Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

インド

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2012年4月14日

インド旅行記 インドと組んで中国に対抗するという人たちへ

話しは前後するけれど、中国と中国人がどこまでインドに食い込んでいるかについて書いておく。日本では、強大化する一方の中国に対抗するためにインドと組む、という発想が強いのだが、印中関係というのは対立一辺倒ではない。それにインドも日本のことを、対米従属で自分ではものごとを決められない国だと思っている節が強いので、気を付けないと日本の片思いに終わるということを言いたいからだ。

たしかにインドのエリートは中国に対抗心、警戒心を持っている。それは、インドの安全保障にとって随一の懸念材料であるパキスタンを中国が支持しているからだし、国境紛争も抱えているからだ(インドは中国に占領された領土を「北方領土」と呼んでいるのだそうだ)。中国は中国で、インド洋のスリランカ、モルディブなどに地歩を拡大しては、インドの制海権(インド海軍は英海軍人の指導を受けているのだそうだ)にチャレンジする構えを強める。僕がインドにいる間も、モルディブでのクーデターまがいの政変がインドで大変な話題になっていて、僕はまたなんでそんなに騒ぐのかわからないでいたが、これはモルディブで親中国勢力が伸長しかねないことを懸念していたので、米国もNuland国務省特別代表を急遽送り込んで調停を試みるなど、すったもんだだったのだ。

中国にとってみれば、これは中近東、アフリカからの石油輸入「シーレーン」を確保するための已むに已まれぬ行動なのだろうが、世界世論はこれを、インドの首に中国が巻きつけたダイヤのネックレスと呼んでいる。他方インドもインドで、米国、日本、豪州などと提携関係を推進しているし、モンゴルとは毎年、軍の共同演習(双方50人以下の規模だが)までやっている。

だが印中関係が対立一辺倒だと思うと、間違いなのだ。ロシアが勧進元となって、インド、中国、ロシア三国の外相会談、首脳会談は何回か開かれているし、この3国はBRICSのメンバーとして、WTOなどでは米国に共同して対抗したりする。印中には、首脳の相互訪問も珍しくない。2006年11月には胡錦濤国家主席が来訪したし、昨年12月来訪した温家宝首相は、電力分野など200億ドル近くの商談で合意、FTAの速やかな交渉開始を呼びかけている。そして中印間の貿易額を2015年に、今年の見込み額の1・7倍、1000億ドルに拡大する目標で合意、中国はインドのITサービス、後発医薬品、農産品の輸入拡大を促進、インドは道路・鉄道などのインフラ整備や製造業で中国の投資受け入れを歓迎する考えを示した。

今年2月の「選択」によると、中国のハイアールが生産する洗濯機、冷蔵庫、レノボが生産するパソコンはインド市場を席巻しているし、財閥リライアンスが出しているタブレット3Gも中国製、バイクの生産を「低賃金の中国」に委託している企業もあるらしい。中国製の発電機はインド市場の4割を押さえ、インドの鉄鉱石輸出の95%は中国向けである。中近東は伝統的にインドの商圏と見做されているが、それを悪用して中国製のmade in India製品さえ流入しているそうだ。このバンガロールのあたりでも、土産物のガネシュ(ヒンズー教の象の神様)の神像http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A3も裏を見るとmade in Chinaと書いてあったりする。僕も以前、日本の円借款も使って建設されているはずのデリーの地下鉄工事現場で、中国の建設会社の大看板を見て、苦笑したことがある。他方、インドのIT企業や後発医薬品メーカーも中国をモノとサービスの有望な市場と位置付けており、経済で両国は相互依存関係にあるのだ。

そしてなんと、両国は共同軍事演習をすることもある。2007年12月には、雲南省で初の合同軍事演習を実施するという報道があった。テロ対策を想定、両国からそれぞれ陸軍約100人が参加するのだそうで、両国海軍は2003年に上海沖で捜索救難訓練、今年4月に青島近海で通信訓練をするなど交流を重ねている。

これまでの中国経済は昇竜の勢いだったが、それには土地再開発に大きく依存した、「繁栄の前借」的な要素がある。そしてこれからは人口の老齢化が急速に進んでいく。それに比べるとインドは、強すぎる私的所有権に土地の再開発を阻まれているが、他面その経済成長にはバブル的な要素は小さく(輸出/GDPは約15%と日本並みの低さで、堅実な内需主導の成長である)、インドの人口は2050年までに中国を上回る16億5800万人になると予想されている他、現在30歳以下の若年層が人口の約6割を占めていることも、中国に比べて有利な点だ。マッキンゼー・グローバル・インスティテュートの予測ではインドの「中間層」(年収20万~100万ルピー)は05年時点で約5000万人だが、2025年には5億8300万人(総人口の41%)に達するとしている。現に携帯電話契約数は08年末に2億5000万人と、前年から約8000万人もの増加を示している。もっとも、世界の貧困層(1日1人当たり消費支出が1ドル以下)の約4割がインドにいるという、芳しからぬ数字もあるが。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/2135