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世界はこう変わる

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2019年12月19日

ウクライナ情勢の現況

9日にはパリで、ウクライナ問題収拾のための首脳会談(ゼレンスキー・ウクライナ大統領、プーチン・ロシア大統領、マクロン・フランス大統領、メルケル・ドイツ首相)が開かれました。この顔ぶれでの首脳会談は、これで3回目。久しぶりに開かれたものです。

ウクライナ情勢については2015年、ドイツ、フランスの仲介で、停戦、重火器の撤退、ロシアと東ウクライナの国境に対するウクライナ政府の管轄権の回復、分離主義者が支配する地域の自治性強化等についての「ミンスク合意」ができました。

その後右合意はロシアに有利だとする、ポロシェンコ政権が実施をサボタージュ、お蔵入りになってきましたが、ゼレンスキーは紛争解決を公約にして4月当選したため、今回の首脳会談となったものです。

会談に先立ちゼレンスキーは9月訪米してトランプに会ったものの、トランプには、ウクライナ支援の代償として、バイデンとその息子がウクライナで行った不正行為についての資料提供を求められるに終わるという、辱めを受けるだけに終わりました。ゼレンスキーは米国の支援、そして特に対ロ制裁の維持の約束という武器なしに 、徒手空拳で(と言うのは、ドイツもフランスも、ウクライナを犠牲にしてこの問題に早くけりをつけたいと思っているからです)プーチンに対峙せざるを得ない羽目に陥ったのです。

ゼレンスキーはこうした状況下、もし下手に妥協すれば、国内での立場を失ったでしょう。従って、今回特に結論は出ず、4月にまたベルリンに集まって、親ロシア勢力が制圧したままのウクライナ東部で、事態収拾のための選挙をどうやって行うか決めようや、ということになりました。

ウクライナ問題は伏魔殿のような世界です。これまでの経緯をまとめてみました(実はある所でボツにされた原稿。もったいないので)。

・ウクライナ情勢は、ウクライナ=善、西側=善を当然の前提として語られやすいが、ウクライナも、西側も、そして米国もロシアも二枚舌、三枚舌を弄する上に、いずれも内部の対立・分裂を抱えているので、第三者が「無力なウクライナを邪悪なロシアから助けよう」と思い込むことは、お人よしに過ぎる

・2014年のウクライナ紛争の根源は、ヤヌコーヴィチ大統領が債務累積をロシアからの融資で解決しようとして得られず、EUとの連合協定を結ぶことで融資を受ける姿勢に転換したことにある。しかしヤヌコーヴィチはロシアの圧力を受けて方針を転換。2013年11月には、EUとの連合協定を署名直前でキャンセルするに至った。

これに対してEUへの接近を待望していた国内リベラル層は反発し、12月にかけて首都等で集会を続けるようになった。その結果2014年2月末には独仏の肝いりで年内大統領選挙の実施を宗とする調停が成立したのだが、その直後跳ね上がりの右翼暴力勢力が大統領公邸に乱入。ヤヌコーヴィチはロシアに逃亡して、実質的なクーデターが成立したのである。

プーチンはこれを米国CIAの仕業と見て、クリミアのセヴァストーポリ・ロシア海軍基地を制圧されることを危惧。以前から準備していたクリミア併合計画を始動させたのである 。クリミアはロシア人人口も多いし、ロシアに併合されることで公務員、軍人の給与が3倍程度に増えることを知っていた住民はさして抵抗を示さなかったが、クリミアでの成功に酔ったロシアが東ウクライナでの工作を強化すると、キエフ政府からの反撃を食らって、事態は膠着するに至った。死者は1万を超え、ポーランド、ロシア等への避難民は300万を超える。

・この間、米国のNPOは共和党系、民主党系双方とも、ウクライナの「民主化」のための運動支援を行ったが、オバマ政権はウクライナ政権への軍事支援を抑制(殺傷兵器を供与せず)、ミンスク合意に見られるように、解決は欧州諸国に委ねたのである。

・他方、ウクライナの政治・経済を牛耳るオリガーク達は、ワシントンの政権当事者、シンクタンクへの工作を展開。
ウクライナを担当していたバイデン副大統領は、息子のハンターをウクライナのエネルギー企業の幹部職に押し込んだし、ウクライナのオリガークのピンチュクなどはワシントンのシンク・タンクに手厚い資金を注ぎ込んだのである。また2016年の大統領選挙で、ポロシェンコ大統領は反ロのヒラリー・クリントンを支援。こうした一連の経緯から、トランプは当選後ポロシェンコを遠ざけ、ゼレンスキーにもバイデン中傷材料を提供して自分への忠誠をまず示すよう迫ったのである。

・ゼレンスキーはこの難しい構図の中で大統領になった。俳優出身の彼は(人物としては非常に有能であり、政治的勘も備えている)政府内での人脈を欠き、特に軍、諜報機関、警察への抑えがきかない。そして正体不明の「右翼」勢力が、あらゆる対ロ譲歩に反対して、ゼレンスキーの手を縛る。これゆえに、今回ノルマンディー会合は最初の手合わせ
だけに終わったのである。もっとも、難しい立場での会談だったにもかかわらず、ゼレンスキーは品位と国家の威厳を保ったと、国内では高く評されている。

・以上から、今後の展開はまだ読めない。ウクライナとしては、急ぐ必要もないだろう。ロシアは西側の反発を恐れて、攻勢には出にくい一方、財政負担の増大を嫌うコーザク副首相等が解決を求める動きを示しているからである。また親ロシア勢力が支配する地域では、ウクライナのオリガーク、ロシアの諜報機関等が共謀して特産品の石炭・鉄をウクラ
イナ本体、及び第三国に移出・輸出する仕組みを作り上げ
、生活は一応落ち着いている。

そしてウクライナをめぐっては、次の事象が目立つ

米国外交の内政化
外交が、共和・民主対立の具になっており、上記トランプのゼレンスキーへの言葉、「君がロシアと抱える紛争は、自分でロシアと話して解決しろ」に見られるように、米国との友好関係から得られるご利益が低下している。

米欧離間
米欧離間は未だ決定的となったわけではなく、来年には米軍が大挙して大西洋を渡る大演習もNATOでは計画されている。
しかしウクライナ問題解決をトランプが独仏に丸投げしていること、その中でマクロンは対ロ接近を意図していること、BREXITが実現するであろうこと等は、欧州がロシアをもメンバーとする19世紀型合従連衡体制へ徐々に移行していくことを意味するかもしれない。


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