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日本安全保障

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2015年12月 7日

G7首脳会議で 日本は西側のテロ対策の前面に

(これは12月1日発刊日本語版Newsweekに掲載された記事の原稿です。タイトルは変えてあります)
                              
 欧州で、ISISのテロが荒れ狂っている。「イスラムのテロ」とよく言われるが、それは不正確。イスラム教徒の大半は穏健である。中世のバイキングや倭寇も一種のテロだが、彼らはモノやカネを狙って狼藉を働いた。ISISの場合も、イスラム過激主義は行いを正当化するため、そして無知な青年たちを引き込む道具で、指導者達は野心・利権に駆られて動いているに違いない。

ISISを生んだもの
 ISISはシリアで活動しているアル・カイダから、アル・バグダディなる者が飛び出て設立したものである。そのアル・カイダは湾岸諸国から支援を受け、湾岸諸国の天敵であるイランに近いアサド政権を倒すために活動していたと言われる。ところが2014年3月、サウジ・アラビアの総合情報庁長官のバンダル王子は解任され、代わってシリア工作を担当したナイフ内務大臣はシリアでの活動分子を摘発する方向に転ずる。

ISISの動きが表面化したのは2014年初からなので、あたかも湾岸諸国からの支援が途絶えるのと同時に、自ら金づるを求めて勝手な動きを示し始めたように見える。このように雇い主を失ったテロリストが「国際テロリスト」になった前例は、多数ある。例えばウサマ・ビン・ラーディンは元々、米国、サウジの支援を受けて、アフガニスタンのソ連軍と戦うムジャヘディンを指揮していたのである。

 テロを生む背景はさらにある。2008年リーマン・ショックで世界は不況に陥った。中東諸国や南アジア・中央アジアでは青年の失業者が増え、彼らはテロ集団に加わって生活の糧を得ようとするようになった。先進国でも青年の失業は増えたし、成功者との格差が拡大したため、生きがいを求める青年たちがISISに応募することとなった。ISISの兵員の半分約1万名 は中東域外、つまり中央アジア、ロシア、欧州等の国籍を持つ者と推定されている。

 さらに大きな背景を言えば、大国が介入して政権を倒したり、情勢を流動化させた後に無責任に撤退すると、力の真空状態が生まれて、テロ勢力の跳梁を生みやすくなるということがある。古くは、ソ連軍が撤退したあとのアフガニスタン、そして今回はイラクといった具合である。そして専制支配の下にある途上国の民主化を助けようとする西側NGOの活動も、意に反してその国の情勢を不安定化させ、力の真空化を招いてテロ勢力の伸長を許してしまうこともある。

日本も関与を迫られる

 中東のテロ、難民の問題は、日本にとって対岸の火事ではない。日本は来年G7先進国首脳会議の議長国となるので、なおさらである。欧州、米国ではテロ容疑者の摘発が強化されている。「疑わしき者は検挙する」予防検束、被疑者への盗聴等、これまでの法制ではできなかったことも行われるようになっている。また難民受け入れを増大しつつ、かつテロリスト審査は強化するという難しい課題もクリアしないといけない。これらについては、G7でも調整をしないといけないだろう。

 そして、もしISISに対する本格的掃討戦(陸上戦)が始まれば、日本の対応が問題となってくる。欧州諸国がNATOとして作戦を行うこととするなら、日本が直接参加を求められることはあるまい。しかしフランスは既にこの件を国連安保理に提訴している。ロシアは、ウクライナでのマイナスを帳消しにするため、ロシアも加わった多国籍軍をISIS掃討に派兵することを提唱する可能性があり、それが実現すると中国軍、日本の自衛隊も関与を当然求められることになる。

 なお中東の不安定化は、テロと裏表の関係にある難民問題も生んでいる。これについては欧州を中心に、「日本は難民を11人しか受け入れていない」 という数字 が独り歩きして、日本に対する非難がましい声が聞こえ始めている。実は、日本では難民資格審査中の者が5000人余も長期滞在しているのだが、そういったことを広報することの是非、やり方も考えないといけない。
 また日本は、中東から地理的に遠い位置にあるので、テロや難民を生み出す基本的な環境を是正する措置をめがけて、イニシャティヴを取り得る。先進国における景気の回復と格差の縮小(米国が行っている過度の投機行為抑制などはその一例)については、先進国間でコンセンサスは得やすい。他方、南北格差、そして途上国国内における専制・格差をどうやって是正するかは、難しい問題である。「レジーム・チェンジ」のような暴力的手段ではなく、先進国への出稼ぎ者、移民の枠増大から始まって、終戦直後米国が手掛けた「マーシャル・プラン」のような、所得移転によって消費・投資を刺激する等の策の検討を提唱してみてはどうか。

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