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世界はこう変わる

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2010年12月15日

中央アジア情勢メモ――8月、9月を中心に

8~9月周辺の中央アジアとNIS諸国をめぐる情勢をまとめてみた。主として露語、英語の公開情報に基づく。

1.中央アジアをめぐる国際環境
(1)米ロ協調の継続、NATO・ロシア関係の改善

○米ロ協調関係は続いている。それは中央アジア、アフガニスタンをめぐっても明らかである。例えばキルギスでは4月の政権交代以来、新政権が数度にわたってロシア軍、あるいはCSTO軍の派遣を要請したが、ロシア側は応えていない。もっともそれは、対米配慮だけが原因ではないものと思われる。
9月30日にはロシアの国境警備庁要員40名がキルギス北部から南部のオシュ周辺に配備されることとなったが、これは上記のトレンドを破るものであり、同日メドベジェフ大統領がウズベキスタンのカリモフ大統領に電話していることはこれと関係があるかもしれない。カリモフ大統領は、ウズベク人が多数を占めるオシュ周辺のフェルガナ地方にロシア軍、あるいはCSTO軍が駐留することに強く反対してきたからである。
 
○他方、アフガニスタンではNATO・ロシア関係の改善を受けて(11月のNATO首脳会談の際、NATO・ロシア首脳会談も再開される運び)、NATOがロシアにアフガニスタン作戦への支援を求めている。ロシアはこれに応じてMil-17型ヘリコプター10~20機を供与する用意があると表明しているが、そのため外部からの資金供与を求めている。後述のようにロシアはパキスタンとも関係を強めており、南アジアで外交を行うための歩を着々と進めている。

○9月初め、ロバート・ブレイク国務長官補佐官がロシアを初めて訪問し、自身のタジキスタン訪問結果を説明した。「キルギス南部及びタジキスタンに米国が軍事基地を作ろうとしている」といううわさを、ロシアのマスコミがしつこく流しているため真意を説明する目的もあろうが、米国としてはタジキスタンについてロシアと真剣に意見を交換したかったのだろう。タジキスタンはアフガニスタン情勢からいちばん影響を受ける国であり、既にテロリストが浸透しつつある。またアフガニスタンの麻薬はタジキスタン、キルギスを通じて主としてロシアに流出していると見られるからだ。
同補佐官は記者会見で、「キルギスでの米ロ協調は最高の状態だ。タジキスタンで米国が作ろうとしているセンターは軍事基地ではなく、麻薬摘発要員を養成するためのものである」、「キルギスのマナス空軍基地から米軍は去れと言われれば、これに代わる代案もある。米国がキルギス南部に『センター』を作る件については、10月10日の総選挙後にできる政府と交渉する。これは軍事基地ではなく、キルギス軍人を訓練するためのものである」と述べている(9月6日付コメルサント紙)

○ワシントンの論壇においては最近、「中央アジア、ユーラシアにおいては『ロシア等と張り合う』という発想を捨て、『地元諸国自身と米国の関係を促進する』という姿勢で臨むべし」とする、若手専門家サムエル・チャラプ等の活躍が目立つ。
彼らの言わんとすることは、①黒海から中央アジアまでのユーラシアでは冷戦マインドを捨てる、②ユーラシアを対ロシア関係との絡みだけで見ない、③グルジア等へのNATO拡大の試みは、米の力をむしろ後退させた、④これからの米外交の基準は、●各国が米にとって持つ意味(地政、エネルギー、経済など)、●現地指導者の言葉(自分は民主主義者だとか、親米だとか)に惑わされない、●ロシアとも協力する、米国自身の手の内を明かし、プラスサム志向を明確にすることで、ロシアを古いゼロサム思考から目覚めさせ、それによっていたずらに米国の政策を邪魔することがないように導く、●これら諸国との首脳交流などではロシアの方が有利なのだから、この土俵には上がらない、しかるべき経済、外交的利益をこれら諸国に与えていけばいい、ということである。(8月下旬 Foreign Affairs)

