Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

日本安全保障

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2020年8月19日

トランプ米国の瓦解には 中位国連合 で対処を

(これは6月に「現代ビジネス」に寄稿したもので、少し古くなっていますが、アップしておきます。因みにトランプが落選するかどうか、そもそも大統領選が11月3日に行われるのかどうかはまだわかりませんので、念のため)

日本では、コロナ感染者が減ったということで、街のにぎわいと株価が戻ってきているが、外の世界はメルトダウン、もしかするとコントロール不能の混乱になるかもしれない。
新型コロナは、途上国を中心に毎日10万人以上増え続けている 。特にBRICSと呼ばれ、次の横綱候補のように扱われてきたインド、ブラジル、ロシアでの蔓延が止まらない。これらの国はもう数年経済も停滞し、BRICSと言っても人はもう覚えていない。それよりも心配なのは、このまま途上国での蔓延が止まらないとなると、これらの国との往来は長期にわたって難しくなり、先進国との格差がどうしようもない程大きなものになってしまうということだ。

トランプ退場で金融危機へ

だがメルトダウンの最たるものは、トランプ大統領の率いる米国。これまで移民の規制、中国たたき、同盟国たたきと、米国の大衆レベルでの受けを狙って綱渡りのような政策を続けてきたトランプ大統領だが、コロナ禍ではとうとう綱から落ちてしまった。連日長時間の記者会見で指導力を誇示しようとしたが、言うことは非科学的で逆効果、かえって支持率を下げることとなった。就任以来、自分のお抱えメディアのように使ってきたツイッターには、「事実関係に誤りがあるかもしれないので注意が必要」という付箋をつけられる始末。
泣きっ面に蜂で、5月末から警官による黒人殺害に抗議するデモが全国に拡大。コロナでのロックアウトで職を失い、狭い自宅に押し込められてきた黒人層が街頭に出た。殆どの場所でデモは平和的で、白人その他がデモに加わることも多いのだが、一部では商店の略奪が始まっている。一方、略奪を唆し、軍隊導入の口実にしてやろうというのか、商店のガラスをことさら割って回る、正体不明の白人たちの姿も目撃されている 。
自分たちの権利を主張するデモ隊に襲い掛かる警官隊は、香港とみまがうばかりだし(香港の街頭風景の方が先進国みたいだが)、何か策謀して回る白人たちは、20世紀初めのロシア帝国で、民衆の請願デモを扇動し、血の日曜日事件を起こした当局のスパイ、ガポン神父のような古い汚い世界を彷彿とさせる(それはもう115年も前の話なのだが)。この憎しみと、安っぽい策謀のごった煮が世界の盟主、米国の姿なのかと思うと情けない。
トランプは2日、自分は「法と秩序」を守る大統領だと言明、デモ取り締まりが不十分な州には連邦軍を送る用意があると言った。多分、彼の言うことに従わない民主党の知事がいる州を念頭に置いているのだろうが、これではまるで南北戦争だ。それに、黒人兵士も多い連邦軍が同胞に銃を向けるだろうか? 
これまでトランプに従順だったエスパー国防長官は3日、記者の前で堂々と、「今は連邦軍を用いる時ではない」と言い放った。そして軍内部では依然として尊敬を集めていると言われるマティス前国防長官は4日 、トランプがその「未熟なリーダーシップ」で国を分裂させていることを非難、「憲法で保障された国民の権利を蹂躙する」ために軍を投入することを否定するとともに、「米国の市民社会はトランプなしでも団結することができる」と述べたのである。これでトランプは、軍の支持を失ったことが明白になった。
そしてトランプは、保守票の多くを差配するキリスト教会からも反発を食らった。2日、彼は上記の、連邦軍を送る用意があるというスピーチのあと、近くの教会の前で聖書をもってポーズをとった。これまでエルサレム問題などでさんざん恩を売ってきた、キリスト教会の加護を期待したのだ。ところが教会側は、この大統領パフォーマンスの直前、当局が催涙ガスで教会前の公衆を蹴散らかしたことに怒り心頭。抗議の声明を発表する始末。トランプの盟友で極右の巨頭、スティーブン・バノンが以前から、彼にとってはリベラル過ぎるローマ法王を追い落とす策謀を繰り広げてきたこともあり 、ローマ法王がトランプを破門するようなことになれば、米国は「カノッサの屈辱」時代の中世欧州に逆戻りだ。
外交面でも、トランプは米国を孤立化させるばかり。同盟国を嫌う彼は、6月のG7先進国首脳会議は電話会議でやるのだと言っていたが、5月20日になって突然、「(コロナ騒ぎはもう終わったことを世界に示すために)本当に集まろう」と言い出した。以前から彼と険悪な関係にあるメルケル・ドイツ首相が不参加の意向を示すと、トランプは逆上し「G7は時代遅れ。ロシア、インド、豪州、韓国首脳も呼んで9月にやる」と言いだした。彼のスポークスウーマンによると、「中国の将来」をどう考えるか、皆で議論したいのだそうだ。これも思い付きで、中国抜きで「中国の将来を話し合う」ような会議に、ロシアや韓国の首脳が出てくるはずがない。インドでさえ、中国とは対立一辺倒ではなく、経済では手を握っている。トランプはこれで、今年のG7をダメにした。それだけでなく、彼が「時代遅れの勢力」と名付けた西側同盟国の支持を失ったのだ。

