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世界はこう変わる

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2017年8月17日

トランプ大統領の側近、スティーブ・バノン首席戦略補佐官の人となり

(これは、7月26日に刊行したメルマガ「文明の万華鏡」63号の一部です。これを書いた後、現在米国で「白人至上主義」者達の示威行動が社会の非難を浴びています。バノン補佐官は「白人至上主義」そのものではないにしても、それに近い思想を持ち、トランプ大統領の最近の発言を操っているとの非難を浴びています)

社会が変わってきているのは日本だけではない。米国もそうだし、トランプ現象はその変化をベースとしている。変化と言うか、トランプ政権は米国社会のうち、ワシントンに巣食う政治エリートとは全く別の層をかき集めている点でユニークだ。何事も早合点、何かというとすぐ手が出るトランプ、どこか腐臭の漂う、表情が不思議にのっぺらぼうのクシュナー・イヴァンカ夫妻等、普通の日本人が知らないタイプのアメリカ人。そしてその中で、トランプ大統領の政策を癖の強い方向に引っ張っている感のあるSteve Bannon首席戦略補佐官は、ダース・ベイダーそっくりで不気味な感じ。彼を見ていると、内に秘められた「恨」を感ずる。

彼がイスラム過激主義を敵視しているのは知られているが、中国、ロシア、EU、日本などについて何をどうしようとしているのかは、全然わからない(注:その後、彼は中国を政治的にも経済的にも米国にとっての最大の脅威と見ていることが、その発言からわかってきました)。そこで今回、インターネットやYoutubeで調べてみた。

その結果、今持っている印象は、彼自身かなり感覚的なところがあって、ものごとを体系的な戦略に練り上げるようなタイプではないのだろうということ。彼について言われている「無政府主義者」だとか「政府を意図的に破壊しようとしている」などの批判も、いったい彼のどういう発言、行動を指して言っているのかわからないところがある。バノン本人に実は実体がないので、彼に対する批判もバブルのように実体がないものなのかもしれない。

彼は「しっかりした歴史観」を持っているとも言われるが、それはWilliam StraussとNeil Howeが1990年代唱えた、単純で非科学的な時代サイクル論なのだ。それによれば、歴史は80ー100年の周期で20年ずつのhighs,awakenings,unravelings, crisesを繰り返す。米国独立、南北戦争、ニュー・ディール、第2次世界大戦といった具合。そして今はcrisesのサイクルにあって、冬の季節に向かっている。2008年金融危機はその前触れなのだそうだ。そして、2008年金融危機は金持ちにとっては悪いものでなかったが、その他の者は資本主義の荒波に放り出された――という具合。これでは、きちんとした戦略は出てこないだろう。

バノンは1953年、海軍軍港のあるVirginia州Norfolkで生まれ、近辺で育っている。家は彼自身の言葉によると、「(父は電気工)ブルー・カラーで、アイルランド系のカトリック(それも、ラテン語を使うTridentineカトリックという)。労組支持の民主党支持」ということで、典型的な「ヒルビリー」なのである。つまり感情的で喧嘩早く、家庭内でも暴力を振るいがち。

ヴァージニア工科大学卒業の後は航海士等として太平洋、ペルシャ湾等で海軍勤務をしているし、国防総省での勤務経験もある。そして娘Maureen(彼自身は3回離婚して、3人の娘をもうけている)はウェストポイントの陸軍士官学校を卒業して、空挺軍の大尉だというから、海外からの撤退派ではないだろう。

他方、バノンは宗教にも関心が強く、海軍では余暇に世界の宗教を勉強して、座禅も実行したのだそうだ。

国防総省からハーバードのビジネス・スクールに入って、MBAを取る。ゴールドマン・サックスの企業説明会で、歳を食った自分は駄目だと思って、テントの外でふてくされて酒を飲んでいたところ、偶然社長の息子と親しくなり、そのとりなしでゴールドマン・サックスで数年を過ごす。そこで担当したのは、当時のM&Aブームの中で、どうやって企業を敵対買収から防御するかのアドバイス。そこで、顧客軽視のマネー・ゲームには批判的となる。そして同時に一つの教訓を学ぶ。それは、「真っ先に何かをやろうとしない」ということなのだそうだ。マネー・ゲームでは、先頭に立つ者が弾を浴びやすい。この教訓を彼が今でも守っているなら、極端なことを言っていても、それをしゃにむに主張するにはけっこう慎重かもしれない。

