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世界はこう変わる

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2011年4月11日

2011年3月のアメリカ――印象記3 (アメリカの政治)

2012年の大統領選
2012年の大統領選まであと1年半もあるが、選挙戦は実質的にもう始まっている。だがワシントンでの今の雰囲気は、「オバマ大統領再選でほぼ決まり」ということなのだ。その理由はいくつかある。

①共和党側に有力候補がいない。「大統領選というのはね。今ころから準備しないと立候補さえできないという厳しいものさ。資金集めからして、大がかりな体制を作らないといけないから」と、ある共和党系選挙屋は僕に言った。
そして、「共和党というのはね。強い候補をなかなか出せない。今回も茶会派の連中の支持を得ようとすると、えらく保守的な候補を選ばざるを得ず、それでは幅広い得票は得られない。ロムニー(元マサチューセッツ州知事)かハンツマン(前在中国大使)だったら、共和党支持者以外にも食い込めるだろうが」という要素がある。

②その「茶会」派たるや、昨今米国内政治のジョーカーみたいな存在で、これが米国社会における原理主義的な対立を激化させるのではないかと、僕などは恐れていたのだが、ワシントンやボストンではそれほどの危機感は見られなかった。
「茶会派とはもともと、黒人であるオバマ大統領の出現に恐慌をきたした白人たちの深層心理を背景としたものだ。その意味では、オバマ大統領の出現によって米国社会はかつてないほど分裂したとも言える。だが茶会派は、大統領選挙まで生き残っているかどうか」というものから、「茶会派は明確な政策を持っていない。彼ら自身、何をどうしたいのかわかっていないのではないか。特に外交でそれが目立つ。貿易についても保護主義なのか、自由貿易なのかもわからない。彼らは、『連邦財政赤字に反対。連邦政府の膨張に反対』という一点でまとまっているだけだ」というような声が目立った。
③この茶会派には、Kochという名の70歳を超える実業家兄弟が支援をしている。所有するKoch Industries社は石油部門に根を張り、非上場企業としては全米2位なのだそうだ。兄弟は親の時代からハイエクに影響を受けたごりごりのリバタリアンで、ワシントンではKato研究所に強い影響力を持つ、とインターネットでは言う。

ワシントン政治――その冷厳な諸原則
政治の話になったので、今回ロビーストたちと話して思ったワシントン政治のいくつかの原則について書いておく。どの国でも同じような現象は見られるのだが、ワシントンでは政治で飯を食っている連中が多いだけに、彼らを律する不文律はまた殊更冷厳ときている。

①ワシントンでは、いちど大勢の意見が形成されてしまうと、それに反する意見はいくら正しくとも受け入れられない。皆、大勢の意見に沿ったかたちで活動を始めてしまう、つまり民主党系は意見A、共和党系は意見Bというように集約され、それぞれが普段の政争の一環として意見A、意見Bを旗印に、勝った負けたの争いを繰り広げるのだ。
A, Bともおかしい、両方とも非現実的だ、私は意見Cが正しいと思うと言っても、これは正邪の争いよりも政争だからKYになるだけだ。相手にされない。Dismissというやつで、相手にするにも時間がもったいない、という顔で見られてしまうだけだ。こういう時、相手の耳をこじ開けて自分の意見Cを聞かせようと思ったら、同調者を増やしたり、団体として発言したりしないと駄目だ。
日本のような同盟国にとっても、意見A,Bのどちらが正しいかを議論するより、日本が当面大事にしなければならない米国与党が奉ずる立場はA,Bのどちらなのか、という観点からものごとを判断せざるを得ないということだ。

②政治家の性格より全体の状況のほうが決定的
ある保守系ロビースト(選挙屋)に初歩的なことを聞いてみた。「最近ホワイトハウスの首席補佐官が攻撃的性格のエマヌエルから温厚なデイリーに代わったけど、議会対策にそのことはどう反映されてますか?」と。ロビーストは僕をあわれむような目でちらっと見ると、それでもちゃんと答えてくれた。「アメリカの政治ではね。個人の性格よりも全体の状況の方が基調を作るんですよ。今のホワイトハウスは議会に対して低姿勢で臨んでいますが、それは首席補佐官が代わったからと言うよりも、秋の中間選挙で与党が大敗したからなんです」

アメリカの外交政策形成における諸法則
日米関係とか、米中関係とかについては個々に論ずることとして、ここではアメリカの外交政策形成における諸法則をいくつか列挙しておく。もちろん、他にいくつもあるだろう。

①ワシントンでは、いちど大勢の意見が形成されてしまうと、それに反する意見はいくら正しくとも受け入れられない・・・(以下は前出①と同じ)

②その「意見」の形成のしかたが、悪く言うと無責任だ。たとえばアメリカはリビア空爆の先頭に一時立ったのだが(その後は後景に退いている)、リビア情勢の内幕、たとえば反カダフィ派の実体を議論もせず、「カダフィによる民主勢力虐殺を食い止める」という単純な構図の下に、賛成派と反対派がバトルを始め、それがアメリカ国内政治のひとつの要因になっていく、という構図なのだ。

③あるシンクタンクで面白いことを聞いた。それはリビア空爆についてオバマ大統領が3月28日、「民主主義は大事で、米国はそれを支持するが、リビア情勢に直接介入はしない」というような煮え切らない説明をしたことについてで、「昔、ニクソン大統領が言ったことがある。右か左かどちらか決めなければいけない時には、どちらかはっきりしろ。中途半端がいちばんいけない。それでは結果も出ないし、左右双方から批判を食らうだけで終わってしまうからだ」