(2)中国の動き
○中国はイラン・ペルシャ湾のチャフバハル港まで鉄道を建設するかまえである、との報道があった。中国からイランまでは既にカザフスタン、トルクメニスタン等を経由して鉄道で行けるが、これは経路が複雑であるために、時間のかからない新線建設を考えているのかもしれない。中国は既にパキスタン、ミャンマー経由の道路でインド洋に出ることができるが、これに鉄道が加わると輸送力は格段に向上する。新線が建設される場合、それがアフガニスタンを通ることとなれば、面白い。新疆地方はアフガニスタンと狭い谷でつながっている。

 ○中国が中央アジアに対して有する関心は何か、とはよく発せられる問いであるが、それはエネルギー資源が欲しいことの他に、まず何よりも中央アジアが安定した地域であってほしい、隣接する(しかも中央アジアと同じ文明圏に属する)新疆地方の安定を乱さないでほしい、ということなのであろう。その点について9月15日付のwww.centrasia.ruは、次のように報じている。
「中国は、(新疆の)ウィグル人、アフガニスタンのタリバンとイスラム解放戦線(IDU)が接近することを恐れている。現在でもウィグル人がアフガニスタン、パキスタンで訓練を受けている」

(3)ロシアの動き
○ロシアがアフガニスタンへの出方を若干前向きにしてきた。1979年軍事介入で失敗したトラウマのためにこれまでは表立った関与を控えていたのであるが、米国やNATO諸国の要請を受け、反テロ作戦に何らかの貢献を行うことを検討し始めた。
9月30日付のロシア紙「アルグメンティ・ニェジェーリ」によると、初の訪米から帰国したセルジュコフ国防相は、アフガンでの戦闘経験のある第45独立偵察連隊をアフガンに送ることについて、シャマノフ空挺軍司令官の意見を聴した由。シャマノフは強硬に反対したが、11月頃からはロシア軍のアフガニスタンへの関与についてマスコミ・キャンペーンが始まるだろう、と同紙は書いている。

○アフガニスタンの麻薬はかつて、タジキスタンに駐留していたロシア国境警備隊が捕捉し、武器密売人ブート(現在タイで拘留中)所有のSamar Air機で第三国に搬出していたらしいが、タジキスタンからロシア国境警備隊が撤退したあとは、麻薬がロシアに大量に流入している。アフガニスタンでの芥子栽培は、農民の数少ない収入源としてあえて根絶されないでいるのだが、そのつけはロシアが払わされているかっこうとなった。ロシアがアフガニスタンへの政策を活発化させつつある背景には、そのような要因もあるだろう。そして、9月30日キルギス南部にロシア国境警備隊のアドバイザーが40名派遣されたことも、南部の「民族争乱」平定のためだけでなく、麻薬経路を抑える狙いがあるのかもしれない。

○その他8月24日付Time.comによれば、ロシアはアフガニスタンにMi-17ヘリコプター(かつて、アフガン用に開発した大馬力)20機を売却交渉中である。これは、アフガニスタンで作戦中のNATOの要請を受けたもの。更にラブロフ外相は、ロシア側が機材を供与したうえでアフガン政府空軍、警察官を訓練する用意がある旨を表明した。
他にもロシアはアフガニスタンの水力発電所改修案件(5億ドル)を手掛けているし、ロスネフチは北部で天然ガスを探鉱中である。1980年代にロシアに留学したアフガン人は、タリバン時代外国に逃げていたが、今や警察・軍隊を中心に多数帰国している由。

○更に8月18日、ロシアのソチでロシア、パキスタン、タジク、アフガンの首脳会談が開かれている。これは昨年タジキスタンのドシャンベで開かれたのに次いで、第2回となる。アフガニスタンの安定化、麻薬、復興問題が議題の中心となった。ロシアはアフガンの安定化をはかり、麻薬問題に上海協力機構、CSTO(集団安全保障条約機構)を関与させたいらしい(8月18日コメルサント紙)。
ソチでは別途、ロシア・パキスタンの首脳会談も行われ、メドベジェフ大統領はザルダリ大統領に対して、洪水支援を強化するために緊急事態省のIL-76を数機差し向けることを明らかにした。また両国は、数年前合意していながら開始していなかった政府間協力委員会を9月始めることを合意した。
ロシア側はイランからパキスタンを通ってインドに至るガス・パイプラインを(76億ドル)作るプロジェクト、1985年ソ連が作ったカラチ製鉄所の近代化、鉄道、エネルギー案件も提案したもよう。ザルダリ大統領はメドベジェフ大統領にパキスタンを公式訪問するよう招待を行った。(以上8月21日付 www.centrasia.ru )

