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2023年11月25日

ウクライナ戦争  いくつか目新しいこと

(これは11月22日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第139号の一部です)

 ウクライナ戦争については毎日、詳細な報道がされているが、自分が外国での報道で面白いと思ったことを並べておく。

(中堅将校クラスの不足)

中堅将校クラスがウクライナ、ロシア双方で不足している。企業で言えば部長、課長クラスが足りない。社長や常務が社員を直接指揮するには限界がある。いくら近代兵器を装備していても、中堅将校がいなければ、軍隊を組織だって動かすことはできなくなる。ウクライナ軍では、一個旅団(数千名)中、同時並行的に運用できるのは2個中隊(数百名)程度とされる。普通は、15個中隊程度は展開できるべきなので、これでは大規模作戦がやりにくい。

中堅将校クラスが足りないのは、ウクライナの場合には戦死者が多いことがある。しかしウクライナ、ロシア双方を通じて言えるのは、軍での勤務を忌避する者が多いということ。ロシアでは、兵士を将校に登用する制度が導入されたが、これに志願する者があまりいないのだそうだ(11月12日 Business Insider)。

(ドローンの普及は戦術を変える)

 ドローンと言えば、2001年の米軍、アフガニスタン作戦では、Predatorのようなかなり大型のドローンが活躍した。何時間も滞空し、フロリダかどこかの作戦本部から指令を受けると、テロリストの本拠と目されるトンネルにミサイルをぶちこむ。これは大国アメリカの軍にしかできない芸当だった。

 ところが今や小型ドローンは貧者の武器として世界に普及。今のウクライナでは、200以上の町工場のようなところで、年間20万機を生産し(今年末の目標)、毎月1万機を撃墜されている。小型で、運べる火薬の量もしれたものだが、ウクライナは今やこの小型ドローンでモスクワのクレムリンを狙ったりしている。

 それよりも、小型ドローンがこれからの戦争の在り方を変えてしまうだろうことは、自衛隊も含めた世界の軍隊が十分吟味し、自分の縄張りでの使い方をよく研究しておくべきことだ。砲弾一つは三千ドル程度。これだけあれば、小型ドローンを何基も作れてしまう。

 戦国時代から第二次世界大戦までの戦争の華、「大軍同士の激突」はドローンのために実行が困難になってきた。ロシア軍が大軍を集結してウクライナ軍をたたく準備を始めると、その状況はドローンで筒抜けとなり――これまでも上空の衛星から見ていてわかったことだろうが、それ以上の正確さで――、兵器集積地や鉄道ハブにウクライナの長距離砲弾が飛んでくる、ということになるからだ。これはウクライナ軍についても言えることで、近代装備を持つ軍同士の大規模衝突は難しくなってきたようだ。

 一つわからないのは、世界の軍事で常に先頭を切ってきた米国が、小型ドローンについては何をどうするつもりなのか、ということである。一時「ウンカの如き小型ドローン集団を形成し、これをコンピューターで運用して大きな戦力とする」ような戦術が検討されていたと思うがその後どうなったのかわからない。

 尖閣を中国のドローン集団が「制圧」しようとする場合、このドローンを電波等によって攪乱、自爆させる技術の開発が重要である。ここを米軍、そして自衛隊はどのようにしようとしているのかも知らない。

(冬は塹壕もすべる)

 「冬になるとウクライナの戦闘は止まる」と言われる。秋、春はぬかるみで戦車も動けないのはわかるのだが、真冬はぬかるみも凍って戦車は動けるだろう、変だな、と思っていたのだが、凍ると、今度はすべりにすべって、どうしようもなくなるのだろう。特に塹壕の中はスケート・リンクのようになる、と誰かが言っていた。

(クリミア、危ないのでは?)

ウクライナ東部ドネツ州の戦闘は膠着状態。
一方、目をクリミアに向けてみると、ロシアはけっこう脆弱な状況に置かれているのでないの、と思う。まず、南西部のセヴァストーポリ軍港。これは深海港、かつ艦船修繕施設を持つため、ロシアの黒海艦隊にとって唯一の、本当に唯一の拠点。

ここは9月にはウクライナのミサイル、ドローンの攻撃を受け、ロシア艦船は他の港に分散避難。その後セヴァストーポリに再集結したとの話しを聞かない。ゼレンスキー大統領は10月24日、ウクライナは黒海西部の制海権を確立したと声明している。

一方、6月6日ウクライナ南部、クリミアの北方に位置するカホフカ貯水池のダムが破壊されて、湖は更地になってしまった。ここにはロシア軍の陣地はないし、旧湖底に地雷原もない。湖南方のロシアの地雷も、洪水で随分流されたようだ。だからここはウクライナ軍にとって、クリミアに迫る格好の進軍路になっていないだろうか? ここなら冬に凍結することもないだろう。通常最低気温はマイナス5度が短期間あるだけだからだ。

今ここでウクライナ軍が作戦しているという情報はないが、ここより東部、ザポロジエ州のあたりではウクライナ軍がロシアの陣地を破って南進、ロシア本土とクリミアを結ぶ鉄道を長距離砲、ミサイルで破壊できる距離に達している。クリミアへの鉄道は、ロシア南部からケルチ海峡大橋を通るものもあるが、ここは既に何度もウクライナによる攻撃を受けているから安心できない。

というわけで、クリミアはけっこう、ウクライナが取り返せるかもしれない。ただその場合、プーチンはウクライナ本土とクリミアを結ぶ北東部の陸峡で小型核を爆発させるなどの暴挙に出るかもしれない。

(Burns CIA長官来訪の意味)

 一方、西側のメディアは、ウクライナに停戦を求める記事でいっぱいだ。15日にはWilliam Burns・CIA長官がウクライナを訪問して、ゼレンスキー等と会談している。Burnsはこれまでも、戦争の節目に来訪しているので、今度も何か大きな動き、例えば停戦の前触れなのかもしれない。

Asia Timesは、最近ザルージニー軍司令官がEconomistでのインタビューで、ウクライナ軍攻勢の行き詰まりを認めたことで、大統領府が怒り、ザルージニー等軍幹部数名の更迭を検討しているのを鎮めるため、Burnsはやってきたのだと報じている。戦線膠着、ウクライナ政府内紛、クリミアへの攻勢等々、情報が入り乱れる中、米国もウクライナの本当の状況がわからないのでBurnsを派遣し、停戦の瀬踏みをしようというのかもしれない。

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