Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2017年5月24日

日本をめぐる安全保障環境報告MK3 第2号 総論

軍事から見た世界主要動向 第2号
(2017年5月20日)

安全保障研究ギルド "MK3"筆 (末尾にギルドの正体あります)


この号はだいたい3月から5月初めをカバーしている。

目次
1.総括(文責:河東)

1)大国間の枠組みの変化
2)北朝鮮ミサイル
3)米中・米ロ・中ロ関係の変化
  a)米中関係
  b)米ロ関係
  c)中ロ関係
4)軍事で目立ついくつかのこと
a)米中ロとも国防予算の先行き不透明
b)米軍に追いつけないロシア、中国
c)「軍隊」の実力度
d)北方領土のロシア軍強化

ギルド発足に当たって


1.総括
3月―5月初めの出来事で、日本にとって最大のものは、北朝鮮ミサイルの脅威がリアルなものになったことで、時代は悠長な議論から具体的な対抗措置の検討を要請するものとなった。

1)大国間の枠組みの変化
北朝鮮ミサイル問題は米中、米ロ、中ロという世界の枠組みをも少し変えることとなった。例えば中国は北朝鮮問題でトランプ大統領に貸しを作り(それは5月14日、北朝鮮が再びミサイルを発射したことでほぼ帳消しになった)、それでもって貿易赤字問題を回避、「つけ」を日本、メキシコ等に押し付けてきたのである。

また中国は北朝鮮になりふりかまわぬ圧力をかけて(裏では交易を続けているとの見方は多いが)、6回目の核実験を抑止したが、このために北朝鮮と中国は一時公開の罵り合いを、見せた。さらに中国は、国連安保理でのシリア・北朝鮮問題審議で米国の立場に擦り寄り、ロシアを孤立させる(常任理事国の中でロシア1国のみ反対)局面を2度も繰り返した。プーチンはおそらく不快感を示したのだろう。4月26日習近平は最側近の栗戦書・共産党中央弁公室主任をロシアに送り、プーチンとも会談させて後者を宥めたのである(それは、クレムリンのホームページに出ている)。それでもプーチンは5月2日トランプに電話して、シリアでの実質的な協力で合意し、対中依存に陥るのを防いだ。

この経緯は、リーマン危機以来中ロが展開してきた「米国は落ち目。世界は多極化した」とのプロパガンダを自ら否定したことを意味する。中ロにとっても、本音では米国との関係が最重要なのであり、世界は米国の一極支配下にあり続けている。

ところが5月初めには、トランプ大統領がComey・FIB長官を突如解任したことで、事態は弾劾に至る可能性が増大。そうなると米外交は長くて1年ほど麻痺、世界のたがが外れて、中国、ロシアがどこまで軍事力を用いて勢力拡大をはかるかが注目される(この関連では、13頁で近藤氏が今年秋の共産党大会後、中国が台湾の武力制圧に乗り出す可能性を指摘している)。但し中国の経済は現在回復基調にあるとは言われるものの、自立成長力を欠いており、勢いを失う可能性もある。

なおトランプは国務省の予算を30%強削減することを提案している。これがそのまま議会を通るものとも思われないが、米国のODAが世界的規模で減少することは間違いなく、日本のODAの相対的価値は高まるだろう。但し途上諸国は中国のeasy money、あるいは先進国企業による直接投資に期待しているところが大きく、ODAは以前の神通力を失いつつある。

2)北朝鮮ミサイル
米韓は毎年春になると合同軍事演習を行い、これに北朝鮮が反発して情勢が緊迫するのが常である。一方北朝鮮は米国等に政権を転覆されることがなきよう、抑止手段としての原爆・長距離ミサイルの開発を一貫して行ってきており、その成果は春に「披露」されることが多い。

今年のハイライトは、「スカッドER」と見られるミサイルが、3月6日日本海の日本のEEZに3発着弾、その後5月14日にも今度は「ムスダン」改良型と見られるミサイルが高度2000キロに達した後、日本海の日本のEEZ近くに着弾したことであろう。ムスダンは射程3500キロに及ぶ中距離ミサイルで、東京にも容易に到達する。北朝鮮はミサイルに搭載する小型核弾頭を未だ開発できていないはずなので、差し迫った危険はないものの、今回ムスダンは飛行高度2000キロを達成しており、落下時の速度はマッハ10以上にもなると見られることから、日米が開発しているMDのうち最新型のSM-3BlockIA(9頁のように、2月3日初の迎撃実験に成功している)でも対処しきれない可能性がある。