(4)トルコの動き
○トルコはダウトオール外相の下、外交の焦点をこれまでのEU加盟から歴史上の故地である中東、中央アジアに振り替えつつある。新しいことをやっているので如何にも大きな成果があがっているように錯覚するが、実はことはまだ始まったばかりで、諸方から抵抗が高まってくるのはこれからである。
○8月5日にはトルコのBodrumでトルコ、カザフスタン、アゼルバイジャン、キルギスの外相が集まって、「チュルク語」(トルコ語系。ユーラシア大陸東半分に広く分布。シベリア、太平洋北西部諸島にまで)諸国の非公式会合が開かれた。キルギス情勢やエネルギー問題を議論したあと、「9月にイスタンブールで首脳会議を開き、チュルク世界評議会事務局を作る」ことで合意した。(8月5日付www.centrasia.ru)
右首脳会議はこれまでも数回、持ち回りで開かれており、その点は目新しくないが、今回はトルコがイニシャティブを取って国際組織化をはかっていることが目新しい。

(5)イランの動き 
トルコという世界史上の老舗が外交を活発化させる傍らで、同じくイランも負けてはいない。8月5日テヘランで第4回「ペルシャ・サミット」が開かれ、イラン、タジキスタン、アフガニスタン(いずれも言語がペルシャ語系)の首脳が集まった。アフマディネジャド大統領はアフガニスタン安定化後、アジアにNATO的な組織を作ることを提案した由。
イランは、かつてのオスマン・ペルシャの対抗関係を復活させるかのように、トルコの中央アジア進出に対抗しようとしている。道路建設、水力発電への協力がその手段である。アフマディネジャド大統領は会議の場で、「イランが1.8憶ドルを投じているタジキスタンのサントゥーダ第二発電所建設用の鉄道貨物をウズベキスタンが既に6カ月、国境で止めている。やめないと、イランはウズベキスタンの(ペルシャ湾向けの)鉄道貨物を止めるぞ」と発言したと報道されている。

(6)OSCE
○カザフスタンは本年OSCEの議長国であり、11年ぶりのOSCE首脳会議を開くことを悲願としていたが、これが12月初旬、実現する運びとなっている。
8月のJamestownニュースレターによれば、ロシアが決議案を準備中の由。
それは、①OSCEを正式の国際機関とし要員に外交官特権も与える、②民主化運動等に携わる外郭団体を、新たに設ける「常任委」の管理下におく、そして常任委ではロシアが拒否権を行使できるようにする、③西側諸国が個々の予算で自分のプロジェクトの実行をOSCEに委託してきたのを改め、常任委管轄の共同予算を作る、④選挙監視の統一ルールを作る、などである。
この決議案が通れば、OSCEはこれまで進めてきた民主化、人権擁護の活動をロシア等に阻まれることになるだろう。

○本件首脳会議にはどのくらいの数の首脳が集まるか、不明である。米国からは、かねてOSCE重視論を展開しているバイデン副大統領の出席が妥当ではないか? 
中国はOSCEメンバーではないが、カザフスタンは今回首脳会議でユーラシア全体の安全保障問題を議論することを意図しており、NATO代表とともに中国首脳も招待している。日本も招待されているので、発言時間をしっかり確保したうえで、ハイレベルの代表を送るべきだろう。

○米国はこれまで、OSCEを後押ししてきた。7月30日ワシントンのカーネギー財団での講演でロバート・ブレイク国務長官補佐官は、「OSCEはキルギスに政治助言グループを展開した。ビシュケクのOSCEセンターは強化され、その民主主義体制・人権オフィスは10月総選挙を助けるだろう。カザフスタンがこれを支援している」と述べている。

○しかしOSCEはキルギス南部では屈辱を被った。7月22日OSCEはオシュに52名の非武装警官を各加盟国から派遣して4カ月間、「キルギス警察を訓練」する目的で実は10月10日総選挙周辺の治安を助けようとした(7月23日付ロイターズ)のだが、オシュ市長(後出)を中心とする強い反対を受けて撤回の憂き目となった。そしてその代わりの形で9月30日、上記ロシア国境警備庁要員がオシュ地方に派遣されたのである。

○なおトルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領は9月下旬国連総会で、「中央アジア、カスピ海周辺国によるOSCEのようなもの」を作ることを提案しているが(9.21 regnum.ru)、これをフォローする動きはその後ない。

(7)上海協力機構(SCO)
 ○9月9日から25日にわたって、カザフスタンのMatybulak演習場においてSCOの恒例(2年に一度)反テロ軍事演習「平和の使命2010」が約3500人、戦車155台、航空機32機、ヘリコプター25機の規模で行われた(9月27日付「メガポリス」)。これまで、この2年に一度の反テロ演習は、中国、ロシアの領土で交互に行われてきたのが、今回は初めて中央アジアで行われたことが新味である。
○演習は、国家Aがテロリスト撃退のための援助をSCO諸国に対して求めてきたとの想定で行われた。ロシア軍が右翼、カザフスタンの空挺部隊とタジキスタン軍が中央、中国軍が左翼、キルギス軍が背後を固めた。これはタジキスタンに例えばタリバン軍が攻め込んだ場合の本格的戦闘を想定しているように思われる。そしてこの防衛戦の中に中国軍が緊密に組みこまれていること、中国軍が中央アジアに展開可能であることを如実に示したことが、今回の新味だろう。
因みに、「中国軍は全てが独特。完璧な安全を求める」との感想が記されている。なお一部にはウズベキスタンがこの演習に参加しなかったとの報道があったが、兵員は送っていないものの、ニヤゾフ国防次官だけは観閲にやってきた(9月27日付「メガポリス」。

○ロシアは戦闘機スホイ25を送り、中国はウルムチから戦闘機J-10を2機の他、H-6H爆撃機4機、AWACSと空中給油機まで送り込んだ。それらの戦力を総合的に指揮するための中央指揮設備も持ち込まれ、中国軍は近代化の成果を見せつけた。
また陸上戦力については、中国は鉄道で輸送したのである(9月 Jamestownニュースレター)。2年前ロシアのチェリャビンスクでSCOの反テロ演習が行われた際は、カザフスタン議会の反対で中国軍はカザフスタン領内の鉄道を使用できなかったが、今回は大手を振って入ってきたもの。中国、カザフは異なる鉄道ゲージを持っているが、国境で乗り換えたか、車輪の幅を切り替えたか(それは中国・ロシア・欧州の国境で通常行われていることで、1時間でできる)したのであろう。

(8)CSTO (集団安全保障条約機構)
○ロシアはこれまで、ソ連時代のワルシャワ条約機構の夢再びと、CSTOの強化をはかってきた。だがロシアがもくろむNATO型の集団同盟、即ち統合軍を持ち、それをロシアが司令するという構想(「即応展開軍」)は、ウズベキスタン等の抵抗を受けて実現していない。
CSTOにとっての実際の外部の脅威はアフガニスタンのタリバン程度しかいない。ウズベキスタン等は、2008年8月のグルジア戦争の顛末を見て、ロシア軍あるいはCSTO軍(その実体の大半はロシア軍である)が自国、あるいは隣国に派遣されて自国内政に干渉してくることを恐れているものと思われる。
他方、キルギスのように弱い政体を持つ国はCSTO軍の助けを借りたいのだが、CSTOが表向き全会一致の決定プロセスを順守しなければならないために、これも実現していない。CSTOについてはこれを胡散臭がる国、役立たずと見なす国が多い中でモメンタムを失い、改組が必要となっている。
下記8月アルメニアでのCSTO首脳会議でメドベジェフ大統領は、「12月モスクワでの首脳会議に向けてCSTO規約改正案を準備したい。CSTOの権限拡大が必要である。CSTOでは全会一致の決定が必要とされているが、機敏に動かなければならない時もある」と述べた(8月20日Vzglyad)。しかし、このような案が通るとは思えない。

○8月20日、アルメニアの首都エレヴァンでCSTOの恒例首脳会議が開かれた。ウズベキスタンのカリモフ大統領は参加しなかった。キルギスのオトゥンバエヴァ大統領は出席したが、彼女が求めていた兵器の供与と兵士への訓練についての進展はなかった。

