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世界はこう変わる

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2023年1月21日

割れて浮動し始めたユーラ シア大陸の地殻  中ロも置いてけぼり

(これは12月28日発行したメルマガ「文明の万華鏡」第128号の一部です)

 この前、林外務大臣の記者会見記録を見ていたら、どこかの記者がこういう趣旨の質問をしていた。「今度、日本で中央アジア五か国の外務大臣と一堂に会われますが、かねてロシア寄りと見られている中央アジアの国々と、今ロシアがウクライナと戦争をしている中で友好をはかるというのはどういうことですか?」

 これは、「中央アジア=ロシアの勢力圏」という、20年前、いや30年前の固定観念に基づいた質問だ。日本は中央アジアの対ロ、対中自立性を後押しするために、こういうことをやっているのだし、中央アジアとロシアの間はウクライナ戦争をきっかけにひび割れの度合いを高めているところなのに。

アフガニスタン、中央アジア、コーカサス、中東で、大陸の殻にひびが入ったかのような蠢きが始まっていて、国際政治での合従連衡の状況は猫の目のように変わっていく。西側、あるいは日本のマスコミが作り出した通念は捨ててかからないと、この変化にはとてもついていけない。

アフガニスタンでは、仇敵同士だったはずの米国とタリバンの間で話し合いが続いている。米国はタリバン政権との関係を何とか樹立したいようだが、タリバンは米国が差し押さえているアフガニスタン政府の財産をまず寄越せと言っているようだ。最近話題になっている、女性の大学教育停止は、この交渉の具にするためタリバンがしかけたものかもしれない。

中央アジアではロシアの地位がめっきり低下。9月中旬習近平はカザフスタンを公式訪問して「主権・領土保全の尊重」を訴え、対ロ自立傾向を強めるカザフスタンをロシアから擁護するような姿勢を示している。そして11月にはカザフスタンが、ウズベキスタンと二国間で軍事同盟を結ぶ案をフロートさせると、その同日に、プーチンがカザフスタンのトカエフ大統領に、ウズベキスタン・カザフスタン・ロシアの三国同盟の締結を持ち掛けた・・・という報道だったのが、プーチンの提案は「同盟」というよりは天然ガスの輸送路で右三国間の提携を強めようという話しだったようだ。EUに天然ガスをほとんど出せなくなったロシアが、天然ガスが不足気味のカザフスタン、ウズベキスタンにガスを供給するとともに、カザフスタンを通って中国に至る、ウズベキスタンを通ってアフガニスタン、パキスタンに至るガス・パイプラインを作ろうというのだろう。

中央アジアでは、9月にタジキスタンとキルギスの間で国境戦争が起き、死者百名以上が出たのだが、ロシアはろくに仲裁もしなかった。しかも、戦争の一方の当事国タジキスタンのラフモン大統領だけをなぜか叙勲。キルギスのジャラポフ大統領はすっかり怒って、プーチンの70歳記念「集団安全保障条約機構(CSTO)」臨時首脳会議への出席をドタキャンしたばかりか、10月10日に予定されていたキルギス領内でのCSTO共同軍事演習「壊れない兄弟愛2022」をやめさせる有様。

CSTOはタジキスタン・キルギス問題だけではない。後述のアゼルバイジャン・アルメニア間領土戦争でも手をこまねくばかりで、もはやほぼ完全に形骸化している。

アフガニスタンをめぐっては、ロシアも複雑な動きを見せている。タリバン政権が成立した当初はこれにすり寄っていたが、最近では沙汰止みの感がある。

一方でロシアは、ウクライナ開戦の前後、当時は反米だったパキスタンのハーン政権への接近をはかったことがある。実に2月24日、ウクライナ侵攻開始の数時間前、ハーン首相はクレムリンでプーチンと会談しているのだ。パキスタン首相の訪ロは23年ぶり。これにインドが反発して――インドにとって最大の脅威は中国ではなく長大な国境を接するパキスタンなのである――、最近のモディ首相によるロシアのウクライナ侵攻非難(「今は戦争している時ではない」との発言)につながったものと思われる。ハーン政権はその後倒されて、現在の親米政権に代わっている。

ところで、タリバンはもともとパキスタン軍が作り出したものだが、パキスタンにもあるタリバンは内部に反政府の派閥が生まれ、それがテフリク・タリバン・パキスタンを名乗ってアフガニスタンのタリバンにかくまわれている。そしてパキスタンの軍内部にも派閥闘争があって、それはパキスタン・タリバンの分裂にも関わっているという、複雑な方程式になっている。

コーカサスではトルコがロシアを押しのけて、アゼルバイジャン・アルメニア間の領土紛争の調停をはかり、トルコを敵視してきたアルメニアがトルコへの接近をはかっている。一方、イランはドローンの提供を初め、ロシアとの提携を強める一方、アゼルバイジャンとの対立を強めて(後者がイスラエルとの提携を強めたため)、両国は国境付近で大規模軍事演習を繰り返すまでになっている。

ロシアの退潮で、イランは地域大国の地位を志向。かつてペルシャの時代、ロシアに領土を大きく譲った遺恨(19世紀初め、二つの条約で今日のアゼルバイジャンのあたりを譲っている。これによってアゼルバイジャン族の居住地は現在のアゼルバイジャンとイランの二つに分割されてしまった。イランの人口の3分の1はアゼルバイジャン系である)が、そろそろ頭をもたげてきている。

ここで目立つことは、国際政治の枠組みがすっかり緩んでおり、米中ロといった老舗大国の地位も猫の目のように変わり始めたということである。中ロは、「アメリカよ、くたばれ」という願いをこめて、「世界は多極化する」と唱えてきたのだが、実際に多極化してみると、あまり居心地がよくないことに気が付いてきたのでないか。

米国経済が崩れれば、中ロの経済もそのあおりを食らって、米国以上に沈むだろう。米国がしっかりしていれば、米国のやることを少しの力で妨害してやれば、その力を越えた効果を発揮することができたが、米国という悪役が退いてしまった中央アジアや中近東では、ロシアや中国はよほどの力を出さないと、自分の存在を誇示することはできない
ユーラシアでは、ロシア、中国も、次席大国とも言うべきインド、イラン、トルコ、サウジ・アラビア等とはほぼ同格。中ロは世界の多極化ではむしろ被害者の面がある

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