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世界はこう変わる

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2017年8月 2日

トランプ半年 世界は まだ ひっくり返っていない

(これは、今発売中の雑誌「インテリジェンス・レポート」(総合政策研究所)8月号に掲載された論文の原稿です)

 トランプ政権が発足して半年経った。普通なら、新政権は政府の陣容もほぼ揃え、主要な国際問題に対する姿勢を定めて、政策をそろそろ展開し始める頃。ところがトランプ政権は、各省の幹部クラスは空席だらけ、「陣容」さえ揃っていない。
トランプは既に欧州、中東と外遊を開始したが、これまでの経緯、複雑な利害関係を知らないので、方々で無用の問題を引き起こす。
 これはいったい、どういうことなのだろう? 米国はもうすっかり内向きになり、トランプは戦後の世界体制を引っ繰り返すつもりなのか? いや、そうではあるまい。米国社会にはもともと内向きの潮流が強いのだし、トランプには世界体制についての明確な理解も戦略も、そして多分関心もない。

トランプが代表する「ヒルビリー」

 この一年、米国では「ヒルビリー・エレジー」(J.D.ヴァンス、日本では光文社から)という本が評判になっている。ヒルビリーとは米国東部の内陸部、炭坑・重工業地帯に代々住んできた白人労働者層(アイルランド系が多い)のことを言う。米国の産業が空洞化してきた中で苦しんだ彼らは、普段は民主党支持なのだが、時として共和党候補を支持する。そうなると彼らは、勢力が拮抗する共和党、民主党の間のバランスを共和党に傾けてしまう。彼らの支持を初めて得て当選できた共和党候補はレーガンなのだが、トランプもその系譜にいる。

そして見ていると、トランプの言動は意図してなのか、地なのかはわからないが、このヒルビリーそのものなのである。つまりろくにものごとを確かめもせず、常在酒場ののりで自分の思い込みを声高に主張する。「誰々をやっつければこの世界は良くなる」と叫んでは喝采を取る(現在のところ、トランプを批判するワシントン政界とマスコミが、この「誰々」に相当する)。

これは批判と言うより、品の悪い悪態でしかない。何をどうこうしようという政策ではない。そうやって喧嘩早い一方では、旗色が悪くなると隠れたり、平気でうそをつく。生活が厳しくなったのは何か不正なことをしている者がいるからだとして、自らを改めようとはしない。日本の企業が米国に投資して100万人も雇っていることを知らずに、日本の対米輸出だけを批判し、TPPから脱退してみたり、パリ協定から脱退して国内の再生可能エネルギー開発を阻害したり、移民を制限してインド人ITエンジニアの不足を招いたりといった、ちぐはぐが目立つ。

トランプは大方の予想を覆して大統領に当選した。当時、彼の周りにいたのは「選挙屋」ばかりで、ワシントンで政策形成に携わる者達の多くは、トランプ批判の立場を公けにしていた。普通、大統領に当選した者は、就任前から政策形成チームを作り、前政権から詳しいブリーフィングも受けて、新たな政策を作っていく。しかしトランプの下で働こうとする者は少なかったし、トランプ陣営自身、トランプ批判をしていた人材を拒否したので、国務省、国防省をはじめ今でも次官補(局長級)クラス以上の多くが空席になっている。こうして現在のトランプ政権は発足後半年もたつのに、政策を推進するより、相変わらず選挙モードで、その場限りの人気取りばかりやっているのである。

そしてトランプは実業家だから経済を良く知っていると言われるが、彼は不動産業しか知らない人物である。不動産業はものをできるだけ安く手に入れ、できるだけ高く売りつけるという一時しかない。これを外交に引きうつすと、同盟関係とか自由・民主主義の価値観などは二義的で、米国が一番儲けることに主眼がいく。そして不動産業では、すべてのことを社長が直接決めるので、社員はそれほど要らない。大企業、あるいは政府のような大型組織を動かした経験は彼にはない。

そしてトランプを取り巻く少人数の側近が機能すればまだしも、分裂していることが、政策の麻痺に拍車をかける。この半年、トランプから最も信頼を得てきた娘婿で大統領上級顧問のジャレッド・クシュネルは、外交では同盟国重視で穏健な立場を持しているが、大統領選挙戦を率いた功績で首席戦略官となったスティーブン・バノンは右翼系メディア出身で、利己的な「米国ファースト」路線をかつぐ。