こうしてトランプはツイッター、軍、そしてキリスト教会、欧州の同盟国と、次々に翼を失い、その存在は矮小化してきた。このままでは、大統領再選は風前の灯。これまでトランプ人気に乗って当選しようともくろんできた共和党議員達も、そろそろ掌をひるがえすだろう。シナリオとしては、夏の共和党大会で別の大統領候補を立てるか、それともトランプを今追い出すか。米国憲法第25条には、「副大統領と閣僚等の多数が、上下院の議長に書面で、大統領は執務不能だと告げれば、副大統領が大統領代理として直ちに始動する」という趣旨が書いてある。ペンス副大統領はもともと、共和党の大スポンサー、コーク・インダストリーズのカネをつないできた人物だから 、座りがいい。

トランプがいなくなる、あるいはいなくなりそうだということは、「コロナ後の復活」ということで空騒ぎをしている米国の株式市場、そしてそれよりも重要な債券市場には大きな衝撃となる。彼が米連銀の尻をたたいて国債を際限なく購入させることで、膨大な財政赤字と低金利という普通はあり得ない組み合わせを実現してきたことが、チャラになり得るからだ。その時、金利は急騰し、不良債権が一気に増大して2008年のような金融危機をまた引き起こす。トランプ落ちて、ドルまた堕ちる、という結果になりかねない。

中国も内部はまた裂き状況

 だがドルが下落するのは、これが初めてではない。下落しても、世界中の貿易がドルで決済されている現状では、危機の時には米連銀が世界の中央銀行としてドルを供給する、つまり通貨覇権を維持することになる。
仮にドル以外のものが決済手段となっても、「米国に代わって中国が世界の盟主になる」ということにはなるまい。米国経済が破綻すれば中国の対米輸出もさらに激減する。2000年代からの中国の高度成長は、米国との貿易黒字、そして西側からの直接投資を元に替えて、インフラ投資で膨らませたことで実現したものだ。米国経済が破綻することは、それに従属する中国経済の破綻も意味する。そして中国経済の破綻は、世界の経済混乱に一層拍車をかける。2008年のリーマン危機は、国内支出・融資を60兆円相当も増やして乗り切ったが、今や財政赤字が年間90兆円相当に達している 中国は、その手はもう使えない。

