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2017年9月20日

米海軍のイージス艦はなぜ簡単に衝突するのか

1月以来、アジア太平洋海域での米海軍艦船の事故が既に4度に及んでいる。座礁が1回、海上衝突が3回である。あまり衝突して西太平洋が手薄になり、米軍は急遽西海岸からイージス艦を急派する。

なぜかくも簡単に衝突するのか。それについて9月1日、海軍軍人のDaniel G. Straubと国際政治・軍事専門家のPatrick M. Croninが、War on the Rocksという変わった名前のサイトに一文を発表しているhttps://warontherocks.com/2017/09/course-correction-the-navy-needs-to-invest-in-people-not-just-platforms/
事故増加の原因は近年任務が増える一方である反面、艦船数、及び一隻あたりの乗員の数が削減されたことのしわ寄せが、訓練時間の不足、操船能力の低下をもたらしていることにあるとしている。

この2人が書いたのは、次のようなことだ。

・太平洋での事故が相次いでいる。1月31日には横須賀沖で巡洋艦が座礁。5月9日には別の巡洋艦が韓国沖で漁船と衝突(注:白昼。米巡洋艦が漁船を発見して無線で警告するも、漁船は無線を装備しておらず。但し衝突は軽微)、6月17日には駆逐艦が伊豆半島沖で商船と衝突(注:深夜)、8月21日には別の駆逐艦がマラッカ海峡でタンカーと衝突している(注:深夜)。

・事故が相次ぐ背景としては、
1)近年、予算が増加しない中で艦艇数が減少、他方任務は増加していることが、訓練に割ける時間を減らしている。

2)先端技術が導入され、自動化が進めば進むほど、皮肉なことにそれを扱う人間には高水準のスキルが要請されるようになっている。また乗員は、技術が故障した時、例えば天体観測で位置を測定する古来の手法も心得ていないといけない。

3)いくら技術が進んでも、闇夜の航海では僅かの灯火を洋上に目視することが、衝突を避ける上で決定的に重要な意味を持つ。レーダー、コンピューターはそうした役割を果たせない。

・今回事故が相次いでいることで、敵勢力がサイバー戦をしかけて米軍艦の操縦を狂わせたのではないかとか、GPS電波を妨害して位置測定を誤らせたのではないかとの憶測も行われたが、そのようなことが行われたとの証拠はない。

・Spencer海軍長官は、2011年のBudget Control Act(注:2013年以来の国防予算大幅削減の引き金を引いた決定)以来の国防予算削減が要員訓練を難しくしていることを指摘している。
現在、艦艇数が減少しているにも関わらず、常に100隻の米軍艦が世界で活動している。またアジア重視(rebalance to the Asia Pacific)の政策は続けられており、マティス国防長官は海軍艦艇の60%が太平洋軍の指揮下に置かれていることの重要性を強調している。他方、この数年、艦艇乗員の数は削減されてきた
これらのことが、海軍軍人一人当たりの負担を増やしており、最近の会計検査院報告書が指摘する"ship-personnel mismatch"の問題を引き起こしている。艦艇乗組員は毎週平均108時間の勤務を強いられ、睡眠時間も十分取れない。訓練時間がしわ寄せを受けている。

・海軍はこれからの数年で艦艇数を30%増やして355隻体制を築こうとしているが、そのためには乗組員を何千人も増やさないといけない。現在の予算案は、その点が不足している。

(あとは、河東の考えたこと)
以上、ちょっと信じられないが、目視人員の不足、乗組員の過労が衝突の原因であるらしい。つまり、イージス艦を倒すにはミサイルはいらない。夜燈火を消して近づけば、気づかれないのである。イージス艦は遠いところを飛んでくる敵ミサイルは見えても、足元は見えないようだ。

まるで昔、ソ連兵がドイツの戦車にウォトカの瓶を投げつけたらあえなく発火した場面が映画にあったが(おそらく出鱈目。ウォトカでもそこまでアルコール度は高くないし、それにロシア人はそんなことにウォトカを使わず、まず飲んでしまうだろう)、それと同じようなことだ。

北朝鮮の核・ミサイル開発について見られるように、危機に際して米国が軍事行動を取らない例がこれから続いてくると(南シナ海、台湾についてそうなる可能性がある)、米軍について削減論が出てくる可能性がある。この論説も言及している海軍艦艇30%増加は、オバマ政権末期に定められたものであり、もともと内向きである上に、何事もオバマの逆を張ろうとするトランプがこれを維持しているのは不思議である。

米国のイージス艦は、向かってくる敵ミサイルを同時に10発以上、撃破する能力を持つが、これは空母護衛では有効でも、個別に行動する場合、あるいは海上戦を行う場合には無用の能力となる。

西太平洋での米海軍の編制、戦法は、防御対象がソ連の爆撃機から中国の巡航ミサイル、弾道ミサイルになったことで、大きく変わる時期を迎えている。米空母の護衛にも使えるようになっている日本の海上自衛隊も、編制、装備を大きく変えるべき時だろう。
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