これに対抗するために「諜報力を強化するとともに、発射基地を事前にたたく能力を備えよう」とする意見も見られるが(中期防に向けた自民党安保調査会の提言)、ムスダンは通常は隠蔽、発射の際も移動式なので、捕捉・撃破するのは難しい。中国の核に対してと同様、日本は北朝鮮の核に対する防護能力も欠き、北朝鮮に向けての米国の核の傘も透けてきたのである。

在韓国の米軍は北朝鮮のミサイル騒ぎに紛れて、THAAD配備用資材の搬入を開始した。THAADはTerminal High Altitude Area Defense missileの略だが、この英語が示すとおり、敵ミサイルが降下してくる段階で、現行のパトリオット・ミサイルよりも高い空域で、それも高速で捉えることのできるミサイルである。「軍事研究」誌6月号所載の軍事情報研究会筆記事では、命中精度でパトリオット等に大きく優るそうなので、韓国の文新政権がTHAAD導入に二の足を踏むようならば、これを日本に配備してもらうべきだろう。

なお、北朝鮮による中距離ミサイル開発の進展で、北東アジアでは中距離ミサイルによる相互抑止が常態となりつつある。中国はDF21等、中距離ミサイルをつとに保有しているし、ロシアも1987年の米ソINF(中距離核ミサイル)全廃条約では禁じられている、陸上発射の中距離巡航ミサイルSS-C-8(後出)を既に開発ずみで、2015年11月にはカスピ海からシリアに向けてその海上版を発射して実験済みである。北朝鮮情勢の展開次第では、これが極東ロシアに配備され、日本の米軍基地をも射程に収めることが十分考えられる。極東は、中距離核ミサイルの相互抑止の時代に入った。日本もせめて通常弾頭装備の中距離巡航ミサイルの保有等を考えるべきだろう。

3)米中・米ロ・中ロ関係の変化
  a)米中関係

4月6日の米中首脳会談は共同声明も発表されず、結論のない低調なものだった、との印象がある。しかし実態は逆かもしれない。北朝鮮ミサイルの脅威が米国にとってもリアルなものとなりつつあるのに、これを抑えるには中国に頼るしかないというジレンマに米国が直面しているからである。米軍は平壌等に攻撃を加える力は持っている。しかし金正恩の居所はわからないし、核兵器・核施設のありかもすべてはわかっていないはずだ。つまり空爆は効果を上げず、韓国、日本等への報復攻撃を招き、そこでは米軍も多大の被害を被る可能性が大。だからトランプは中国の力に期待するしかなく、そのため貿易問題は習近平が携えてきた「百日計画」で良しとし(米国牛肉の輸入解禁、米国金融機関の中国本土での操業規制を大幅緩和等)、中国を為替操作国に指定して関税を引き上げるのを控えるとともに、5月4日の貿易統計発表に当たってはロス商務長官が中国を差し置いて日本、メキシコのみに言及、「米国はこの赤字に耐えることはできない」と言明したのである。これまで政治的、あるいは経済的理由で中国を敵対視してきたバノン首席戦略官、ナバロ前国家通商会議議長はその力を大きく殺がれており、この面からも米中関係の潮目はほぼ完全に逆転した。

中国の崔天凱・在米大使は、大統領の娘婿で大統領上級顧問のクシュネルに食い込み、今回共同声明の起草までしたと報道されており、未だ次官補クラス以上は空席だらけの国務省は米中関係に関与しきれずにいるものと思われる。但しクシュネル、及びその周辺と中国資本の絡み合いぶりはつとに知られており、これが「チャイナゲート」に発展、トランプ大統領の足をさらに引っ張る材料となるかもしれない。
  
b)米ロ関係
米民主党がトランプの「ロシア・コネクション」を言い立てて引きずりおろす作戦に出ているため、米ロ関係はトランプにとって「タブー」化しつつあった。4月4日、シリアで化学兵器が使用されたことに対して米軍がシリア政府軍基地に空爆(巡航ミサイルによる)を加えたことで、米ロは再び対立関係に戻るものとも思われていた。