そして大統領の補佐官を務める娘イヴァンカも、その夫のクシュネルも、一見賢明で穏健な政策をトランプに建言しているようで、実際にはどこまで国益のために動いているのか、どこからが自分の利益のためなのか、よくわからない。双方とも自分のビジネスを持っているのである。そしてトランプの息子たちは公職についていないと言っても、父親から一時預かった形の事業で親=大統領の七光りを利用しているのは問題である。

議会も共和党が折角多数議席を取ったのに、トランプの都合の良いようには中々動かない。トランプは元々民主党員で、既に述べたように白人貧困層の票をバックに当選したので、エスタブリッシュメントを支持層とする共和党本流とはかみ合わないのである。

そして民主党は、「ロシア・コネクション」等、問題点を次々に暴くことで、トランプ政権を麻痺させ、2019年中間選挙での共和党の得票を減らそうとの作戦に出ている。共和党も、「茶会」派系議員―大石油企業家で「小さな政府」を掲げるKoch兄弟が主宰―は、トランプの軍備拡張、あるいは海外への軍隊派遣には後ろ向きだろう。

こういう次第で、トランプ政権下では何も決まらない。大統領令を次から次に出しているように見えても、大統領令は予算的裏付けを持たない(米国の政府予算は、政府案通りには決まらない)ので、意図表明だけに終わることが多い。

そして何事も原則より取り引きを重視するために、外交方針の大元がころりと変わることが多い。それは対中、対台湾関係で端的に現れた。トランプは大統領就任前の昨年12月には、タブーを破って台湾の蔡英文総裁と電話会談し、中国を慌てさせたが、4月習近平国家主席を迎えたトランプは北朝鮮の核開発抑制で中国の力を借りるべく、それをあっさりと引っ繰り返して、中国との友好・協力関係を前面に打ち出した。ところが、北朝鮮はその後もミサイル発射をやめず、中国の圧力が十分でないと見たトランプは、それまで抑えていた台湾への先端兵器売却を再開。台湾を中国との取り引きの具とする姿勢を如実に見せつけた。

更にトランプ政権の打ち出す政策は、問題の全容を十分把握することなく、炭坑労働者等、国内の一部の支持層の喝采のみを狙っていることが多い。外交よりも、まだ選挙戦を戦っている気分でいる。環境問題についてのパリ協定からの離脱では、再生可能エネルギー関連業界の利益を害することになるし、欧州の同盟諸国も離反させた。5月下旬の中東訪問ではサウジ・アラビア、イスラエルに過度に肩入れして、直後のカタール(米軍が中東訪問の司令部を置いている)と湾岸諸国の断交を生んだ。シリアではISISを叩いたのはいいが、それによって皮肉にも、アサド政府、イラン、ロシアの支配を確立してしまった格好となった。そして北朝鮮の核・ミサイル開発問題では、おそらく韓国の反対(ソウルなどを報復攻撃されることを恐れていよう)に縛られて軍事行動を控えたことが、かえって米国の無策ぶりを際立たせることとなり、韓国の中立化、あるいは北朝鮮・中国への接近を促すこととなろう。

また貿易問題については、米国製造業の海外流出、あるいは外国製造業の対米輸出を声高に批判するだけで何も解決していない。トランプはTPPなどの多国間自由貿易より、米国の大きな輸入力をたてに二国間交渉でより多くの譲歩を勝ち取ろうとしているが、目下のところこの面で具体的な進展は見られない。

米国では、新しい大統領は前の大統領の政策を批判して当選する場合が多いので、当選すると前大統領の政策を修正することから始めることが多い。オバマも、アフガニスタン、イラクからの撤退が最初の大仕事であった。しかしトランプの場合、度が過ぎている。見境なくオバマ色を消している感があり、外交ではそれは、ウクライナ情勢への関与後退、キューバとの国交回復の一部見直しに現れている。

トランプは「米国を再び偉大に」すると称して、大統領に選ばれた。しかし今のところ、米国はかえって小さくなった。またトランプは米国、世界を自ら動かすより、今の米国、今の世界にそのまま乗って人気取りの演技をするのに終始しているために、「米国の大統領」の権威そのものが矮小化、相対化した。つまり米国の政治・経済は企業、議会、軍、官僚などが動かしていく。トランプはその傍らで、あれこれ評論しているだけなのだ。まるで、実権のない、国家の「象徴」と化したかのように。

こうしてトランプ政権半年の世界では、「世界秩序のメルト・ダウン」が囁かれる。しかし考えてみれば、海外派兵を極度に避けたオバマ政権の時代にもウクライナ、シリア、リビア、ISIS等、「世界大乱」状況を指摘する向きは多かった。トランプは、オバマとは正反対の政策を取ろうとして、これもまた世界の不安定化を引き起こしているのである。

