Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2018年2月 9日

中国の保守化は中国経済を破壊するか

(これは、1月24日に「まぐまぐ」社から発売したメール・マガジン「文明の万華鏡」第69号の一部です。
このメルマガを毎月早く入手されたい方は、http://www.japan-world-trends.com/ja/subscribe.phpにて、講読の手続きをお取りください)

習近平政権が権力集中で突っ走っている。5年に一度の共産党大会のあと、半年後の国会、つまり全国人民代表会議で、党大会で決まった方針に基づいて政府機関の人事を決め、主要な法律を採択する。そしてその全人大を準備するため、1月くらい前には共産党中央委員会全体会議(中全会)が開かれる。

昨年10月に第19回共産党大会が開かれたので、3月の全人代を準備するためには中全会は2月に開かれるだろうと予想されていた。それがもう昨年末から2中全会は前倒し開催されるとの観測が流布され、その観測の通り1月18日には開催された。そこで決められたことは、憲法を改正して「習近平思想」を入れること(憲法改正は正式には全人代で決まる)、そして発表はされていないが首相を代えること等だろう。
 
過度の権力独占が生む不満のマグマ

習近平とその周辺は、前のめりになっている。まず、身の回りを過度に純正化している。要するに江沢民系とか共青団系とか、自分が完全にコントロールできない連中は寄せ付けない。第19回党大会では最高権力機関の政治局常務委員会を大幅に若返りさせると共に人数を削り、自分の後継者となり得る者も排除して、まるで自分の秘書官を集めたようなものとした。これによって常務委員会は、日本の自民党になぞらえるなら、政調会のような有力政治家達がもみ合いながら国の方向を決めるものから、米国の大統領府、あるいは日本の総理官邸のようなただの官僚機構に変わったと言える。中国は昔のソ連にならって「政党国家制」、つまり共産党=国家・政府なので、これでもかまわない。むしろ中央集権性を強化して、近代国民国家としての機動力を高めた、あるいは高めようとしている、とでも言えようか。

 人民解放軍を差配する共産党中央軍事委においては昨年の秋、委員の人数を11人から7人に削減すると同時に、習近平の息のかかった軍人で固めた。更に、人民解放軍と並ぶ武力を持つ武装警察は1月、公安省の管轄から完全に外れて党中央軍事委のみの支配下、つまり習近平の直接指揮の下に置かれた。これも、大統領が軍の総司令官である米国、総理が自衛隊の最高司令官である日本と同じことで、習近平の独裁強化と言うよりは、近代国家としての実を整えたものと評するべきだろう。

 問題は、その最高権力者が民主的手続きで選ばれた者ではなく、選挙で交代し得る仕組みになっていないことだろう。その意味では現代の中国は、近代国家の仕組みを都合よくつまみ食いした共産党独裁体制なのである。

 人間は、その得意の絶頂で高転びしやすい。油断して、ものごとを強引に進めるので、諸方での反発が陰にこもってマグマのように爆発しやすくなるからだ。後継者候補の一人と目されていた政治局員の孫政才・前重慶市党委員会書記は昨年7月、汚職の容疑で拘束されたし、胡春華・広東省党委書記、陳敏爾・重慶市党委書記も政治局常務委員への昇格を果たせずにいる。

他方、習近平が狙っていると目される任期の延長(共和国主席は憲法で三選を禁じられている)については、昨年秋の党大会でも、1月の2中全会でも決まったという報道がない。2中全会で結論が出なかったのに、3月の全人代で憲法を強引に改正、三選を可能にするというやり方は、危ないだろう。あるいはこの問題は、李克強首相の処遇もからんだ大きな取引の一部になっていて、これだけでは結論が出せないのかもしれない。
 
経済オンチ・政治万能主義

もう一つ、国際的にもっと懸念されるのは、習近平一派の経済についての理解が大時代的と言うか、共産主義的と言うか、要するに経済オンチであることだ。人民のために金持ちや企業を絞りたてる、国内の市場は保護する一方、海外では自由貿易を標榜して中国からの輸出を確保する等々、経済の活力を殺ぐことおびただしいのである。

その中で、中国で操業する外国企業は、どんどん毟られ、規制され、まるで中国の国営企業であるかのような境遇におとしめられることになるだろう。国営企業では270頁を越える「国有企業党組織工作手冊」が配られて、幹部たちは週に何度も勉強会への出席を強いられている(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54088 近藤大介筆)。

