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世界はこう変わる

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2020年4月 7日

中国はどのくらい停滞するか? それは内外にどう影響するか?

(これは3月25日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第95号の一部です)

 中国は1990年代後半以来、外資を盛んに取り入れ、外資の作った工場から製品を海外に輸出させて黒字を稼ぐと、それを国内で10倍以上にも膨らませて不動産等の投資にぶちこみ、それで異常な高度成長(公有地を開発するので地代がほぼゼロ。付加価値が大きく出る)を演出してきた国である。

 外資が、中国で輸出向け製品を作ることをこれからやめていくと、貿易黒字は消えていく。そういう動きはまだ本格化していないが、米国の高関税やコロナでの生産停滞から今年の1-2月、中国は貿易赤字になっている。今のところ外資は中国市場向け製品を生産するための直接投資はやめていないが(2018年には1390億ドルhttps://www.globalnote.jp/post-1599.html)、これも減少していくだろう。そうなると、中国は高度成長のための「パンだね」がなくなってくる。成長率はよくて名目3%、実質ゼロ程度になるだろう。

 中国では毎年、約500万、つまり0,3%分の人口が増える。実質ゼロ%の成長では、生活水準の下落が生じる計算になる。

 それでもこれは、1991年12月のソ連崩壊の前後、ロシアで起きたことと比べると、はるかにましだ。ソ連が崩壊した時、エリツィンは国防費を大幅に削減、ロシアの工業の実は大宗を成していた軍需産業を壊滅状態に導いた。GDPは公式統計上では90年代30%以上縮小した。これは、筆者が当時現場にいた実感では、「経済はほぼゼロになった」のである。

 ろくな消費財を作っていなかったソ連では、賃上げの金だけが出回っていたので(賃上げしないと労働者が別の企業に移ってしまう)、1992年1月新ロシア国家が価格の国家統制を一斉に撤廃すると、2年で6000%のハイパー・インフレが起きた。市民の貯金は紙くずとなり、賃金は増えない中でパンや食品の値段は毎日倍増していくという不条理な世となった。

 警察が治安維持能力を失った中で(と言うか、警官が強盗に雇われる例も頻繁に見られた)、流通分野での勢力争いから、毎夜撃ちあいの音が聞かれる不穏な情勢。そして地方当局の中には、モスクワへの税送金を渋るところもあり、タタールスタン共和国のように異民族が多数を占める自治体では、独自の憲法を採択し、自分の「大統領」を直選で決めるところも現れたのである。当時のことは、筆者作の大河小説「遥かなる大地」(草思社、熊野洋のペンネーム)に如実に書いてある。

 中国は、当時のロシアとは違う。自分自身が世界の消費財生産の中心なので、モノ不足がインフレを呼ぶことはない。そしてまだ外貨準備もあるので(ソ連崩壊当時のロシアは、外貨を殆ど持っていなかった)足りないものは輸入もできる。但し2018年の輸入額は2兆ドルを超える。この中には再輸出される電子・自動車部品等が含まれているので、それが激減したとしても1兆ドルの外貨は必要だろう。現在の外貨準備は約3兆ドル。決して安心はできないのだが。

 こわいのは、北京で権力闘争が激化して、権力が真空状態化することだ。ソ連末期、クーデターの失敗直後に現出した情勢だ。この時、ゴルバチョフの中央政府の勢威はエリツィンのロシア共和国政府によって大きく殺がれ、地方は軒並み中央政府への税送金をとりやめた。
 中国でも同じことは起こりえる。地方政府の中には「独立」志向を強めるところも出てくるだろう。また金融や流通には闇の勢力が入り込んで、政府の統治、そして治安を脅かすだろう。軍隊の兵器は横流しされ、ソ連崩壊当時のロシアと同じく、連日連夜、街の諸方で撃ちあいが絶えない、ということになるだろう。

 当局は、台湾や尖閣列島、そして南シナ海をめぐって緊張を激化させ、そこに民衆の注意を向けようとするだろう。また1960年代顕著であったように、東南アジア諸国の反政府勢力を支援して、自分の外交上の地位を優位なものに保持しておこうとするかもしれない。

 いずれにしても、「一帯一路」をかかげて、世界中のインフラ建設請負に出かけていたひと頃の中国、濡れ手に粟で手に入れた外貨で、外国の企業を軒並み買収しては技術を抜き取ろうとするこれまでの中国は、影をひそめることになるだろう。

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