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世界はこう変わる

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2023年6月17日

ウクライナではロシア優勢なのでは

これまで西側のマスコミは、ウクライナ軍の「逆攻勢」が始まれば、ロシア軍は一ころ。本国に逃げ帰る、と言わんばかりの報道を続けてきた。実際に逆攻勢が始まると、ロシア軍の堅い守りにウクライナ軍は釘付けにされ、プーチンは極超音速ミサイルでキーウをいつでも攻略できるとうそぶいている。

そのあたり、自分は「現代ビジネス」やNewsweek日本などで書いたが、ここに要点だけ載せておく。西側は腰をすえて現状を見極め、「武力で他人の領土をかすめる」ことが認められないよう、国連の改革などに取り組まないと。

米国では大統領選が始まるのも不安材料。Foreign Affairs誌などは、早期停戦を呼び掛ける論文をどんどん載せ始めている。

今、ロシアは守る方。守る方が簡単

 ロシア軍は昨年2月の開戦以降、ウクライナから新たに奪った地域のいくつかを、ウクライナに奪還されている。しかし残った占領地域は既に、ロシアに「併合」する国内手続きを取ってあるので、ここは死守しないといけない。
つまりロシアは、攻めるのではなく守る方に転じているのだ。守るのは攻めるのより簡単。ロシア軍は数段階にわたって塹壕を掘り、前方に地雷原を作っている。ウクライナ軍が西側の最新の戦車を持っていると言っても、この守りは突破しにくい。
西側から「最新型の戦車」をもらったと言っても、ネジが一本外れれば西側から取り寄せねばならず、そういった戦車が何種類もあるから、訓練、メンテ、修理がとても追いつかない。

つまり、ウクライナ軍は攻めあぐねる。これまではロシア領内での攻撃を強化してきたが、やり過ぎれば、ロシア国民を本気で立ち上がらせてしまう。ロシア国民の多くは戦争をそれほど身近に感じていないのだが、自分が被害を受けたり、ロシアが「敗戦の屈辱」を嘗めることは断じて受け入れない。すっかり自信を失っていたソ連崩壊直後の1990年代とは違うのだ。

西側支援も底をつく

「戦線は膠着? そんなことはない。ロシアは戦車を千両近くも破壊され、今や砲弾の生産も間に合わない。青年を動員しようとすると、みんな海外に逃げてしまう」と言いたくなる。しかし面白いことに、生産能力ではるかに勝るはずの西側が、兵器の補充テンポではロシアに敵わない。冷戦終結で軍需産業を大幅に整理してしまったからだ

西側では、プーチンがクーデターで追い出されると本気で思っているが、そうはなるまい。最近のプーチンの顔はふてぶてしい自信をみなぎらせている。プーチンと言うよりも、公安・治安警察=旧KGBが国をしっかり握っていて、プーチン神輿を放り出す気配は見えない。

米国の事情

 アメリカは来年は大統領選挙なので、ウクライナ戦争が共和党・民主党の間の係争事項になって対応を捻じ曲げられることは避けたい。年内にも停戦のめどをつけておきたいことだろう。4月中旬、アメリカのForeign Affairs誌は外交問題評議会議長リチャード・ハースと有数のロシア問題専門家チャールズ・クプチャンの連名で、停戦を呼び掛ける論文を掲載した。

これは、米国はあと一回くらいの決戦ができるほどの兵器を供与するが、それで決着がつかないことがわかったら、ウクライナはロシアと停戦交渉を始めるべきだ、2014年以前の国境を回復することは不可能だから、ロシア領内に非武装地帯を設け、境界に国連の平和維持団を派遣、NATOは並行してロシアと軍備管理、今後の欧州安全保障について話し合う、ロシアが停戦条件を真摯に守れば制裁を限定的に解除する、というものだ。外交問題評議会は米国の政策形成層の意見を集約するもの。その議長による論文を、同評議会の機関誌格であるForeign Affairsが掲載した意味は大きい。

NATO首脳会議

7月11日にはリトアニアの首都ヴィルニュスで、年恒例のNATO首脳会議が開かれる。ウクライナが主要議題となる。兵器支援をどうするかについては、内々の話し合いがウクライナと行われていて、まだリークはない。おそらく米国が中距離射程のミサイルを供与する程度が関の山。財政赤字の限度額拡大を議会に認めてもらったばかりのバイデン政権が、ウクライナ支援を拡大できるはずもない

今のところ、NATO首脳会議をめぐってマスコミに出てくるのは、停戦後どうするかについての話しだけだ。「ウクライナを直ちにNATO加盟国とするわけにいかない。しかし停戦が実現すれば、NATOは数年にわたってウクライナの安全を保証する」案などがフロートされている。

つまり、ウクライナ戦争をめぐる西側の対応には、潮目の変化がうかがえるのだ。このままだと、ロシアは「2014年のクリミア占領の固定化と東ウクライナでの占領地域拡大」の線での停戦にこぎつけるかもしれない。停戦ラインを固定してしまう協定類への署名は、ウクライナ、ロシア双方ともしないだろう。そしてロシアがクリミア、東ウクライナの占領(ロシアは「併合」と称している)を続ける限り、ロシア制裁は残るだろうが。一方、ロシアが停戦ラインを破った場合、ウクライナ、西側は対応に窮することになるだろう。

状況は、このとおり、ウクライナに旗色の悪いものになっている感じがする。ウクライナは情報を統制して、西側のマスコミも抑えつけようとしているから、実情が西側に伝わっていない。中国で言うなら、没弁法。打つ手なし。
 

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