○ベラルーシとロシアの関係は悪化しているが(ベラルーシで大統領選挙が迫っているため、ルカシェンコ大統領はロシアに対して「筋を通す」ことで人気を得ようとしているのだろう)、来年はベラルーシがCSTOの議長国となるため、本件首脳会議に出てきたルカシェンコ大統領はメドベジェフ大統領にいつになく愛想よくしていたようだ。
4月政変でキルギスを追い出されたバキーエフ前大統領をかくまっているルカシェンコと、バキーエフを追い出したオトゥンバエヴァがこの会議で同席したのも、妙なことであった。

○なお、アルメニアと隣国アゼルバイジャン(CSTOからは1999年脱退している)の関係が「ナゴルノ・カラバフ」問題(アゼルバイジャン内の飛び地をソ連崩壊直後、アルメニア軍が制圧して独立を宣言させた問題)をめぐって緊張し、最近は戦闘が頻発して死者も出ている。近年の石油景気で軍拡中のアゼルバイジャンが強気になっていることも、その背景にある。この問題について記者会見で聞かれたメドベジェフ大統領は、「ロシアは(アルメニアに対する)同盟国としての義務を真剣に考えている。平和解決を求める」と答えている(8月20日Vzglyad)。
アルメニアにはロシア軍が常駐しているが、米国も国内に強力なアルメニア・ロビーを有するためにむしろアルメニア寄りの政策を取ってきている。アルメニアは隣国のイランから経済援助を受けては水力発電所を建設したり、イランの天然ガス供与を受けたりと、通常なら米国が目くじらを立てるようなことも平気で行っている。

○次の首脳会議は12月、モスクワで行われる。(8月20日付 Vzglyad)

2.中央アジア諸国の情勢
(1)ウズベキスタン

○9月上旬以来、カリモフ大統領(70歳を超えている)が継承を準備しているのではないかとの観測報道が続いている。この手の報道はこの10年来、時々現れては消えていく。今度は、ミルジヨエフ首相が最近自信を増してきていること(10月8日付centrasia)、カリモフ大統領礼賛が増え、彼の地方旅行が増えていること(9月8日 udgrnbtv.ucoz.ru)などをその論拠としているが、いずれも論拠として薄弱である。

○継承という観点からは、カリモフ大統領の長女グリナラ(在スペイン大使)が9月13日ニューヨークでファッション・ショーを行ったという報道の方が面白い。同人は自他共に認める大統領の後継者であるし、これまで前夫との離婚訴訟のあおりで米国を訪問できなかったのがなぜか解除されていることは目新しい。同人はカーネギー財団の依頼で、中央アジアについての論文も執筆中の由。ウズベキスタンにとって重要な米国との関係にも携われるようになったということは、グリナラにとって大きなことだろう。

○9月20日のRBK Dailyによれば、これまで数年間ウズベキスタンに直接投資して乳業を手掛けてきたロシアの飲料大手ウィンベルダンに対し、ウズベク当局が脱税、衛生基準違反等あらゆる容疑をかけた上、設備を接収した由。他にガスプロム系子会社に対し、破産宣告も行われているのだが、このようにロシア企業に対する冷たい措置がウズベク指導部の政治的意向を反映したものなのかどうか、興味あるところである。

(2)カザフスタン
○7月21日付profinance.kzによれば、財務省は本年予定していた5~7億ドルのユーロボンド発行を取りやめ、年金を兼ねた変動利子率の国内国債発行で代える由。ロシアも同じだが、油価上昇の中で国内資金調達の方が有利になってきたのだろう。

○カザフスタンは「全方位外交」で有名だ。ロシアとも米国とも中国とも、うまく友好関係を維持しているから大したものだ。8月22日から24日にかけカザフ軍は、アルマトイ近郊で英米軍とPKO共同演習「草原のワシ2010」を1000名以上の規模で行った。慣れない者は中央アジアでは水が合わずに腹をこわしやすいのだが、英米の兵士も随分腹を壊したとニュースにはある。
他方、9月末には上海協力機構の枠で、反テロ演習を主宰したことについては前述のとおりである。

○中央アジア諸国も、種々国際大行事を主宰しては、国民の目に政府を大きく映らせようと努力する。カザフスタンもその例外でなく、今年は12月1日のOSCE首脳会議が最大の目玉行事となることだろう。来年は、冬期アジア大会を主宰することになっている。

