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世界はこう変わる

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2023年9月22日

「ユーロ元」登場と人民元暴落の観測

(これは、8月末発行のメルマガ「文明の万華鏡」第136号の一部です)

 「選択」7月号が面白いことを指摘している。「世界の諸方で人民元を貿易決済に用いる例が増えている。これが海外に滞留して、マネロンなど貿易決済以外にも利用され始めている」というのである。

 かつて「ユーロ・ダラー」という言葉がもてはやされた。これはソ連が原油を輸出して得た外貨ドルをロンドンの資本市場で運用するようになってから、確立した概念だ。ソ連は、なけなしのドルを米通貨当局の一存で没収されたりする危険性の少ない第三国で運用したかったのである。

 今回の「ユーロ元」はどうか? ユーロ・ドルとは少々違う性質を持っている。

中国当局は、「人民元の国際化」を以前から求めている。その一方、貿易決済以外の目的で人民元が使われることには抵抗してきた。多額の資本取引・投機に人民元が使われると、暴落・暴騰を招きやすいからである。
 
 中国当局は、ソ連が健在だった頃、社会主義諸国の間で行われていた「自国通貨による取り引き」を念頭に置いているのだろう。当時社会主義諸国は毎年協議して翌年の貿易量を「定め」ていた。これは輸出入が均衡するよう定められていた。わずかに生ずる黒字・赤字は、「共通振替通貨」(実際はドルにリンクされていた)に換算されて、帳簿につけられた。中国の言う「自国通貨での取り引き」は、この程度のものだろう。

 ところが制裁で、ドルが使えなくなったロシアは、人民元を外貨として使い始めた。ロシアは原油と天然ガスの輸出で中国に対して貿易黒字をあげている(2022年約380億ドル)ので、人民元が手元に集まる。ロシアの企業・銀行は、この人民元を対外決済に用い、ロシアの中銀は中国の国債を購入して「外貨準備」としているのである。そして、ルーブルの下落を止める為替介入では、中国の国債を売却している。これは人民元レートを下押しする動きである。

 中国政治家が望む「人民元の国際化」はこうしてブーメランとなって、人民元の暴落を起こすかもしれない・・・というのが、この記事の示唆するところだが、海外に滞留する人民元は、暴落を起こせるほどの量はないだろう。中国が貿易赤字を持っている国はロシアが2022年380億ドル、サウジ・アラビアが2021年約200億ドルで、中国の外貨準備(そのうち機敏に使える分は限られているが)は3,2兆ドルあるのである。

ロシアは人民元暴落は起こせない

 だから、ロシアやサウジが手持ちの人民元を売却しても、中国にとっては蚊がさした程度だろう。リスクは、中国本体にある

中国は経済開放前の1994年まで、異常な人民元高を維持しており、1994年に50%の大幅切り下げをしている。そしてその後の高度成長時代、2005年5月までは1ドル8,3人民元の低レートでほぼ固定。その後自由度を強めて、現在1ドル7人民元程度で推移しているのである。

今、不動産(中国GDPの多くを稼ぐ)の変調やそれに伴う不良債権の表面化などを受けて、人民元がどこまで下がるか。モデルを2005年に求めれば、下がってもせいぜい1ドル8,3人民元。つまり18,5%程の元安で止まる、ということになる。円であれば、1ドル118円くらいになる話し。

まあ、中国は話がすぐ大げさになるから、18,5%のインフレですむのが50%のインフレになって政権を揺るがしたりするかもしれないが、今のところ「科学的に言えば」人民元安で中国が倒れるとは思えない

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