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論文

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2014年1月12日

ロシアでのテロとソチ・オリンピック

2月7日から、ロシアのソチで冬季オリンピックが開かれる。ソチと言ってもどっちにあるのかわからない人も大勢いるだろうし、12月29日と30日にはソチから遠くないヴォルゴグラード(昔のスターリングラード)で連続テロもあったので、心配になっている人もいることだろうと思う。
そこで、ソチ・オリンピックをめぐってテロが起きる蓋然性を自ら考えられるよう、以下に関連の事実を記しておく。一言で言って、テロリストの勢力は限られているということだ。

ソチと「コーカサス」地方

 ソチはいわゆる「コーカサス」地方のはずれにある。コーカサスは古来、ペルシャ・中央アジア地域と地中海・欧州地域を結ぶ地峡となっていて、東西南北からやってきた民族が谷間、谷間に定住しているため、部族間の争いや利権争い、そしてロシアとの争いが絶えない。その上今では、湾岸諸国の支援を受けていると言われるイスラム過激派のテロ勢力も一部地域に巣食っているのである。後者がソチあるいはモスクワで、オリンピックを狙ったテロをしかける可能性は高い。もっとも、それだけに当局も対策を講じて、テロを封じ込めてしまう可能性もまた高い

ソチはロシア本体のクラスノダール地方(ロシア系)に所在するが、その北東部に広がる北コーカサス地方には、イスラム系のアディゲ共和国、ダゲスタン共和国、北オセチア共和国、カバルダ・バルカル共和国、カラチャイ・チェルケス共和国、イングーシ共和国、チェチェン共和国が広がる。南コーカサスはグルジア、アゼルバイジャン、アルメニアと、既にロシアから独立した国々である。

コーカサスと言えばチェチェンを思い浮かべる人が多いだろう。チェチェンと言えば、今でもロシアと独立戦争をやっているのだろうと思うかもしれないが、戦争はもう2009年に終わっている。今では、プーチン大統領に恩義を感ずるカディロフ大統領が中央政府から手厚い保護を受けて(チェチェン政府予算の90%はモスクワからの補助金である。また首都グロズヌイに国際空港があり、チェチェン共和国政府の利権になっている。ここはかつて密輸の拠点となっていた)、首都グロズヌイを完全に復興、ロシア随一の規模のモスクまで建てた。

 カディロフの統治は、コーカサスの気風を映して家父長的、権威主義的なものだが、国内の反ロ・テロ勢力はほぼ一掃されている。チェチェン戦争の時代からまだ残るテロリストはもう少数だが、最有力な者はウマロフで(「北コーカサス首長国」を作るのだと称している)、彼はおそらく湾岸諸国あたりから資金援助を受けつつ、北コーカサスのいずれかに潜んでいるものと思われる。しばらく鳴りを潜めていたが、2013年7月にはロシアに対するテロの再開を宣言している。
 北コーカサスでこの数年、内部のテロが絶えないのはダゲスタン、カバルダ・バルカルとイングーシだが、この三国の情勢はそれほど相互関連しているわけではない。ダゲスタンでは部族対立に宗教対立がからみ、カバルダ・バルカルでも内部の部族対立、イングーシでは内部の部族対立をロシアが直轄で収めようとして恨みを買い、モスクワ等でテロを引き起こされている。またイングーシにはイスラム過激派分子も入り込み、構図を複雑にしている。

だがこの三国の情勢がソチ・オリンピックに飛び火する可能性は小さかろう。ソチに直接関係する少数民族はチェルケス人である。ソチ周辺の広い地域は、19世紀半ばまではチェルケス人の故地だった。19世紀前半、南下してきたロシア帝国軍は50年間にわたる戦争で40万人のチェルケス人を殺したと推定され、1864年の決戦ではまさにソチのオリンピック会場のある場所が戦場になったとされる。それによってチェルケス人はロシア各地、中東各地に散り散りとなり、現在の人口は400~600万人と推定されている中で、ロシア居住は70万人しかいない。
 チェルケス人はソチ・オリンピックの安全確保のため、この2年間ほど動静が注目されてきたが、さしたる脅威になる気配はない。あまりに中東各地に分散して、組織化されていないことがその原因だろう。シリアにも8-10万のチェルケス人がいるが、彼らはアサド政権支持と見られるので、ロシアに入り込んでテロを行うとは考えにくい。

 ソチ・オリンピック関連で最も問題となり得るのは、シリアの反政府勢力の中で活動しているチェチェン人やその他の北コーカサス人である。彼らは湾岸諸国のいずれかの資金で動いていると思われる。湾岸諸国の一部はかねて、石油大国でシーア派のイランを天敵視しており(これは中世からのペルシャとアラブの対立を引きずったものでもある)、イランの同盟相手シリアのアサドをまず倒そうとしているのである。