(3)キルギス
○8月16日のRBKは、キルギス南部からは青年がアフガニスタンに赴いてイスラム解放戦線に入る例が増えていると報じている。貧しい地域では、テロ組織は就職先の一つなのである。

○バキーエフ前大統領の親族には、逮捕された者と、キルギス南部で以前通りの生活を続けている者とがいる。7月23日ロイターズによれば、バキーエフ前大統領の兄弟アフマトは21日、ジャララバードで逮捕された。他方、7月26日付ferghana.ruによれば、バキーエフ時代諜報を握っていたジャヌィシ・バキーエフの息子は今でも地元南部の検察に出勤している由。バキーエフの兄弟たちは、バキーエフの息子たちと意見が合わず、7月1日 Delo No.紙が掲載したアフマトの日記には「マクシムとマラトは自分たちが何を言っても、わかった、わかった、と言うだけで思うとおりのことをやってしまう」と書いてある由。

○7月27日APによれば、同日キルギスへの援助国が集まった会合でオトゥンバエヴァ大統領は12億ドルの援助を要請、「オシュ経済復興だけで1億ドル、オシュ、ジャララバードの民家を再建するのに3.5億ドル」と述べた由。現地の低物価に鑑み、若干解せない高い費用に見える。
本件会合を受けロバート・ブレイク米国務長官補佐官は7月30日カーネギー財団のセミナーで、「援助国会合は11億ドルを約束した。米国は既存のに加えて4860万ドル供与を約した」と述べている。
これら資金は、10月10日の総選挙の結果、新政府が発足して以降初めて供与される。10月10日の総選挙ではどうやら野党連合が多数票を得たものらしく、最終結果は10月28日現在、まだ発表されていない。

○8月1日付のベールイ・パルスは、10月総選挙を前にしたキルギス情勢について次の点を報じている。①選挙をめがけて外国にいたキルギス人が続々と帰国している、有力政治家について利を得ようとしているのである、②キルギス北部の連中は、「次は北部から政権を」と思っているが、分裂している、③北部出身のクーロフ元首相はAr-Namys党を率い、ナザルバエフ大統領と親しいカザフスタンの金持ちの支援を受けている。

○キルギスにあるロシア軍の基地について、使用期限延長の話が出ている。基本的な合意はできたようだが、10月10日総選挙後の新政権発足を待って最終合意となるもよう。
9月14日付ロシアのコメルサント紙によれば、キルギスのクダイベルジエフ国防相が訪ロしてセルジュコフ国防相と会談し、「キルギス国内の5のロシア施設を1つの『基地』として統合して49年間貸与。支払いは武器で」との基本合意が成立した。
首都ビシケク近郊のカント空軍基地には現在、SU-25が5機等、140名のパイロットとエンジニアが駐留し、チュイ州のKara-Baltaに第338通信基地があって、海洋の軍艦、潜水艦と交信している他、電波諜報もやっている由。そしてイシククリ湖のKoisaryには、第954魚雷実験基地があり、他に原爆実験探知用の地震探知装置が2カ所ある由。
なお、オシュ周辺にロシア軍あるいはCSTO軍が基地を設けるという話が以前から流布しているが、両国防相会談ではロシア軍基地を設けることで合意が成立した由。

○9月22日のCentrasiaによれば、オトゥンバエヴァ大統領は国連総会に出席した際、米国に対して「マナスの空軍基地で航空燃料を米空軍機に販売する権利を、米軍コントラクターからキルギスとロシアのガスプロム社の合弁企業に代えてほしい。米軍の契約相手には変なのがいおり、これを除くだけで5000万ドル節約できる」と要求した由。親米、リベラルで鳴る同女史だが、ここではロシアの利権をあっさり代弁している。
同じ報道によれば、米軍は03年からマナスとアフガンのバグラム空港での航空燃料補給をジブラルタルのMina CorpとRed Starエンタープライズに委託、ダグラス・エーデルマンなるものが双方を所有している由。多くの米軍将校OBも関与し、キルギスではアカエフ元大統領、バキエフ前大統領一味と結託していた由。米軍は5月に、当面マナス基地での給油は中止すると述べている。
なお9月14日のCentrasiaによれば、オトゥンバエヴァの政府は既に7月に米と「密約」を交わし、米軍によるマナス空軍基地租借期限を1年延長して6000万ドル受領した由。