なぜ世界はこれでも壊れないのか
―「何をやるかわからないトランプ」が抑止力になる皮肉―

この多極化した世界、あるいは無極化した世界はいつ乱世になっても不思議でない。しかし北朝鮮、フィリピンのテロ、イランをめぐる緊張の激化などが、本格的な乱世をもたらす気配は今のところない。それはなぜかと考えるに、有力諸国、そして諸勢力が米国に気兼ねして、好き勝手なことをやるのを控えていることが一つある。

中でも中ロは、米の軍事力を恐れている。オバマ時代は、米国が海外での軍事行動を忌避していることがあまりにも明白であったために、ロシアはウクライナとシリア、中国は南シナ海で傍若無人の行動を取ることができたが、トランプの行動は読めない。トランプが原則より取引と感情で動く(しかも核ボタンを握っている!)人物であることが、抑止力として作用する、皮肉な状況になっている。

そして中国、ロシアとも、国内政治上大きなイベントを間近に控えているので、海外で力試しをされる羽目になって、失敗した結果、失点を稼ぐリスクを冒したくない。中国は秋に、5年に一度の共産党党大会を控えている。ここでは習近平による地盤の最終的固めと―李克強首相は更迭されるかもしれない―、「習近平後」への準備が主要な課題となっている。反習近平派に、対米、あるいは対日姿勢が軟弱だと批判されかねないような事態の発生はできるだけ避けたい。

ロシアの力は近年、過大評価されている。それはクリミアの併合、シリアの爆撃以来顕著になったし、現在トランプ批判の材料として「米大統領選にロシアが介入した」ことが既成事実として独り歩きし、ロシアの力をことさら大きく見せていることも一つの要因となっている。

しかしロシアの経済は原油輸出に依存する性質を脱却することができておらず、現在のGDPは韓国以下なのだ。軍隊は100万人程度だが(中国は約200万人)、そのうち実戦に投入できる者は半分もいない。クリミア併合は、プーチンに言わせれば、ウクライナ政権を転覆した米国からクリミアのロシア海軍基地を守るための自衛措置だったし、シリア爆撃は準同盟国シリアのアサド政権を守るための行動で、いずれも領土拡張意欲の結果ではない。ロシア世論はクリミア併合で沸いたが、それも今では収まって生活第一に戻っているので、来年3月の大統領選挙では経済・生活が主要なテーマとなる気配である。だから構造的不況に陥っているロシア経済を何とか活性化すること―それはおそらく不可能なのだが―、これがプーチンとその取り巻きの最大の関心対象となっている。

そして、米中ロシアの間の関係が小康状態であるもう一つの要因は、米国が「しかけ」ていないからだろう。オバマ政権は海外での武力介入は避けたが、旧社会主義諸国、途上国の野党勢力への支援は続けた。これら勢力は世論をあおっては大規模集会を組織、それによってウクライナやアラブ諸国で時には政府を倒す「レジーム・チェンジ」を実現し、ロシア、中国の指導部に警戒心を抱かせた。これがあったために、中ロは提携を強めるとともに、ことあるごとに米国と張り合うような発言を繰り返して、2008年世界金融危機後の米国の後退をことさらに印象づけることになったのである。

(米欧離間は起きていない)

英国のメイ首相やドイツのメルケル首相は、トランプの中東移民制限措置等をおおっぴらに批判して来たし、トランプもEU離脱を主張するフランスのル・ペン大統領候補への支持を公にしていた。そして5月末のNATO首脳会議、続くG7先進国首脳会議で環境、貿易、そして防衛負担の問題でトランプと言い争ったドイツのメルケル首相がその直後、「米国に依存する時代はある意味で終わった」と公言したことが、米欧離間の印象をいっそう強めた。しかし、メルケルは「米国に完全(・・)に(・)依存する時代は終わった」と言ったのであり、その狙いは米欧離間とは逆で、米国がオバマ時代からNATOの欧州側諸国に求めてきた防衛予算の増加(GDPの2%を当面の目標)をドイツ国民に呑ませること等にある。

英国がEUから脱退する運びになっているために、独仏は英国軍がなくともEUの軍事協力が成立するように、これを梃子入れしようとしている。しかし、EUは日本と同じく、米軍を除外しての「完全自主防衛」体制をめざすだけの財政的・人員的余裕はないだろう。つまりNATO=米欧軍事同盟は揺るがないのである。

