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世界はこう変わる

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2024年4月16日

欧州での もしトラ

Project Syndicateで、Eurasia Group社長のイアン・ブレマーが、トランプが当選してNATOへの関与を減らした場合のシミュレーションをしている。基本的な論点にとどまっているが、それは次のようなことだ。

・トランプは当選すれば、ロシアに宥和的な態度をとり、NATOへの関与を減らすだろう。

・それなのに、NATO加盟国31カ国のうち13カ国がいまだに、国防費をGDPの2%以上にする基準を満たしていない。

・今月上旬のNATO75周年記念式典で、ストルテンベルグ事務総長は、(トランプがウクライナ支援を引き上げるのに備えて)ウクライナのために5年間で1000億ユーロの基金を設立することを提案した。欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は、防衛問題担当委員のポスト設置を求めている。

・しかし、防衛・軍需生産における欧州委員会の役割を強化するには、その設計と実施に10年以上かかる。現在の危険は、そのような長い移行を許さない。

・欧州の防衛政策を欧州委員会に統合することには、反対する加盟国が多いだろう。そういうことをすれば、EU加盟国で唯一核兵器を保有しているフランスが、EUの安全保障政策を決定する上で最も大きな力を得てしまうことにもなる。

・EUは依然として米国の兵器システム、米国からの情報等に深く依存している。米国なしに防衛力は築けない。

・いくつかの加盟国で、親ロシアのポピュリスト政権が誕生する可能性がある。それはイタリア、フランスである。

・たとえトランプが敗北しても、米外交から孤立主義的でその場の取引を重視する動きはなくならないかもしれない。戦後米国が世界で果たしてきた役割を十分知らない、若い世代は、米国が「グローバル・リーダーシップ」を取ることに対して態度を変えてしまっているかもしれない。
そうだとすれば、バイデン氏が勝利したとしても、欧州内での防衛談義は終わらないだろう。

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以上のとおり。「もしトラ」の頭の体操なのだが、欧米での議論の一つの典型例。
早めに奇抜なことを言って注目を引いておこうとする手合いで、議論には少々無理がある。一つには、トランプが本当に当選するのかどうかまだわからない、ということがある。支持が岩盤支持層以外に広がらない中で、妊娠中絶問題等で妥協的姿勢をちらつかせることで支持層を広げようとしているが、これは岩盤支持層を減らす結果しかもたらさない可能性がある。

二つ目には、当選したとしても、喧伝されている通り、親ロシア路線を採用してウクライナ支援から手を引くのかどうか。トランプは主義で動く男ではなく、世論を読んで、それを煽って自分の力にする男なのだが、米国世論は「ロシアに負ける」ことは好まない。

「トランプはNATOから手を引く」という言い方は粗過ぎる。彼は、「国防費はGDPの2%以上」の基準を満たしている加盟国からも手を引く、とは言っていない。ロシアに接する、あるいは近接するポーランド、フィンランド、バルト三国、ルーマニアは2%以上の基準を満たしているだけでなく、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンを含め、米国と個別の安全保障取り決めを結んで米軍を駐留させ、あるいは駐留させようとしている国が多数なのである。つまり全加盟国が賛成しないと動けないNATOは、演習ならいざ知らず、実戦では多分使えないものになっている重要なのは、米軍がNATOから撤退するかどうか、ではなく、欧州から撤退するかどうか、なのである。

仏独は、例え共同して自由・民主主義のために戦おうとしても、米軍、英国軍なしでは大した力を発動できない。EUは以前から共同防衛能力の強化をうたっていて、それはソマリア沖の海賊対策などで効果を発揮しているが、実際には有事に出動すべき兵力は小さい。英国がEUから脱退したため、EU共同兵力はますます空洞化している。

そして、トランプ米国がドイツから米軍を撤退させるということになると、NATOは瓦解する。NATOはもともと、「ドイツを押さえつけ、ソ連を入れず、米国を組み込んでおく」ことを目的として作られたもので(初代事務総長Ismayの言)、在独米軍の撤退はこの全てを無にするものだからである。

万が一、こうなった場合、フランスとドイツは共同してロシアと対決するのではなく、相互に出し抜いてでも宥和しようとするだろう。その時欧州には、19世紀の、ロシア、英国を含めたパワー・バランスの外交が戻ってくる

日本は、「もしトラ」でどうなるだろう? 日米関係においては、米軍が去ることより、トランプ米国が米中対立に日本を引き込んで散々関与させた上で、突然梯子を外し、自分だけ中国と手を握る危険性の方が高いものと思う。

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