○アジア開発銀行発表によれば、9月27日同行はキルギス政府に1億ドルの緊急援助を行った。借款と贈与がほぼ半々で、うち4000万ドルは資金援助である由。

○9月29日のCentrasiaは、キルギス南部オシュのムイルザクマトフ市長について、次の趣旨の興味ある報道を行っている。
①同市長は現在、招待されて新疆のウルムチへ向かったようである。
②彼はアカエフの頃から麻薬流通を手掛け、親分筋にあたるエルキンバエフを2005年のチューリップ革命後に殺したものと思われる。
③彼は、中国との麻薬商売も手掛けており、これには中国の公安当局も関与していた。彼がオシュに作ったDatan市場では、多数の中国人が商売し、その上がりはバキーエフ家にも上納されていた。
④2008年 キルギス・中国貿易は80億ドルを超え、中国はキルギスにとって第一の貿易相手になった。
⑤中国は、オシュにロシア軍の基地ができることに反対である。中ソ論争時代、ここには中国に向けられた基地があった。
(注:この報道が事実であるなら、このムイルザクマトフ・オシュ市長がキー・パーソンということになる。特に上記の③が事実であれば、同市長[キルギス系]がキルギス南部においてバキーエフ前大統領と中国の間のひとつの結節点になって、4月以降の臨時政府に盾ついているということになる。10月10日の総選挙では、南部を基盤とするバキーエフ系の政党が多くの議席を占めた。またアカーエフ大統領時代、南部の利権を差配していたと言われるウズベク人のバトゥイロフは、4月の政変で復活したものの5月には襲撃を受け、9月30日のAKIプレスによればウクライナに逃亡した由。
キルギス南部が中国のプレゼンス、麻薬利権の奪い合い、下記のロシア国境警備隊アドバイザー40名の配備も絡んで、ホット・スポットになりつつあることを示しているものと思われる)

○9月30日付ロシアのコムソモリスカヤ・プラウダ紙によれば、ロシアの連邦保安庁(ソ連時代のKGB)傘下の国境警備庁長官プロニチェフが、ビシケクでキルギス側と会談。これまでビシケク近郊のノヴォポクロフカ村にいたロシア国境警備アドバイザー40名をオシュに移動させることで合意した由。
10月4日付centrasiaによれば、オシュからはタジキスタンとの国境だけでなく、ウズベキスタンとの国境にもにらみをきかせることができる。両国境はウズベク、キルギスのマフィアが麻薬を自由に運んでいたが、6月のオシュ騒動以来、その利権はキルギス・マフィアに独占されている由。

○同じ9月30日、クレムリンの発表によれば、メドベジェフ大統領はウズベキスタンのカリモフ大統領と電話会談をした由。内容は不明であるが、これまでカリモフ大統領がキルギス南部へのロシア兵力展開に強く反対してきた経緯に鑑みると、メドベジェフ大統領が上記決定を釈明した可能性がある。ウズベク・キルギス間には未確定の国境があり騒ぎが頻繁にあるので、ロシア軍がキルギス側に立つことはウズベクにとってまずいのだ。

(4)タジキスタン
 ○7月26日のferghana.ruによれば、偽札が大量に出回り始めた由。タジキスタンでの決済の90%は現金なので、影響が大きい由。

○同日のferghana.ruによれば、本年はじめに当局がログン・ダム建設のためと称して集めた義捐金はいくつかの銀行に預けられ、当初0.6%で貸し出されていたが、流用との非難が高まったために9~12%の利子を取り、その収入は国庫に入れるようにした由。
当初政府は13.7億ドル分の「株」を売り出していたが、1.86億ドル売れたところで国際機関がログン・ダムのフィージビリティ・スタディが終わるまでとして、ストップをかけた由。同ダム建設に反対しているウズベキスタンに配慮したものか、それとも義捐金のスキームに疑義があったのか、どちらかはわからない。

○この数カ月、タジキスタンの対ロ関係には摩擦が見られたが、8月18日黒海沿岸のソチでラフモン大統領とメドベジェフ大統領が非公式会談を行って、協力の方向を再確立した。
8月21日のアジアプラスによれば、両首脳は2011年~15年の経済協力に向けて案件を形成していくこと、タジク市民がロシアに登録なしで滞在できる期間を3日から90日に延長すること、タジクでのロシア・テレビの放送を再開すること、。サントゥーダ水力発電所建設費用についての対ロ債務は分割払いにすることなどを決めた。

