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2018年8月30日

ドイツの嫌米、そして核武装・徴兵制復活論議

(これは、8 月22 日に「まぐまぐ」社から発売したメール・マガジン「文明の万華鏡」第76号の一部です。このメルマガを毎月早く入手されたい方は、http://www.japan-world-trends.com/ja/subscribe.phpにて、講読の手続きをお取りください)

ドイツは欧州国際政治のヘソである。20世紀初頭以来、経済力は抜群だし、思い込みで突っ走る癖のある国民性で、2度の世界大戦を引き起こしている。戦後はNATO、EU、ユーロの枠の中に閉じ込められてきたが、ドイツが米国との腐れ縁を切る時は、欧州政治は一気に緊張をはらむ。

ドイツは2011年には徴兵制も停止、イタリアやスペインなどの南欧諸国のおかげでいつも低位に推移するユーロのおかげで、輸出主導の経済繁栄を演出(日本の輸出額はGDPの10%程度にしか相当しかないが、ドイツの場合これは40%に近い)、戦後の米国主導体制の中で安眠を貪ってきた。

トランプはこのドイツを、乱暴に蹴起こしつつある。ドイツ人の大半が安保問題上の危機を感じていないというのに、国防費をGDPの2%以上にするよう強引に迫り、ドイツの対米貿易黒字を何とかしないと関税を上げると言って脅す。ロシアからの天然ガス輸入を大幅に増加させるバルト海でのパイプライン増設に、トランプは露骨な圧力をかけ、割高で量も足りない米国のシェール・ガスを買わせようとする。そして民主主義の「ミ」の字も言わないトランプは、戦後民主主義の優等生をもって自任するドイツ人にとって、我慢ならない野蛮人に見える。

これを受け、ドイツ人の間には対米不信が高まっている。7月29日付Welt am Sonntag紙によれば、国民の圧倒的多数はトランプよりプーチンの方を信用し、国防費をGDPの1,5%以上にするとのメルケルの方針を支持する者は国民の15%のみである。最近着任したばかりの米国の在ドイツ大使Richard Grenellは赴任の際の飛行機上から、国防費増額等につきドイツ政府に指示を与えるかの口ぶりのツイッターを発信、火に油を注いでいる。彼はマッケイン上院議員、ボルトン国連大使等の下で広報を担当した俄か作りの外交官である。

そして、核武装、徴兵制の復活について公開の議論が起きている
。ドイツでは、核武装、徴兵制についての議論の敷居が、日本より少し低い。つまり理念についてよりも実効性について議論をしやすいのである。核については、NATOの仲間の英国とフランスが核兵器を持っているので、いざと言う時にはこれを抑止力として当てにすることができる。またドイツ領内には既に核兵器が配備されている。これは戦後一貫して米軍が維持しているもので、当初はソ連軍が攻めてきた時、その鼻先で爆発させて勢いを殺す目的を持っていた。これはDual Key方式と言って、ドイツと米国双方が一致して初めて使用できるのである。冷戦時代は東独領内、あるいはポーランドあたりで使用することを想定していたのだろうが、現在はそれは不可能である。それでも、在ドイツの米軍戦術核兵器は、ロシアに向けた抑止力として(米軍が目下開発中の新型核弾頭B61-12は、条約では禁止されていない空中発射の巡航ミサイルに搭載すればロシア領に到達する)、そしていざという時には米軍がドイツを防衛してくれることの証しとして、むしろドイツ側からの要請で残っている(筆者が数年前、ドイツに行って聴取したことを根拠として言っている)。

ドイツ人は、筆者が西独ボンに勤務していた1980年代初頭には既に、米国に対して何するものぞという気概を示していた(西ベルリン防衛を米国に依存していたので、結局は米国の言うことを聞いていたが)。そしてSPD(社会民主党)は戦後一貫してソ連に宥和的で、反核、反戦運動の波を何度も起こしてきた過去を持つ。

ドイツは欧州政治、ひいては世界政治の「へそ」なのだ。第1次大戦後間もない1922年、ソ連とラッパロ条約を結んで両者で国際的孤立を脱却してみせたこともある。現在、メルケル首相はおおっぴらにトランプと対立するとともに、同じくトランプと対立して通貨リラの暴落を起こしたトルコのエルドアン大統領に接近(後者は9月に訪独を予定)、また8月18日には2014年のクリミア事件後初めてプーチン大統領の訪独を受け入れた。慎重な彼女にしては、随分あけすけな外交である。

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