Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2021年4月 4日

リーマン恐慌は再来するのか

(これは3月24日に発刊したメルマガ「文明の万華鏡」第107号の冒頭部分です)

 今いちばん注目しているのは――と言ってもこの頃の情勢では日替わりですが――、米国での長期金利の急上昇(現在1.6%程度。半年前は0,67%だったので、絶対水準は低くとも上昇のテンポが異常)と、それが株式暴落等を招いて金融危機に至った場合の世界的な影響がどんなものになるかです。

 米国や世界の株式市場は、コロナ後の経済回復、米国での1.9兆ドルの刺激策採択などのプラス材料を既に全部織り込み済み(これらを予想して価格を上げてきたという意味)で、これ以上株を買い上げる材料に当面乏しい状況にあります。

 株価の下落より怖いのは、金利の上昇で多額のジャンク・ボンド(規模はリーマン危機の時ほどではないもよう)が値崩れを起こし、これを抱えた金融機関の資産状態が悪化して新規融資を手控える――つまり2008年リーマン危機の時のような金融の目詰まりが起きることです。

 金融の目詰まりに対しては2008年リーマン危機の時と同様、銀行・企業に公的資金を注入するので、米国の場合など経済は素早く立ち直り、公的資金は数年間で返済されるでしょう。それも利子つきで。銀行・企業は「公的資金つき=ダメ企業」のレッテルを早く振るい落としたいし、政府から経営に口出しされるのも止めたいわけです。それは、欧州でも日本でも同じこと。従ってマクロ的には、金融危機が再度やってきても、先進国経済が倒れることにはならないでしょう。

米国は財政・貿易赤字が膨大なものになっているので、1985年のプラザ合意の時と同様、ドルのレートが暴落してもおかしくないのですが、目下のところは米国の金利が上昇しているためにドルはむしろ上昇しているという状況。ここで金融危機が起きると、世界のドル決済も目詰まりしますが、2008年の時と同様、米国連銀が主要国中銀にドルを用立てすることで、グローバルな貿易と金融取り引きの停止を防止するでしょう。こうした状況では、「基軸通貨の地位からのドルの転落」は起きないでしょう。

 ただ、金融危機で不況が生じると、米国政府はまたまた景気刺激策を取ることとなります。この資金は消費者より企業・銀行に流入するのですが、これは投資を増やすより、マネーゲームを助長して、所得格差を益々広げ、社会を益々荒れたものにするでしょう。
 
中国は、2008年には約60兆円相当の内需拡大策で高度成長を維持したわけですが、今回は無理でしょう。というのは、2008年以降の金融ばらまきの多くが採算の取れない鉄道・ハイウェー建設等に向けられたために、国営四大銀行だけでも9790億元(約15兆3200億円)相当の不良債権ができているからです。そして財政赤字は2021年度、3兆5700億元(約58兆円)を予定しています。金融危機が世界不況を起こせば、中国製品への需要も急減しますから、貿易は赤字になるでしょう。

とても、「金融危機を契機に、ドルを世界通貨の座から蹴落とす」ことはできないわけで、自分自身が蹴落とされないよう、必死で頑張らないといけないことでしょう。

ロシアは2008年リーマン危機の時、西側と同じように輸出の急減(原油価格が暴落したことによるもの)、そして金融の目詰まりに直面したので西側と同様、銀行・企業に公的資金を注入して経済の縮小を日本以下の幅に抑えました。しかし、ロシアなど旧社会主義国の銀行・企業では、「公的資金は予算と同じ、つまり返済不要」というマインドがこびりついているし、もうからなくなった自分の企業を政府に接収してもらって喜び安心する経営者も多いので、リーマン危機後は経済の再国営化が進行し、経済活動を不活性化させています。

世界的不況が起きると、途上国、産油国はほぼ軒並みひどい目に会うことでしょう。現在の米国での金利上昇だけでも、これら諸国の資金は米国めがけて流出し、途上国通貨の対ドル・レートは急落。これは国内でインフレを激化させる他、ドル債務返済をますます難しくし(現地通貨ベースでの返済額がどんどん膨れるため)、それでデフォルトということになれば、通貨のレートはますます下がるでしょう。国内の金利を引き上げて自分の通貨を守ろうとすると、それは国内の景気を冷やしてしまう。

こうして見渡すと、再度の金融危機がもし起きると、火元の米国がまず素早く(数字の上では)立ち直り、「破綻するたびに焼け太り」という奇妙な現象を繰り返すことになるのでしょう。しかし、そのたびに米国内の社会のきしみは益々大きくなっていきます。米国の場合、格差が厳しくなればなるほど、人種対立も激しくなるので、米国は経済よりも統治能力の点で多民族の帝国特有の末期症状を示しています。トランプ系側からのファシズム、民主党左派からの社会主義革命気運。この不毛の現象を解決できるのは、格差縮小をもたらす形での経済成長です。

日本は、金融危機が起きれば世界の景気が一時後退して輸出も急減(2008年の際には、「蒸発」という言葉が使われました)しますから、GDPが減少することは免れないでしょう。2009年には6%のGDP減少を見ています。しかし日本は、自動車(電気自動車も含めて)、電子・半導体の素材・部品・製造機械の生産で世界での優位を維持しているので、地力には大きなものがあります。製造業を基礎に、金融業、その他サービスを発展させ、生産力に見合うだけの消費を政府資金で支えて行けば、格差の小さい、全体として豊かな社会を維持・発展させていくことができると思います。

というわけで、今月号の目次は次のとおりです

英国が抜けて小粒になったEU

機械翻訳では、外国と渡り合えない

台湾をめぐるねじれの構造

賞味期限を過ぎた、中国の「一帯一路」

ロシア、(9月の)総選挙モード

「米中緊張」、「米ロ緊張」の舞台裏で

今月の話題1:世界中の反政府派のためのSNS、"Telegram"
今月の話題2:日米の科学者、地球上の生命絶滅の日を予測
今月の話題3:日本のストーン・ヘンジ、秋田の大湯のストーン・サークル

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