④「ユダヤ・ロビー」は米外交を握る?
米国では石油とか軍需企業とか金融が巨大な存在で、政治にも大きな力を及ぼしているはずだ。さりとて、それがいつもアメリカの政治を牛耳っているとも思わない。そこの歩留まりがわからない。右の3つの部門にあわせ、マスコミにおいても「ユダヤ・ロビー」と言われる勢力の存在感が大きいのだが、それもどこまで本当なのか、彼らはどうやってどんなところでアメリカの外交に影響力を行使しているのか、わかったためしがない。
昔ベトナム戦争に米国がのめりこんでいった経緯をめぐって出された当時のウィキリークスのたぐい、"The Pentagon Papers"では、いくら読んでも利権が政策決定に影響を与えたらしい箇所は出てこない。ベトナムへの介入は、純粋に共産主義に対抗するために、つまり国益のために議論され、決定されたことになっている。
今回も少し聞いてみたが、少なくとも今の共和党に対しては、ユダヤ人層は不動産業者とエンタメ業界によって代表されており、上述3部門のユダヤ人は主要な支持者としては表てに顔を出していない。

ある選挙屋はこう言っていた。「ユダヤ系アメリカ人にとっては、イスラエル問題よりも子弟の教育、老齢者扶助、教会と政府の分離(シナゴーグを守るため)などの方が重要なのだ。ということは、パレスチナ問題は中東の安定にとって肝要な問題ではない、アメリカはこの点をよく見極める必要がある、ということなのかもしれない」
でも、あるシンクタンカーは別のことを言った。「米国政権というのは、大統領選挙が近付くと(選挙資金をユダヤ系諸団体から得るために)イスラエルの立場に近づかざるを得なくなるのさ。イスラエルを抑えてパレスチナ和平が推進されるのは、いつも二期目の政権であることに気がついたか?」

⑤オバマ大統領を、「外交下手の大統領」と評する者もあった。同人によれば、「オバマ大統領はもっぱら内政課題解決のために登場した大統領で、外交には向いていない。例えば、昨年末議会にロシアとの戦略核兵器削減の新START条約の批准を急がせ過ぎたために、共和党に借りを作り過ぎてしまった。ロシアがWTOに加盟すれば、ロシアとの貿易を差別するジャクソン・バニック条項を修正などしなければならなくなるが、議会の共和党は本年中はそんなことには応じないだろう」なのだそうだ。

盛り下がるTPP-―通商問題
ここらへんになると、原則と言うより具体的な外交イシューの話になる。
政府に近い立場のあるシンクタンクで僕は、オバマ大統領はTPPにどのくらいの重点を置いているのか、と質問した。日本ではTPPが内政上の大きな意味をもってプレーアップされているのに対して、ワシントンはぜんぜん燃えていない感じがしたからである。アメリカにとっては、数多くの政策課題のひとつに過ぎないのに対して、日本ではこの問題は政権の基盤をゆるがしかねないからだろう。

専門家は言った。「そりゃ、リビアを空爆する前は、大統領もTPPに真剣でしたよ。でもTPPの交渉がまとまったとしても、それに議会がファスト・トラックの権限を与えるかどうかは、まだわからないんです。米韓FTAと米・コロンビアFTA(まだ交渉が妥結していない)をひとからげにして批准してやっと、TPP問題ということになりますからね。とにかく今の議会は予算問題(政府が機能を停止するかどうかの瀬戸際)で手いっぱいですし、リビア情勢の推移も不確定要因です」

僕は聞く。「そんなことでは、秋にハワイで予定されるASEAN首脳会議で大きな成果がない、ということになりませんか?」)
専門家は言った。「これまでのASEAN首脳会議で、何か大きな成果があったためしがありますか? 今回も大丈夫ですよ」

なおWTOのドーハ・ラウンドについては、年内妥結の見通しがまた遠のいているが、「来年はもうアメリカも含めた主要国の選挙ラッシュでWTOどころではないでしょう、2013年になってからですね」という声があった。ドーハ・ラウンドが妥結すれば諸国間のFTAとかEPAとかが相入り乱れる現状が整理されるかと思っていたが、「そんなことはないでしょう。ドーハ・ラウンドが妥結したとしてもFTAは残るでしょう」ということで、どうも盛り上がらない。

では「茶会派」の連中は貿易問題にどのような態度を持っているのか。これについて、上記のシンクタンクではこう言っていた。
「茶会派の連中が貿易問題にどのような政策を持っているかは、わからないんですね。ピューの世論調査では茶会支持者の70%が自由貿易に反対しています。ところが議員になると、態度が曖昧になってくるんです。この頃は、米韓FTAに対して慎重姿勢を示す茶会派の議員もいますがね。茶会の連中にとってはとにかく、連邦政府赤字の削減が最も重要で、自由貿易支持の議員もいるのです」

国際通貨体制はそんな急には変わらない。変われない
リーマン・ブラザース金融危機をきっかけに、「ドルの没落」だの「新しい国際通貨体制」だのの議論がかまびすしい。頭の体操としては面白いのだが、ある醒めたシンク・タンカーはこう言っていて、僕もこれに賛成だ。
「国際通貨体制の改革は長期にわたり、テンポものろいでしょう。金本位制復帰の声もありますが、今の金価格では現在の世界経済の規模をとても支えられません。当面、IMFを1兆ドルに増資するなどの方策が取られるでしょう」

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