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世界はこう変わる

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2010年11月 3日

9月のロシア 社会の停滞

社会情勢について今回、気がついたことを並べておく。

教養水準の低下
中国ではかつて文化大革命の際、農村に下放されたため大学教育の機会を失った世代が「失われた世代」となって、中国の知的資源におおきな損害を与えたが、ロシアでも同じ現象が起きている。ソ連末期の若手インテリは世界でも最高度の教養とリベラルな性向を具えていたのだが、彼らがソ連崩壊後の混乱の中で疲弊し、シニカルになっていったのに対し、これに続く世代が育っていない。ロシアでも失われた世代が生じたのだ。

話し方がきつくなった
この20年間でロシア人、特にモスクワっ子のしゃべり方は随分アグレッシヴ、かつ殊更にマッチョぶりを強調するようになった。ラジオのトーク番組では女性も殊更硬い男性的な声、しかも早口でしゃべる。

それはロシアも日本に似て、共同体やコネがなくなり、個人が裸になっている面が大きいのだろうか? だから神経質になってアグレッシヴになる。そして「自分たちの国にはひょっとしてもはや出口がないのではないか。誇りを持てる社会にはもうならないのではないか」という潜在的な疑念があって、それが彼らをしてアグレッシヴにさせている面もあるのではないか。攻撃は最良の防御、というわけである。

今回は政治も経済も先回の3月モスクワ行きからあまり変化はなかったので、社会の状態、特に青年の心情を少し詳しく見ることにした。そこである大学の社会学部に知人を通じてアポを取り、出かけたのだ。あとで思いだしたのだが、この学部は運営に問題があるとかで、1年前くらい学生がストを起こして大騒ぎになったのだ。そのせいか、あたかもソ連時代のように「外国から来た専門家」僕へのガードが固かったのだが(学長に呼び出されて、来訪の目的を説明させられる羽目となった)、学者たちはオープンだった。彼らが言ったことはこんなことだ。

①ソ連の社会では1980年代前半から「今のままでは駄目だ」と仲間内で話していたものだ。80年代後半には変化が顕著となり、様々なモデルが提案されたが、どれも結局役に立たなかった。

②ソ連崩壊直後の1991~1994年の大混乱期は、当時は夢かうつつかという感じの悪夢で、自分達は確かに当時存在していたのだが、あたかも存在していなかったかのようでもある。
80年代に今のままでは駄目だと思っていたが故に、90年代は変化への期待も高かった。それは青年の間に特に顕著だった。彼らはソ連の過去や両親の生き方を否定したが、良くならなかった。西側の価値観も、ロシアでは機能しなかった。青年たちはこうしてすべてを否定するようになった。

③当時世界では家庭の危機が叫ばれ、結婚や教育の意味が問い直されていた。ロシアの青年はソ連崩壊後の混乱もあって、なおさら生きる意味、勉強する意味を把握することができず、乱れた性生活、同棲生活に走る者も多く出た。子供を捨てた者も多かった。これは、ロシアの歴史では稀なことである。当時、青年たちは自分で価値観を手探りで作っていたのだと言える。それにつけこんで、外国の新興宗教も入ってきた(オーム真理教や欧米の諸宗教のこと)。

④物質的・消費者的価値観に走る者も多く、それに応じて若者のサブカルチャーが数十種類も生じ、文化が多様化した。

⑤2000年頃には、青年は両親の時代の価値観に戻ってきた。

⑥(石油価格高騰が起こした高度成長の)2005年頃、若者は教育や家庭よりも金儲け、物質主義に走り、教育はそのための単なる道具と見なされるようになった。国内で移動する者、国外へ移住する者も増えた。

だが現代の青年たちには自助精神がある。外国に対しても自国の政府に対しても過度に依存することがない。彼らの両親には彼らを助ける力が足りなかったから、彼らは自助精神を身につけるようになったのだろう。
そして彼らは現在、自分たちで組織化を始めている。それは政治的な組織と言うより、市民運動的な組織である。

(他方、もう一人の悲観的な専門家は「今の青年は自分で起業するより、役人になりたがる。まず国内で稼いで外国へ出ようと言う者もいる。社会で格差が広がる中、上の者は下を下僕扱いし、下の者は上を憎む。また麻薬の使用が増えた。以前はエリートの間だけだったのが、今では全青年に広がったと言っていい」と述べた)

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