筆者が勤務していたカリモフ大統領時代のウズベキスタンは、「市場経済」に移行したことになっていたが、外国企業はその生産量、輸出量などにウズベク政府から「目標」を課され、利益の海外への送金もままならなかった。中国の場合も、外国企業への締め付けを強め、その結果外国企業の利益は縮小していくだろう。そのあげく撤退でも考えようものなら、合弁相手の中国企業、あるいは別の国営企業に安価に接収されてしまうかもしれない。

 トランプ政権が中国に、貿易上の厳しい「制裁」を考えていることも、中国経済の先行きにとって大きな不安材料である。中国はこれを避けるために、米国製品の輸入拡大を約束したり、大統領の娘イヴァンカの手がけるブランド品の商標登録に便宜をはかったり、北朝鮮への制裁を強化したり、あらゆるゴマすり、ごまかしを仕掛けたにもかかわらず、トランプは「制裁」をしてくるのである。その「制裁」は、中国からの輸入の制限、そして米国の知財を盗用する中国の企業に巨額の罰金を科し、払わなければ米国でのビジネスを禁止すること等を含むだろう。
 
ココムの復活?

更に中国製造業の将来にとって懸念されるのは、トランプ政権が対中・対ロの技術輸出を大幅に規制してくる可能性である。冷戦時代には「ココム」(Coordinating Committee for Multilateral Export Controlsの略)という取り決めが西側・日本諸国の間にあって、金属を完璧に研磨する工作機械や、高速コンピューターの対共産圏輸出を規制していた。本部はパリにあって、禁輸リストは定期的に見直された。日本はそれを輸出貿易管理令に引き写し、詳細なリストを掲げて、このリストに入っている製品の対共産圏輸出においては通産大臣(当時)の許可取得を義務づけたのである。

こうして、例えば金属研磨技術の輸入を制限されたソ連は、ジェット・エンジンのタービンの羽根を研磨することが十分できず、そのためソ連製飛行機のエンジンは出力が低く、寿命が短いと言われていた。コンピューター輸出も制限されていたので、ソ連は核爆弾の爆発シミュレーションや、ミサイルの飛行シミュレーションなどで、大いに困ったことだろう。

冷戦後、ココムは廃止されたが、それはテロ対策を看板に掲げ、ロシアもメンバーとする「通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント」と名を変えて、今でも実質的に機能している。このため生産財を中心に、多くの先端技術製品の対中輸出はコントロールされている。

日本の輸出貿易管理令の別表の規定は、細かい。例えば
――工作機械(金属、セラミック又は複合材料を加工することができるものに限る。)であって、輪郭制御をすることができる軸数が2以上の電子制御装置を取り付けることができるもののうち、次のイからニまでのいずれかに該当するもの(ホに該当するものを除く。)

イ 旋削をすることができる工作機械であって、次の(一)及び(二)に該当するもの((三)に該当するものを除く。)
(一)国際標準化機構が定めた規格(以下「国際規格」という。)ISO230/2(1988)で定める測定方法により直線軸の全長について測定したときの位置決め精度が 0.006ミリメートル未満のもの
(二)直径が 35 ミリメートルを超えるものを加工することができるもの」――
という具合。

トランプ政権は中国、ロシアを名指しして禁輸品目の幅を広げてくるかもしれない。今の米国は、そのために面倒な多国間合意を結ぼうとはしないだろう。「米国の措置に反して先端製品を中国に輸出した外国企業には、米国での取り引きを禁ずる」ということにしておけば、国際法に違反することなしに、世界を米国の意向に従わせることができるのだ。
 
中国共産党は、この20年余の経済躍進にどっぷりつかり、これを当然視して、大国意識に浸っているが、中国経済は自律的な成長能力にまだ欠ける。基本的には2000年代、年間20兆円は超える貿易黒字と外国からの直接投資で「離陸」して、このカネを国内の驚異的なインフラ建設で回して高度成長を演出してきただけ。富の源である製造業を自力でこれからも発展させる力はまだついていない。

 以上の要因が表面化してくると、中国の経済成長は低下し、元のレートも低下して国内のインフレを激化させるだろう。それは、よく言われる「中国経済崩壊」にはならないかもしれないが、ソ連崩壊前後のロシアでGDPが半分近くに縮小し(正確な数字は存在しない。生活感覚では10分の1程度に縮小した)、2年間で6000%のインフレで財産が蒸発し、犯罪が蔓延したようなことは起こり得る

中国はロシアの原油・天然ガスのように最低所得を保証してくれる資源を持たないので、経済が回らなくなった時の被害はそれだけ大きい。ソ連崩壊直後のロシアと違って、餓死者も出るかもしれない。その時、中国は計画経済、配給制に大きく回帰することになるだろう。
 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/3615