彼は保護主義者だと言われるが、実際はモノづくりを基礎とする資本主義を信奉し、それを実現するために保護が必要だと思っているようだ。その底には、「米国は単なる経済単位ではなく、a nation with a culture。資本主義はユダヤ教、キリスト教に基礎を置かないといけない」という信念がある。モノづくりを基礎とする勤勉とか、accountabilityといった価値観のことだろう。もっとも、「カモシカを倒すライオン。大地に咲く花」が米国のイメージだ、とも言っているが。

彼の性格、主義主張については、様々のことが言われる。一つには「人種差別主義者」だ、というのがある。しかし彼のハリウッド時代(ゴールドマン・サックスから映画ビジネスに転向。一時シナリオを書いていた)の同僚でシナリオ・ライター(リベラル)のJulia Jonesの述懐では、「彼はアナキストや人種差別主義者ではない」。ただ同性愛者を嫌うそうだ。

同じくJones女史の説明では、海軍での経験からか、彼には「義務」というものへの強い気持ちがあり、それをインド哲学のダルマ(運命、業)という言葉で表現していた。そして9・11事件のあと、彼は政治に傾き、ナショナリストになってしまった。

彼はよく無政府主義者、アナキストだと言われる。現在、国務省や国防省の幹部ポストの多くが空席なのも、政府を破壊するというバノンの陰謀によるものだと言う者もいる。しかしそうではないだろう。アナキストは権力からの自由を唱えるが、バノンは権力による絶対的な支配をめざす。ただ既存のエリートに対する不信感は強い。ペルシャ湾で海軍勤務の際は、1980年のイラン人質救出作戦準備に携わり、そのずさんさにカーター大統領への強い不信感を抱き、もともと民主党支持だったのが、後にレーガン支持に転じている。ところが2008年リーマン危機ではアジアでのビジネスを台無しにされ(詳細不明)、当時のブッシュ大統領ジュニアにも強い不信を抱いた。

その後彼はGovernment Accountability Instituteなるものを設立、要人の不正を暴露し始めた。その中では、Peter Schweizerの"Clinton Cash: The Untold Story of How and Why Foreign Government and Businesses Helped Make Bill and Hillary Rich"がヒラリー・クリントン大統領候補に大きなダメージを与えたが、共和党のジェブ・ブッシュ大統領候補についても、"Bush Bucks: How Public Service and Corporations Helped Make Jeb Rich"を出している。このあたり、要人の不正暴露で名を上げている、ロシアのブロガー、ナワルヌイを思わせて面白い。

バノンは経済面でも、エリートに批判的だ。彼はclass of regulatorsが政府を簒奪し、自身の利益や、crony-capitalist alliesの利益に奉仕していると考える。だから彼はアナキストではない。政府をなくすのではなく、政府を大掃除することを考えているのだ。

バノンはまた反ユダヤだとも言われる。しかし、反ユダヤと言うより、反イスラエルなのではないか? ジャーナリストとしての彼の右腕であるJulia Hahnはユダヤ系だが、彼女自身がバノンは反ユダヤではないと言っている。多分、米国の力を過度に吸い取るものとして、イスラエルに反感を持っているのかもしれないが、そこは筆者はまだ検証していない。反イスラエルであっても、そこはトランプの娘婿クシュナー(ユダヤ系で親イスラエル)とはぶつかる。

彼は、右翼のミニコミ、Breitbart(そのミニコミを立ち上げた人物の名前。彼が急死したので、友人のバノンが運営を引き受けた)で論陣を張っていたが、そこでの座右の銘は、「ニュースはストーリー(narrative)が勝負。視聴者は事実など求めていない。ドラマだ。わかりやすい筋だ」。こういうマスコミは他にも沢山あるが、民主主義の敵だ。

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