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世界はこう変わる

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2018年11月20日

トランプ政権で移民はどのくらい減ったのか

米国はもともと移民国家であり、これからもその経済成長、経済活力の維持を移民に負うところ大である。それなのにトランプ大統領はイスラム系、メキシコ移民をやり玉にあげ、移民流入規制強化の構えを示してきた。これが実際にはどうなっているかを、米政府及び民間調査機関発表の資料でちょっと調べてみた。

総じていえば、今年の第1四半期で対前年同期比10%程度の減少が生じている。しかし、トランプが当初やり玉に挙げたイスラム系諸国からの移民はもともと少ない上に(但し移民とは別枠で、2017年に米国に定住した約5,4万人の難民のうち、43%はイスラム系)、最近2年間の増減は国によってまちまちである。

「大口」の中で減少率が最も目立つのは中国、インド、フィリピンである。メキシコからの移民は2017年こそ2,3%減少したものの、2015年に比べれば7,5%増の勢いを保っていた。2017年の合法移民はメキシコから17万人、中国から7,1万人、インドから6万人、フィリピンから4,9万人になっている。なおインドを含め、アジアからの移民は、米国人平均より高い率で大卒以上の学歴を有している。

移民の減少がこの程度であれば、米国経済に及ぼす影響は限定的なものに止まるだろう。

1. 概観
(以下の1)-4)は国土安全保障省統計 。5)以下はPew Research Center資料 )
1) 本年第1四半期、新規の合法定住資格取得者(lawful permanent resident)は26,4万人で、昨年同期比9%減。2017年の総数は112,7万人で2016年より4,8%減であったが、2015年の105,1万人よりは7,2%も多かった。

2) 上記本年第1四半期のうち53%は、これまでも米国に居住していたのが定住資格を得た者。47%が海外から新規にやってきた者で、これは12,4万人。昨年同期比18%減。

3) 本年第1四半期のうち43%はメキシコ、キューバ、中国、インド、ドミニカ共和国、フィリピンの「大口6カ国」出身。この6カ国は昨年同期も上位6位、全体の41%を占めた。

4) イスラム系諸国からの移民はもともと多くなく、マスコミに報道されるように大幅に減少しているわけでもない。増減はイスラム系諸国の間でまちまちで、イランは2015年以来一貫して増加している。大口の中で、2017年に減少が最も目立つのは、中国の12,5%減(7,1万人に)、インドの6,7%減(6万人に)、フィリピンの7,8%減(4,9万人に)で、話題のメキシコは2,3%減(17万人に。しかし2015年よりは7,5%増)にとどまる。

5) 2016年現在、4370万人以上の米国人が第1世代の移民で、これは約1980万の米国籍取得者、1190万の合法定住資格取得者、210万の合法一時在住資格取得者、約1100万人の非合法移民から成る。これは世界の移民数の4分の1相当。1965年移民法の改正で移民の国別枠が撤廃されて以降、この数は4倍になった。それにより、米国総人口中第1世代の移民が占める割合は1970年の4,7%から13,5%に上昇した。但しこの数字は1890年の(欧州からの大人口移動期の)14,8%には及ばない。

6) 1990-2007年に、非合法移民は3倍に増加して1220万人に達した。2008年のリーマン危機でこの数は100万人減少し、その数はその後もあまり増えていない。その減少の多くはメキシコ人の減少によるものである。

7) 5年以上米国に定住する等の条件を満たせば、帰化を申請できる。2017年には98万人が帰化を申請した。メキシコ人は、言葉ができない等の理由で、帰化申請の率が最も低い。

8) 2065年までは、米国の人口増加の88%は移民とその子孫(何代目までなのかは不明)によってもたらされることになるだろう。

9) 1980年にFederal Refugee Resettlement Programが制定されて以来、約300万人の難民が米国に定住した。2017年には53,716名の難民が米国に定住した。うち最多数はコンゴ共和国、次いでイラク、シリア、ソマリア、ミャンマーからで、43%がイスラム系であった。

10)移民が最も多数居住するのはカリフォルニア、テキサス、ニューヨークで、それぞれが全体の24%、11%、10%を占めている。別の言い方をすると、米国西部に34%、南部に33%、北東部に21%、中西部に11%居住している。

11)メキシコからの移民(2016年)の57%、中米諸国からの移民の49%は高卒以下の学歴。他方南アジア、東アジア、欧州、カナダ、中東、アフリカ北部(サブ・サハラ)からの移民は、米国生まれの米国人に比べて、大卒以上の学歴を持つ者の率が高い

12)米国生まれのベビー・ブーマー世代が引退するにつれ、移民は貴重な労働力となる。2015-35年に、彼らは1800万人分の労働可能人口増をもたらしてくれるだろう。

13)オバマ政権は2009-16年に、約300万人の移民を本国に追放した。ブッシュ政権は2001-08年に200万人を追放した。

14)メキシコとの国境で(米国への不法入国を試み)拘束される者は減少している。2006年度には100万人以上だったが、2016年度には約41万人になっている。

15)大多数の米国人は、移民に対して前向きの態度を持している。65%の者が、移民はその労働と能力で米国を強くすると答えている。しかしその度合いは民主党、共和党の間で大きく異なる。民主党支持者の84%が前向きであるのに対して、共和党支持者の44%は移民を負担ととらえ、前向きにとらえる者は42%しかいない

16)アジア系移民については47%の者が好感を持っているが、欧州からの移民については44%、アフリカ、ラテン・アメリカからの移民については26%の者しか好感を持っていない。

17)新規移民を減らすべきと考える米国人は全体の49%、増やすべきだと考える者は15%、34%は現状維持。

2. アジア系移民について
"Asian-Americans Make Up Most of the New U.S. Immigrant Population"
National Geographic, Lindsay N. Smith
1) 2010-17年、米国籍を得た移民の41%はアジア出身(インド含める)で、ラテン・アメリカ出身は39%であった。それ以前から米国に移住して米国籍を獲得した者は、ラテン・アメリカ出身が50%、アジア出身は31%なので、トレンドが変わりつつあるのかもしれない 。

2) 現時点で、アジア系(2世以下を含む)の米国人は中国系が495万人、インド系が398万人、フィリピン系が390万人、ベトナム系が198万人、韓国系が182万人、日系が141万人である。中国系、インド系はニューヨークに最も多数が居住し、フィリピン、ベトナム、韓国系はロスアンジェルスに最も多数が居住している。

3) アジア系の移住が増加するにつれ、移民全体の学歴が上昇している。2010年以降の移民の45%が大卒者であった。2000-09年には、この数字は30%に過ぎなかったのである。

4) 移民の中では、アジア系に所得格差が最も目立つ。上下の所得差は十倍ある。
                              (以上)

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