○タジキスタン東部を中心に、武力衝突やテロが頻発している。背景には、この数年ラフモン大統領が基盤強化のために権力・利権を集中しつつあることが旧野党を中心とする勢力の不満をよび、それにアフガニスタンのテロ勢力が便乗している(あるいは雇われている)ことがある。
①8月22日、ドシャンベの牢獄から25名の「テロリスト」が5名の牢番を殺したうえで脱走した。様々の国籍の者達で、ロシア国籍の者も数名いる(コーカサス地方のイスラム教徒)。彼らは2009年7月に元非常事態相ミルジヨエフがテロリストとの交渉中殺害されたことへの関与を問われ、8月21日に有罪判決を得たばかりだった。
彼らは東部の山岳部に逃亡し、政府軍との武闘を続けている。戦死者は数十名の数に達した。
②9月3日タジキスタン第2の都市ホジェントで、地元治安当局の建物を狙った自爆テロがあり、警官2人が死亡、25人が負傷した。イスラム解放戦線の関与が疑われている。。
③9月6日、首都ドシャンベのナイトクラブで自家製爆弾が破裂し、7名が負傷した。

○9月2日の「東方の時」紙は、タジキスタンと中国の間の軍事交流・協力について報じている。両国軍は共同演習もしており、2006年9月にはハトロン州で「協力―06」の共同反テロ演習を行った。
また中国はタジクの国境警備隊に協力することで、麻薬の流入を防いでいる由。

○10月1日のCentrasiaによれば9月7日、イラン文化センターの外交官が30名のタジク児童をイランに宗教教育のため連れ出そうとして空港で制止されたため、密かにアフガニスタン領を通って連れ出した由。ラフモン大統領はこれに対して、テレビで強く反発した。

(5)トルクメニスタン
○トルクメニスタンのエネルギー分野におけるロシアの利権が大きく後退している。
トルクメニスタンはかつてその天然ガスの大部分をロシアに輸出していたが(ロシアはそれをウクライナ等に再輸出)、昨年3月ロシアが高値を理由に引き取りを拒否、本年は量を落として輸出を再開していた。
8月24日付Eurasianet.orgによれば、ベルディムハメドフ大統領直々の決定で、カスピ海第9&20鉱区の開発権はシェブロン、コノコ等に入札させ、陸上のNebit-dagガス石油鉱床は伊のENIとプロダクション・シェアリングをする方向となった由。ロシアのルークオイル社は、入札にも入れてもらえなかったのである。今やトルクメニスタンに残るロシア社はItera(ガスプロム系)のみとなった。

○ロシアへの輸出量急減により2009年の天然ガス輸出は160億立米に急落した(08年470)。2010年は対中国輸出が開始されたが、全部で200億立米になるかどうか。09年ガスプロムは千立米あたり375ドル払ったが、本年は240~250ドルしか払わない。トルクメニスタンはイランへも天然ガスを輸出しているが、同国向けのガス価格はロシア向けの1.5~2分の1が相場である。中国向けは120~140ドルと推定されている。(8月16日付ロシア紙「ニュースの時」)
○中国への天然ガス輸出価格は未定との報道もある。一部情報によると中国は100~130ドルを希望している由。このとおりになると、ロシアが中国に提案しているアルタイを経由してガス・パイプラインを建設する案は意味がなくなる。
トルクメニスタンは南ヨロタン・ガス田の利権を渡すに際して、中国から40億ドルの融資を得たが、そのうち10億は財政赤字穴埋め、30億は中国からのガス田用機材の輸入に充当する由。
8月16日付ロシア紙「ニュースの時」によれば、ベルディムハメドフ大統領は最近、「南ヨロタン開発第2期について中国からさらに41億ドルの低利融資をもらってくる」よう部下に指示を出した由。彼は中国の決断を促すために、アフガニスタン経由のインド向けパイプラインの建設を促進する構えを見せたり、カスピ海方面へのパイプライン増設の構えを見せたりしている。

○こうしてベルディムハメドフ大統領にやや焦りが見えるなか、12月5日には地方選が前倒しで行われることになっている。             (了)

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