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世界はこう変わる

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2017年6月28日

近代 なるものの行き詰まり  民主主義2.0のすすめ

(これは6月20日発行のNewsweek[日本語版]に掲載された記事の原稿です)


英国の総選挙でメイ首相が失敗した。野党の労働党が弱体なうちに総選挙で勝利、EU脱退交渉に強い立場で臨もうとしたのが、完全な読み違い。国民はBrexitなどより生活のことに関心を持っているのに、選挙戦マニフェストで社会保障を縮小するようなことを言ったのが悪かった。

「大衆の叛乱」で、既存の政党、政治家はお払い箱の時代。米国ではトランプが共和党を乗っ取る形で大統領になったし、フランスでも若干39才のマクロンが大統領選で勝った後、自前の政党を急ごしらえ、11日の議会選挙で勝利を収めてしまった。

大衆が叛乱すれば、昔は革命。しかし今では失業保険や選挙でのガス抜きなどで何とかしのぐ。その代わり、政党は明日は解体、政治家は路頭に迷う危険にさらされる。選挙はこれまで民主主義の象徴とされ、社会における利益配分を最終的に決める手続きと見なされてきたが、米国では選挙の結果にクレームをつけ、これを覆そうとすることが常態化、選挙後の政治をマヒさせ、社会の分裂と対立を煽るものとなっている。政治家の多くは次の選挙でまた当選することばかり気にかけて、利権をあさり、国会審議を欠席しても地元で活動する。

そして、今ワシントンで繰り広げられている共和党と民主党の間の泥仕合などを見ると、政党が所属議員の意見を束ね、他の政党と切磋琢磨した末、多数決で政策を決めるという民主主義の原則はもう効かない、政党や政治家は公益をかえって損ねている――と思えてくる。一体どうして、こんな変なことになってしまったのか。

与党と野党のせめぎ合い、そして国会議員が市民の代表として政策を決めること――これはそれほど古い制度ではなく、17世紀後半以来、英国で100年以上かけて熟成したものだ。世界で一番古い近代民主主義国家米国でも、独立当初は党派に分かれて争うのははしたないこととされ、有力者が談合して大統領を選んだ。

それが、選挙権を持つ階層がどんどん拡大して、「普通選挙」が実現すると、「大衆」が俄然として社会の頂点に座る。大衆の票をもらえないと、政治家は路頭に迷うことになったからである。政党と政治家は金持ちや大衆から税金を巻き上げ、それで社会保障を充実させて票を稼ぐことに血道をあげるようになった。

これが近代国民国家なるものの実体で、今ではもう賞味期限。票を得るため、有権者の望むことは何でも、できないことでも、社会全体のためにはならないことでも約束するデマゴーグが既存勢力を蹴散らして権力の座に就くようになってしまった。民主主義、「近代」はもう黄昏で、ロシア・中国の専制主義体制の方が機能する――ロシア人、中国人はそう言っている。

しかし、考えてみよう。米国を揶揄する中国人、ロシア人は、実は喜んで米国に移住する輩なのだ。しかもそのロシア、中国の足元では、経済発展が人々の権利意識を向上させ、民主化への圧力が高まっている。だから問題は、民主主義自体にあるのではなく、政党や代議制民主主義という制度が時代遅れのものになってきたのではないか、別のやり方を探すべきでないか、ということにあるだろう。

権利意識を持つ「市民」が増えた現代社会で、ポピュリズムに陥るのを避けつつ、ガバナンスをどう確保するか。アイホンで常にアンケートを取っては政策を作るのも一案だが、その政策を作り運用する者は公務員として生活を保証してやらねばなるまい。しかしその公務員をどうやって選び、彼らの仕事ぶりをどう審査し、人事に反映させるのか。

万物(人間も含めて)にセンサーがつけられ、集められたビッグ・データがいろいろ分析され、トレンドが抽出されようとしているこの時代、民主主義の運営の仕方も大幅に変えていくべきだろう。民主主義2.0とでも言おうか。

日本は急いで考えないといけない。「安倍後」の日本がまた、2007年の「安倍後1.0」のような行き詰まり状況に陥らないために。日本人は世界で何かリードするのが好きだが、たまにはこうした大きなことで世界の鼻を明かしてみてはどうか。

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