例えば、サウジ・アラビアの諜報機関を司るバンダル王子は昨年8月と12月、モスクワを訪問し、プーチン大統領と直談判を行った。報道によれば、サウジがロシアの兵器を150億ドル購入するから、アサド支持から手を引けというのである。プーチンはこれを断った、ということになっているが、それが本当ならば、シリアにいるチェチェン人達がソチに向かっても不思議ではない。

ソチ以外の地でのテロの可能性

ロシアは広く、コーカサス以外にも少数民族は諸方にいる。オリンピックの時も、警備の厳しいソチではなく、モスクワや地方でテロを起こそうとする勢力も出てくるかもしれない。例えばロシアの青年が北コーカサスで過激派分子として養成され、ロシアのタタールスタン共和国、アストラハン州などでテロを企てる例が最近増えている。タタールスタンは穏健イスラムのタタール人が集住する地域なのだが、彼らは最近、民族意識を強め、民族語の保護などをモスクワに要求し始めている。それは、ロシア人の中に「ロシア民族主義(白人優位主義)」を強く主張する者が増えているのに対抗したものである。こういう状況で過激派イスラムがタタールスタンで挑発行動を行うと、同地の情勢が思わぬ方向に展開する可能性もある。

 またモスクワこそは、人口1200万人のうちイスラム人口は200万もいると言われ(コーカサス、中央アジアからの出稼ぎが多い)、治安当局にとって彼らの動静の把握は非常に難しい。モスクワでは2010年3月に市内地下鉄で自爆テロ、2011年2月にはドモジェドヴォ空港で爆弾テロが起きている。ロシア人とイスラム人口の間では、感情的摩擦も高まっており、当局も神経をとがらせているだろう。

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ソチはオリンピックだけでなく、6月に予定されるG8首脳会議の会場ともなる。少なくともその時までは、ロシアは西側との関係を決定的に悪化させるようなことは避けるだろう。だがそれは、北方領土問題を含め、西側との係争案件でロシアがベタ下りしてくる、ということは意味しない。例えば、東欧への米国MD配備には反対を続け、それにからんで米ロ間の核兵器削減交渉再開にも応じないだろう。ロシアはロシア。基本的利益は譲らないのである。

コメント

投稿者: Anonymous | 2014年1月17日 01:29

ほほう。
今までとは打って変わって随分ましなリアリスト思考に基づく分析ができるようになりましたねぇ。
今までのアホみたいな分析が嘘のよう。
これが元々のあなたの力か?

投稿者: Anonymous | 2014年1月17日 01:41

でもまだまだかな。
まあ歴史に基づく分析もそれはそれで大切だが
ハードパワーに基づく分析が出来ないようではまだ子供レベルの分析と言わざるおえない。
あなたを含めて国家のパワーを歴史で語る人が多いのは何故なのか。
外交はスパイのパワーに掛かってくるのですよ。
まあこういうのはもう分析ではなく妄想の範囲でしか語れないんですがね。
外国の要人の暗殺なんてのはロシアではよくあることでしょう。
リトビネンコはいい例。
一般人が手に入れる術などないポロニウム210で堂々と殺したのは色々とメッセージが含まれていますよね。

投稿者: Anonymous | 2014年1月17日 08:23

国家に対する忠誠心で動いてる人間てのは自己利益では動かない。
それがFSB(旧KGB)という国家機密警察になれば尚更のこと。
敵対する要人を殺すことなど平気でやってのけるハードパワーを考慮に入れて考えないと駄目ですよぉ。
アメリカに味方する国ばかりではないのです。
今回のシリア問題でのロシア・イラン協議はあなたにどう写ったかな?
アメリカはロシアを孤立させるぞと脅すのが常套手段のようだがそれは逆に自分が孤立するということが頭の片隅にないのかと。
まあアメリカは一国でロシアと対峙できるだけの国力がないからそういう脅しをするのでしょうが。
国家にとっての味方なんてのは変わるものです。
シリアの軍事介入にイギリスが抜けたようにね。
一面的な見方でしか分析できないと足元すくわれるのですよ。
人も国家も。戦略は多面構造で見ていかなきゃね。

投稿者: Anonymous | 2014年1月17日 12:03

相手国の反対勢力を支援して自国の反対勢力は暗殺するのは国家の常套手段ですよぉ。
ロシアが暗殺大国と言われる所以はあなたも知っているでしょうそのくらいは。

投稿者: http://kittykitty.cn/newaboutus.php?2296jodans | 2014年11月15日 09:49

my spouse and i stay in the carolina area.

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