Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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日本安全保障

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2014年12月20日

日中関係のこの先は

(11月26日発行のメルマガ「文明の万華鏡」より。全文は「まぐまぐ」社http://www.mag2.com/で同メルマガをお求め下さい)

上海のAPEC首脳会議で、日中首脳会談が行われたことは良かった。と言うのは、あのくらいやっておかないと、米国が尖閣の問題で腰を引く口実にしてくるからだ。

問題は、あの会談を実現するために日本がどこまで譲歩して、それがこれからどう響いてくるかだ。谷内国家安全保障局長が楊潔篪・国務委員と合意した文書なるものを読むと、「日本は、尖閣の領有権が日中の間で係争になっていることを認めた。領有権をめぐっての交渉を始めることに日本は合意した」と中国が言い立てる可能性がある、という気がしてくる。

中国語版を訳すと、「双方は、釣魚(尖閣)島等をめぐって東シナ海で生じた最近の緊張状況においては、異なる主張があることを認識するに至った」ということで、異なる「主張」という中国語が使ってある。中国はこれを、英語ではpositionと訳して世界にばらまいている。日本側の英訳はviewである。Positionなのかviewなのか、日本は係争が存在していることを認めたのか認めていないのか、日本国内で訓詁学的論争を繰り広げていても意味はない。広報の主戦場は米国である。そしてASEAN、ロシア、インド、大洋州諸国、NATO、EUにも、日本の立場をきちんと説明しておかねばなるまい。世界が中国の言い分にどこまで乗るかは、理屈の正しさ如何よりも、力関係、そして利益次第ということになるとしても。

世界のマスコミは、今回のAPEC首脳会議での中国の采配は朝貢外交、冊封体制の復活だと書き立てている。しかしそれでも、経済的利益に目がくらみ、中国の勢いにも気おされて、中国と仲良くやっていこうとする世界の大勢は変わらないだろう。だから日本は、中国と対立一辺倒では孤立する。核兵器では中国が絶対的優位に立っていて、いざとなれば日本全土が無人の地にされてしまう可能性もあるので、そんな外交状況―米国が核の傘を日本にさしかけてくれないような状況―に陥らないよう注意していかないといけない。

当面、対中外交の基本的な心構えとしては、次の点を念頭に置いていきたい。

1)やれ、「APEC首脳会議ではオバマが中国になびいた」、やれ、「その直後のG20では、そうでもなかった」とか、一々の局面に一喜一憂、米国や中国の一挙手一投足にキャンキャン言わない。例えば今回の日中首脳会談について、人民日報が「日本側の求めに応じて会ってやった」と言わんばかりの報道を繰り広げている、との見方が日本で広まったが、人民日報を見てみたら何のことはない、「応約」、つまり会う約束ができたので会った、という当たり前のことが書いてある。これを曲解して騒ぐのは、こちらにコンプレックスがあることを自ら暴露するもので、見苦しい。

米国は世界における指導権を維持したいというのがまず基本にあって、その枠の中で、では台頭する中国とどう付き合うか、中国との経済関係で利益を収めつつも、中国にアジアを牛耳られないようにするにはどうしたらいいか、ということでやっている。その米国にとって、日本はASEAN諸国の取りまとめ役のようなもので、日本を失うと、多分アジアでの支配権も失ってしまうのだが、さりとて日本に無闇やたらに中国と事を構えて欲しくない。そういった、米中関係の基本を見据えつつ、日本はやっていけばいい。

2)中国政権の基盤がどこにあるのか、見極める。習近平は腐敗一掃を武器に権力を確立しつつあるが、手足となって彼を支える勢力が何なのか、誰もわかっていない。それが共産党組織なのか、軍なのか、公安なのか。そして習近平は、江沢民・曽慶紅一派の勢力を抑え込むのに成功したのかどうか。そこもよくわかっていないのだ。多分、決着がついていないに違いない。

3)日本にとって、中国の支配圏に組み込まれないようにするには、米国の手助けが本当に必要なのだが、その米国がどこまで日本やフィリピン等の同盟国の肩を持ってくれるかは、細心の注意をもって見極めていかないといけない。中国は南シナ海の制海権、制空権を狙っており、南シナ海の暗礁を埋め立て滑走路を作ってまで、野望を遂げようとしている。米国は、これを今のところ看過している。オバマ政権第1期には「アジア重視」(Rebalancing)ということで、アジアへの兵力配備増強を謳っていたが、この頃ケリー国務長官の発言などを見ると、「アジア重視」はお経のように唱えはするものの、その中からは軍事的要素がきれいさっぱり脱落しているのである(例えば、11月5日の米中関係に関する演説)。ウクライナ情勢悪化やイラクでのISIS台頭に対処するため、米軍兵力はむしろアジアから引きはがされるトレンドにある。

その中で、日米両政府の関係に齟齬が見られる点が最近の心配点である。オバマ大統領とはどの国の指導者も打ち解けた関係を作れていないが、安倍総理もその点で例外ではない。しかも「安倍総理は国家主義者で、戦後の体制を崩したがっている」という単純化した見方をワシントンやニューヨークで広めた連中がいる。そして、ウクライナをめぐっての対ロ制裁では、日米両国の立場はねじれている。APEC首脳会議の場でオバマとプーチンは殆ど口も利かないほど関係が冷却しているのに対して、安倍総理はプーチンと90分間も話し込んだ。米国人の心理にはずっと以前から、「日本がソ連と結託すること」、「日本が中国と結託すること」への恐怖心がある。それを掻き立てるような、あまりにもあからさまなやり方は、危ない。

4)中国の経済は本当に強いのか? これからも高度成長を続けられるのか? そこを見ていく。人間は誰でもそうだが、この頃の中国人も中国経済の見かけの繁栄にすっかり酔って、自分達の力を過大評価、世界中で傍若無人、粗忽な振る舞いに及んでいるのではないかと思われるからだ。世界を旅行してみると、空港などで中国人が行列の横入りなど、ルールを無視して愧じないことが目につく。中国の大使館員は、地元の中国専門家などを顎で使う態度を示す。
中国の経済は、外国から資本と技術がなだれ込んだことで急成長した。2000年代には貿易黒字と直接投資で年間約30兆円もの資本が外国から流入している。そしてこの貿易黒字の半分以上は、中国で操業する外国企業が輸出して得たものだ。

今、中国は外国企業への優遇措置を停止し、自国企業を優遇する方向に移行している。外国企業は、外国から輸入する部品の価格を吊り上げている等の言いがかりを、中国の独占禁止当局からつけられ、多額の罰金を徴収されている。これからの中国市場で、外国企業は中国の企業との競争にさらされるようになり、薄利多売、収益率の大幅な低下を余儀なくされるだろう。

米国やEUは、中国との経済関係から得られる利益に目がくらんできたが、この面での中国の魅力はこれから褪せてくるだろう。特に、GMなどの製造業は、これから中国で辛酸をなめることになるのではないか。10月ブラッセルで、EU委員会にいたドイツ人の旧友の話しを聞いたが、彼もこれまで中国市場で先を走ってきたドイツ自動車メーカーの今後を心配していた。ドイツは大衆車での利益率が低く、Audiなどブランド車への依存度が高い。中国市場での競争がこれからきつくなる一方だというのに、インド、東南アジアなどでの生産・販売は全く遅れている、ドイツの企業はアジアの市場を上から目線で見ているからだ、というのだ。

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