも、中国へのミネラル・ウォーターの輸出を始めた企業がある。これは本当にいいところに目をつけたと思う。今年に入って、富山市の広貴堂は遼寧省の医薬品メーカーと協定を結び、漢方薬原料の安定調達を目指す。他方、2003年、地元の漢方薬メーカー「三九製薬」が後継者難などから中国企業に買収された例もある。だが中国資本は富山ではまだあまり活動していないようだ。

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