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日本安全保障

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2019年10月 5日

トランプと日本の核武装

(これは9月25日に発行したメルマガ「文明の万華鏡」の一部です)
日米関係については貿易面での協定がほぼ成立したことで一件落着の泰平ムードが強いが、実は大変な第2幕が仕込み中。それは日米安保条約と米国の核の傘の運命について。
米軍の日本での駐留に関わる費用については、日米地位協定をベースに日米間の分担が定められ、日本はそれを超えるものを「思いやり予算」として払っているわけだが、両者合計は年間6000億円程度(8000億円という計算もある)。

思いやり予算を定める「在日米軍駐留経費負担に係る特別協定」は2021年の改定をめがけて、そろそろ交渉が始まる。米国はトランプの言う、「米国は日本を守らなければいけないのに、日本は米国を守らなくていい。不公平な同盟だ。ならば、日本は駐留米軍に対してもっとカネを払え。今の5倍」という論理を交渉の出発点としてくるだろう。

そしてそれに、「核の傘」あるいは日本の核武装の問題が付随するだろう。8月25日、G7先進国首脳会議の際の日米首脳会談で、トランプは記者を前に、それを言ったらお終いよ、という言葉をいともしゃあしゃあと言ってのけた。それは、「北朝鮮のミサイルで米国に届くような長距離のものは脅威だが、中距離以下のものについては安倍総理の問題だ」というものである。

そしてもっと具体的な問題として「核」を日本に突き付けているのは、新型の陸上発射中距離ミサイル(射程が500キロ以上。これまでは1987年の米ソ・中距離核ミサイル全廃条約で禁じられていた)を米国が開発しており、エスパー国防長官は既に、日本を含むアジアの同盟諸国が自国領土にこれを配備することを望むと発言している、ということだ。このミサイルは以前からある巡航ミサイル「トマホーク」(1987年の条約は、海上、海中、空中から発射する中距離核兵器は禁止していなかった)を陸上発射に転用しただけなので、発射実験は既に8月18日に成功している。ただ、米国は巡航ミサイル「トマホーク」に搭載する核弾頭を2010年代初期に全て廃棄しているので、核弾頭を再度生産しないと、この新型ミサイルにつける核弾頭はない。日本本土に配備するにしても、はじめは通常火薬弾頭を搭載したものになるだろう。

日本政府が秋田県と山口県に配備を検討しているイージス・アショアの発射機からは、本来のSM-3迎撃ミサイルだけでなく、この米国が開発中の中距離巡航ミサイルも発射することができ、ロシアが既に警戒の声を上げている。

だが、そのロシアは以前から陸上発射中距離ミサイルを開発済みで、折を見て極東方面にも配備したいところだろう。極東には既に短距離ミサイル「イスカンデル」が配備されていて、その発射基から中距離巡航ミサイル「カリーブル」を発射することができる。

それは在日米軍基地を牽制する手段であるほかに、中距離核ミサイルを100基以上保有すると推測される中国をも牽制(抑止)するものとなる。しかし、準同盟関係にある中国を標的にしているとは言えないだろうから、日本のイージス・アショアを盛んに批判して、自身のミサイル配備を正当化する。ロシアは、そういうことを狙うだろう。だから、日本がロシアの圧力を真に受けて、イージス・アショアの配備を止めても、ロシアは別の口実を見つけて中距離ミサイルの極東配備を実現してくるだろう。

こうした状況で、日本はどうしたらいいだろう。トランプの前記発言は、日本の独自核武装を認めるかのように聞こえるが、そうはなるまい。米国エリート層の多数は、日本の核武装を認めないだろうからだ。彼らは、日本を米国に依存させて、在日米軍基地を提供し続けさせたいものと思われる。

では、米軍が核ミサイルを日本に持ち込むのはどうか? しかしそれも、どこか遠海の無人島ででもない限り、日本の領土に配備するのは無理だろう。秋田県や山口県に配備する話のあるイージス・オフショアからはトマホークも発射することができるのだが、それが相手国からの先制攻撃の対象になることを意味すると知れば、地元はその配備を金輪際認めないだろう。従って、米国が開発する核弾頭つき中距離巡航ミサイルは、グアム島や周辺海域の潜水艦や空母搭載の飛行機に配備してもらうことになる。

そしてトランプはこの話し合いのプロセスの中で、「米国の提供する核の傘に対して日本はもっとカネを払え」と言い始めるだろう。2010年ころまで西太平洋の米軍艦船が搭載するトマホークは核弾頭を装備していたが、日本は別にこれに対してカネを払っていたわけではない。トランプは核弾頭の再配備を口実に、核の傘に値段をつけてくるのだ。

日本は結局払うことになるだろうが、それではあまりに芸がない。何か代償を米国から取るべきだ。例えば、西太平洋に配備される米軍の核ミサイルについては、その一部が日本の核の傘でもあることを明確にするために、dual key方式を採用してもらう。これは冷戦時代からドイツ(西独)と米国の間に存在している合意で、ドイツ領に配備されている米軍の短距離核兵器は、いずれか一方の要請があれば他方はこの核兵器の使用を検討する、両者が一致して発射キーを回さないと、この核兵器は使用できない、というものである。

それも難しいということならば、例えばNATOで冷戦時代からやっている「核計画グループ」(NATO域内の核兵器の現状を把握するとともに、配備計画を調整)のようなものを日米で正式に立ち上げるとともに、日米間で原子力技術交流・協力の強化を約束することによって、日本が独自の核兵器を開発し始めたのではないかという猜疑心を周辺諸国に持たせる、そしてそれを抑止力とする、というようなことも考えられる。

しかしこんなに複雑、かつ国内の調整も大変なものを、日本政府がハンドルできるとは思えない。結局のところ日本の安保トリオ、茂木外相、河野防衛相、北村・国家安全保障局局長は、米国の要望を正面から受け、対価を求めるよりも「どのくらい値切るか」で国内の合意を得ることだけで力尽きるのであるまいか

独自の取引で何か米国から引き出そうとでもすれば、「あの人があんなことを米国に言うものだから、すっかり怒らせてしまった」という非難を浴びせられて手を縛られるのが見え見えなので、手っ取り早い譲歩で米国と早く合意に達してポイントを上げようとするのだ。日本の外交によく見られる、世論の縛りである。

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