(米国というシステムの根強さ)

戦後の米国を核とする世界体制を支える装置はいくつもあって、いずれも力を維持している。まず米国という国家(制度、システム、モラル)の根強さが最大の要素だろう。現在のように大統領権力が空洞化しても、議会が税制・予算を審議、採択すれば、政府も軍も機能する。予算以外の経済面では、FRBが強い独立性をもって、金融を調節し、雇用を維持している。そしてそのFRBは、2008年世界金融危機ではIMFの能力をはるかに上回るドル資金を各国通貨当局に融通して、世界経済の回転が止まるのを防いだのである。

そして既に述べたとおり、世界全体の実に40%相当の国防費を費消する米軍は、中ロの追随を許さない武器体系を有し、世界中に基地を展開、敏捷な機動能力を保持している。徴兵制を取っていないにもかかわらず、将校クラスが「家業」化の様相を強め、エリート階級化しつつあることから、海外での作戦にも抵抗が少ない。そして諜報・公安関係の機関は、2001年集団テロ以降、ますますその活動を充実させている。

世界三大紛争地域でのトランプ米国

世界には、米国が主要な関心をはらっている地域が三つある。一つはロシアと対峙する欧州、一つは原油、そしてユダヤ・ロビーの利害がからむ中東、そしてもう一つは東アジアである。

まず東アジアでは、トランプ米国はこれから政策をどう展開していくだろう。東アジアの情勢は米中関係を軸に動く。米中は今のところ、無用な対立を避け(中国は秋に共産党大会を控えているので、特に問題を避けたがっていよう)、双方とも経済的利益は収めつつ、北朝鮮問題、台湾問題などについては微妙な駆け引きを続けていくだろう。

米国は、北朝鮮の核ミサイルが米本土に届く性能を獲得しようとしているのに、韓国や日本が北朝鮮から報復攻撃を食らうのを慮って武力行使ができない。米国にできることは、北朝鮮との直接の交渉に応じて、北朝鮮の現政権を認める代わりに核開発にブレーキをかけるか、中国の対北朝鮮圧力行使で北朝鮮の核開発を止めるか、どちらかかの選択肢しかないが、いずれの場合も北朝鮮の核開発を止めることはできず、最終的には朝鮮半島から「押し出される」ことになりかねない。そして中国は南シナ海の人工島の守りを着々と固め、トランプ周辺を懐柔して米軍の手を縛る。

他方、台湾では民進党政権に中国が強硬に圧力をかける姿勢を崩さない中、台湾の世論も「独立」に向けて強硬化しつつあるようだ。台湾をめぐって米中が軍事的威嚇をし合う局面が訪れるかもしれない

中東は、いくつもの火種を持つ。シーア派のイランがイラク、シリア、レバノン等に勢力を広げ、これにスンニ派のサウジ・アラビアが強く反発している。イラク、シリアでのISIS勢力掃討が成功すれば、その空洞にイランのシーア派勢力が入り込むのを防ぐため、サウジ・アラビアは現地スンニ派の反政府勢力を再度テコ入れするかもしれず、またそれに米軍を引き入れようともするだろう。米軍は既にシリア南部に基地を持っており、4月頃からはシリア反政府派を攻める政府軍を武力で牽制している。それは、シリア政府を支えるロシアから、反発を引き出している。米ロは2月に両国軍参謀長が会って以来、シリアでの行動を通報し合っているが、偶発衝突の危険性が増大しているのである。

またイスラエルのネタニヤフ首相はトランプとその側近に緊密な関係を持っているので、パレスチナ、そしてイランを抑え込む好機だと見ている。イスラエルは、サウジ・アラビアのサルマン新皇太子(31歳と若く、遊牧民族特有の向う見ず、かつ自己過信の傾向を持つ。極端なイラン嫌い)と手を結んで、イランに対する性急な挙に出る可能性もある。1981年、イスラエル空軍機はイラクの原子炉をその完成直前に破壊したことがある。
中東諸国間のこのような複雑な絡まり合いを理解していないトランプは、軽率な発言や政策で中東情勢をさらに悪化させる可能性がある。これにサウジのサルマン新皇太子の性急さが加わって、湾岸情勢は大荒れとなり、世界の原油供給に恐慌をもたらす可能性がある。

