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世界はこう変わる

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2011年8月 7日

世界経済は崩壊するのか  中国人へのよびかけ

(以下は、米国債の格付け下げについて、中国に説明するためのものである。今、中国語に翻訳してもらっているところ)

8月初め、アメリカ国債の格付けが下げられた。8月初めに米国議会で成立した財政赤字削減計画では、アメリカの財政立て直しに不十分である、と格付け会社が判断したためである。そしてほぼ同時に発表された、第二四半期の米国経済指標が予想より悪かったこともあり、株価は大きく下落を始めた。これは、米国の覇権が中国に移行するプロセスの始まりなのか? 2008年Lehman Brothers世界金融危機以来続く、世界経済の不安定の根本的な意味はいったい何なのか?

私は、これには二つの意味があると考える。一つは、金などのモノの価値に裏付けられていない「紙の」通貨、即ちドルの扱いに我々が失敗しているということである。モノの価値に裏付けられていない紙の通貨を出したのは、アメリカが初めてではない。西暦1000年くらい、他ならぬ中国の宋王朝は交子という紙幣を出してインフレを招き、王朝没落の一因となった。続く元王朝も交鈔という紙幣を出して同じく没落していった。

第二次大戦後、唯一の経済大国となった米国は英国の負債を肩代わりし、ドルで支払うことで、世界にドルを普及させ、その価値を金に結び付けて価値を保証した。ベトナム戦争を契機に米国は貿易赤字に陥り、ドルは信認を失った。ドルを手に入れたフランスなどがアメリカから金を持ちだすのを防ぐため、1971年ニクソン大統領は金を普通の商品扱いにし、その価格を自由化――つまりドルを金の価値から切り離した。これによって、ドルはいくらでも増刷ができるようになったのである。世界は初めて、金などのモノの価値に結び付いておらず、ただ米国の政治・経済・軍事力によってその価値を保証されている通貨=ドルを、「国際通貨」(表示、決済、蓄積の手段)として使うようになったのである。

ドルがモノとサービスの生産に応じて徐々にその流通量を上げるのであれば、紙の通貨であっても構わない。だが1960年代後半から日本からの大量の輸出によって製造業の多くを失った(米国外に移転した)米国人は、カネでカネを作り出す手法を編み出した。つまり1990年代になると、米国の銀行はその貸金を債券に変えて売却することで、資本金の30倍もの融資が行えるようになったのである(通常は10倍程度)。

そして90年代の末になるとクリントン政権は規制を緩和し、普通の商業銀行もそれが保有する膨大な預金を使って先物などの投機的取引ができるようにした。これにより、世界に流通するドルの量は膨張し、金融バブルとその崩壊が頻繁に起こるようになった。世界全体のGDPは1996年に約30兆ドルだったのに対し、世界の株式・債券など金融資産は約60兆ドル―――つまり実体経済と金融資産の間の差は30兆ドルだった。その格差が2006年度には130兆ドルにまで拡大したのである。ロンドンやニューヨークを本拠とする大金融資本に働く者達は、欲に歯止めをきかすことができずに、世界経済を定期的に危機に晒すようになったのである。

もう一つ、世界が直面しているのは、民主主義と公的社会福祉の組み合わせが生み出した慢性的な財政赤字の問題である。19世紀以来の欧州での産業革命は、広い中産階級を生みだした。彼らは政治的権利を求めるし、政党は彼らに投票権を認めることでその支持基盤を拡大しようとする。従って、選挙権を持つ者のカテゴリーは常に拡大し、英国では1928年には普通選挙権が成立した。そして社会福祉制度は、それと並行して充実していった。政党が、福祉の拡充を約束しては選挙民の歓心を得ようとしたからであろう。つまり、選挙があることが人々の暮らしを豊かにし、格差を縮小したのである。アメリカでは公的な年金・医療制度に対する反感が大きいこともあって、このメカニズムは機能しなかったが。

この社会福祉のシステムは先進国の財政負担を際限なく大きなものにしつつある。最近信用不安に陥ったギリシャなどでは、40代から年金生活に入れる職種がどんどん拡大していた。日本でも、社会保障が独立会計であるにもかかわらず、年金、医療への補助金は国家予算全体の約50%をも占めるに至っている(日本のGDPは約6.8兆ドル。社会保障支給額は年間1.4兆ドルに上る)。そして、経済が不振の中でもこの支出は削減できないために(そんなことをすれば、与党は次の選挙で政権を失ってしまうだろう)、国債を増発して支出を賄っている。このために、未返済の国債の累積額はGDPの2倍に達している。

このような事態からの出口はあるだろうか? 世界各国がその輸出先を、米国から中国に振り替えることが解決策になるだろうか? それは不可能だろう。19世紀に産業革命が本格化して以来、欧米諸国は工業製品をアジアに輸出することで、中国やインド(1800年頃までは世界のGDPの半分を占めていた)の富を自国に移転したと言える。第2次大戦後、日本がその工業製品を欧米に輸出することで、富を自国に移転した。そして今、中国がその工業製品を先進国に輸出することで、富を自国に移転している。そして中国国内で活発な建設を進めることで、その富を膨らませているのである。

ここから言えることは、中国の経済成長は無制限ではない、ということである。なぜなら、欧米・日本も中国からの輸入を無限に増やせるわけでもなく、さりとて中国が建設等の国内需要だけで経済成長をはかろうとすると、貿易赤字やインフレの問題が生ずるだろうからである。

そうなると、ソ連時代のような計画経済への郷愁が頭をもたげるかもしれない・・・国と国の間の貿易は常に均衡するように事前の話し合いで決められており、インフレが起きないように価格は国家が全て決めていた。企業は何をいくついくらで作って、どの企業に売り、どの国にいくつ輸出するか指令されていた。今や中国は世界で2番目の経済大国だ。この地位を、各国との合意で未来永劫維持していけるだろう・・・、と。

これは破滅に至る道である。どうしてなのかは、ソ連崩壊の歴史をひもといてもらえばわかる。それでも中国がそのような路線を取ると言うなら、先進国はそれを止めはしないだろう。

他方、先進国が取るべき対策は、一つにドルの量を抑えてその価値を安定させること、モノ・サービスの流れをカネの流れの過度の振れによる悪影響から遮断すること(まだ考えているところなので、抽象的にしか言えない)、そして国内での投資を盛んにすることによって成長率を回復し、それによって財政赤字の削減をはかること、ポピュリズムの政治が際限なく予算を膨らませることに歯止めをかけること、などだろう。

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