中国は香港を政治的に抑えつけようとしているが、その香港を通じての資本の流出が最近激しさを増している。中国のお偉方たちは国際化されているので、公金をくすねては、留学させた子弟の生活資金と称して多額の金を海外に送金している。中国では「カネの流れが政治の先行きを示す」と言われる。幹部たちは、習近平政権という泥船から脱出を考え始めたのかもしれない。
 それでも、「米海空軍をそばに寄せ付けない」兵備を整えた中国は、米国の破綻に乗じて台湾を武力占領するかもしれない。日本がそれを防ごうとしても、中国が日本をたたけるミサイルを何百発も保有している現状では無理だ。米国は、在日米軍を守るためにも、日本本土に中距離核ミサイルを配備して、中国のミサイルを抑止しろと言ってくるだろうが、イージス・アショアの配備だけでもすったもんだしている日本に、そんなことができるはずがない。
しかし台湾が中国の手に落ちたからと言って、核兵器で決定的に不利な立場にあるからと言って、日本が中国に服属しなければならないことにはならない。中国に、それだけの力はないし、これからその力は横ばい、あるいは下向きになっていくからだ。

「中位国連合」の魅力

米国は国内問題で手いっぱい。民主主義を語る余裕もない。それであるなら、日本は中国と手を組めばいいと言う人たちもいるが、それでは日本の領土と民主主義は守れない。日本はどうしたらいいのか?
これは「胸を張って」とか「対米従属をやめて」とか勇ましい言葉で何とかなる、という話ではない。米軍なしに安全保障を確保しようとしても、日本にはカネと技術と人が足りない。そしてドルに代わって世界との貿易・投資決済をできる手段を整えておかないと、日本は米国の意向に背くことはやりにくい。「そんなことをするなら、ドルを使えないようにしてやる」という制裁をくらうからだ。

それでも、米国、中国、ロシアといった図体の大きな国々が張り合って、角突き合うのにつきあうのはもう飽き飽きだ。日本にとって米軍は、中国を抑止するため必要だが、米中が戦争になれば日本の対米協力には限界がある。日本は、中国の核ミサイルを撃ち込まれかねないからだ。それにもう米国は、民主主義の旗手ではなく、私利私欲追及の国家になってしまった。
いずれの国家も私利私欲を追求するものだが、日本は自分の尊厳と権利を確保したい。米国でも中国でもロシアでもない、国の格が同等で、かつ民主主義・市場経済を保持するのに役立つパートナーはないものか? そこでEUに目を移す。

5月18日、きわめて重要なことが起きた。メルケル首相とマクロン大統領が、EUとして単一の債券を発行して5000億ユーロのコロナ後欧州復興基金を作ることで基本合意をしたのだ。これは、ドイツの経済力を担保に、EUとしての単一国債を出す、つまり財政はばらばらのEUなのに、借金だけはドイツの経済力を担保に、自分一国だけの国債を出すよりはるかに好条件で増やすことができるという、隠れたEUの統合強化――別の言葉で言えば、ゲルマンによるラテン地域の買収統合――なのだ。

これには、オランダや北欧諸国が反対するかもしれないが、実現すれば、「米国でも中国でもロシアでもなく」、かつ民主主義と市場経済を奉ずる大きな存在EU(と言うかドイツ)が力を増すことになる。米欧の離間が進んでいる今、ドイツ、フランス、日本、カナダ、豪州、ニュー・ジーランド、北欧・ベネルクス諸国など、中位先進国から成る「ミドル・パワー連合」とでも言うべき存在を作る足場になり得るのだ。ちなみに計算してみると、中小のいわゆる先進民主主義国を合わせたGDPは約24兆ドルで、米国のそれをやや上回る。

 もちろん、これら諸国が一丸になって機敏に動けるわけではないし、日本の安全保障と経済に大きく資するわけでもない。しかし、それでも世界での日本の地位を高めてはくれるだろうし、貿易決済、外貨準備の運用でも、ドル以外の選択肢を増やしてくれるだろう。手始めに、こうした中位の民主主義諸国が、ポピュリズム政治への警告、WTO再強化、コロナ対策、そして再生可能エネルギーへの移行などについて、共同イニシャティブでも取ってはどうか?

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/4016