欧州では、米欧離間は起きまい。三つの(潜在的)紛争地域の中で、欧州はいつも最も落ち着いた地域である。冷戦時代の敵国、ソ連が崩壊して弱体化したことがその基本的背景にある。いわんや、現在の欧州ではフランスでの大統領選の結果がEU瓦解傾向を止め、ギリシャ、イタリア発の金融恐慌が起こる目も摘まれて(それぞれ、債務救済等が行われた)、これからはEU再強化の方向にある。

トランプ米国とEU主要国の間ではロシア、そしてウクライナ問題についての政策のベクトル(ロシアとの関係回復については前向き。従ってウクライナ問題は棚上げということになる)は一致しているが、貿易・投資面では摩擦は高まっている。ドイツが9月には総選挙を迎えるので、米欧間の経済をめぐるやり取りは10月以降本格化しよう。これは、TPPの将来、あるいは日米間の自由貿易協定締結交渉にも関係してくる問題である。
なおトランプ米国、EU主要国とも、欧州正面でロシアと事を構える気はなく、ロシアにその実力もないのだが、9月にロシアがベラルーシで予定する共同軍事演習「ザーパド2017」では4ケ師団もが移動できるだけの鉄道貨車が確保されていることが注目される。

米国外交をめぐる見通しはこのようなものだが、経済面では、2008年のような金融危機が起きる可能性がある。この10年、米欧日で大幅な金融緩和をはかってきたことが余剰資金を生んで、不良債権の規模を増大させているのである。2008年金融危機は、諸国の経済、雇用情勢を悪化させ、ウクライナ、アラブの春、そして先進国におけるポピュリズムの台頭等「世界大乱」状況を現出させた元凶なのだが、今金融危機が繰り返されれば、どうなるか? それは「世界大乱」状況を再現出させるだろう。

それはトランプへの不信も相まって、米国支配を最終的に突き崩すものとなるだろうか? いや、むしろ逆に作用するのではあるまいか? と言うのは、中国は2008年の時のように大規模なインフラ投資で危機を乗り越えることはもはやできず、ロシアも金融危機に伴う原油価格暴落で大打撃を受けるだろうし、他方米国は、世界におけるドル資金の最後の供給者としての重要性を見せつけるだろうからである。

日本はどうする?

米国の民主党は、今無理にトランプ弾劾手続きに持ち込もうとするよりも、中間選挙や次期大統領選挙まで大統領の無能さをキャンペーンしていけば、議会多数、そして大統領職奪還がしやすいと考えている。それは、少なくともあと4年、現在のあやふやな外交が続くことを意味する。

こういう状況で、日本はどうしたらいいか? 安倍政権もふらつきを見せてきた。「安倍後2.0」はちょうど10年前の「安倍後1.0」と同じく、ポピュリズムに翻弄されるものとなり、おそらく安倍の対米政策とは180度反対の「離米」政策が無鉄砲にとられることになりかねない。

そうならないように、世論の啓発を進めていく必要がある。向米と離米の間でバランスの取れた現実的な安全保障・経済政策を取っていくのである。よく「有事に米軍は守ってくれないから日米同盟はいらない」という議論が聞かれるが、「米軍が出てくるかもしれない」と相手に思わせ、有事に至らせないーつまり「抑止力」として米軍は大きな意味を持っていることを世論に理解してもらうべきである。

他方、尖閣列島のような限定された領土を守るのに米軍に依存するのは、本当に国の恥なので、そこは自主防衛能力を強化するべきである。「自主防衛能力の強化と米軍による抑止力・核の傘の維持」が、現実的な政策であろう。

安全保障以外の分野では、「米国が内にこもる中、自由貿易、民主主義を守る責務は日本、ドイツが負うべきだ」という議論も一部に見られる。方向としては賛成できるが、日本もドイツも超大国ではなく、グローバルな責務を負うだけの力はないことを自覚するべきである。日本もドイツも自由や民主主義の価値観は、「自分のために」しっかりと保持して行けばいいのである。

米国内では、内向きの声と海外でのコミットメントを主張する声が常に争っている。経済が良くなれば、内向きの声は小さくなる。そして米国の力、モラル的な力は確固として存在している。日本はトランプ政権と協力して自分の利益、自分の価値観の保持と増進をはかっていくべきだろう。

大正12年、日本は日英同盟を停止して、米国主導多国間の「ワシントン体制」の中でバランス外交を展開しようとした。だが日中間の戦争が激化する中、ワシントン条約体制は昭和12年瓦解し、日本は米国、英国、中国を敵に回して太平洋戦争に至る。日米同盟を停止して方向感を失い、挙句の果てに四面楚歌の窮境に陥る愚行を繰り返すのはやめよう。

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