しかしロシアは右空爆に激しく反発することはなく、4月12日にはティラーソン国務長官の訪ロを予定通り受け入れるとともに、プーチン自身が同長官と2時間も会談したのである。そして5月2日プーチンはトランプに電話して、シリア及び北朝鮮問題を話し合いで解決することの重要性を指摘、シリアでは米、ロシア、トルコ軍間の作戦調整(2月に米ロ両軍参謀長がバクーで3年ぶりに会談して以来の動き)が正式に再開された。
   
プーチンはクリミア併合で国内の支持率を確固たるものとしたが、その効果は賞味期限を迎え、国民の関心は生活問題に向かっている。同時に、メドベジェフ首相の特権濫用、学校での「愛国主義教育」等をめぐっての「高校生の反乱」が当局を当惑させている。一般に見られているのと異なり、来年3月に大統領選を控えたプーチンは、海外での問題はそろそろ手じまいして、国内に集中したいことだろう。

c)中ロ関係
前記の繰り返しになるがこの期間、中ロ関係に興味ある動きがあった。4月6日の米中首脳会談中起きた米軍のシリア政府軍基地空爆に習近平が「理解を示した」との報道が行われたあたりから、中国がロシアを足蹴にして米国に擦り寄る局面が続いたのである。プーチンはおそらく不快感を示したのであろう。5月14日北京で行われた「一帯一路国際フォーラム」ではプーチンがメイン・ゲスト級なので、習近平は宥和の必要に迫られたものと思われる。4月26日には最側近の栗戦書共産党中央弁公室主任(官房長官に相当)をモスクワに派遣して、「中ロの緊密な関係には何の変化もない」とのメッセージを伝えさせている(クレムリンのサイト)。しかしプーチンは、それでも5月2日にはトランプ大統領に自ら電話し、自国の立場を中国と同等のものに引き上げた。

しかし他の面では中ロ間の協力は続いているし、14日「一帯一路国際フォーラム」にはプーチンは参加した。そして2015年の合意に基づきロシアは、最新防空ミサイルS-400を中国に3基供与するための生産を開始した。また昨年12月には最新戦闘機スホイ―35も4機、中国に引き渡している(総計24機の予定)。

当面の中ロ関係においては、北朝鮮危機が中国陸軍の勢威回復につながるかどうかも一つの見どころである。陸軍は習近平政権発足時、ライバルの薄熙来に接近したため、その首領格の徐才厚・党中央軍事委副主席は辞任に追い込まれ、予算・人員は削られて海軍、空軍に重点配分されている。しかし北朝鮮危機には陸軍が必要となるため、陸軍の勢威回復の好機である。そして陸軍が勢力を回復すると、新疆、アフガニスタン、そしてロシア極東方面への対応を強化して、ロシア等との摩擦要因となるかもしれない。

4)軍事で目立ついくつかのこと
a)米中ロとも国防予算の先行き不透明

米国トランプ政権は、後出のように国防費の大幅増額を目指している。しかし共和党の茶会系は財政支出縮小を至上命題としているので、これを認めない可能性もある。中国はGDP成長率下降のため、長年続いた国防費の二ケタ増はこの2年、7%台に落ちている。ロシアでも経済停滞を受けて、後出のごとく国防費の伸びに歯止めがかかった。

b)米軍に追いつけないロシア、中国
米軍は、「ロシア、中国に追いつかれたので国防費を大幅に増強し、ロシア、中国を突き放す」と主張しているが、米国がダントツの国防費で数十年にわたって築いた軍事上の優位は崩れていない。米軍の優位性を際立たせている、ITに本土からの前線兵力の統括運用能力はロシア、中国の追随を許さない。米国は現在、ロシア、中国がこのIT指令ラインをジャミングする能力を開発したのをかいくぐる技術を開発しており、これが実現すればITによる米軍優位をこれからも維持できるだろう。

中国の「2隻目空母」が進水したことが大きく報道されたが、この空母も「遼寧」同様、カタパルトを装備していないために、離陸する戦闘機の武器搭載量は限られてしまう。一方米国の最新鋭戦闘機F-35B(岩国米軍にも配備ずみ)は垂直離着陸可能であるため、搭載武器を減らしさえすれば、空母より小さい揚陸艦でも運用できる。米海軍現有の空母は現在10隻しかなく、グローバルな運用には苦しいものがあるが、揚陸艦を空母として使うことができれば、戦術上の柔軟性は大いに高まる。英国が進水させた新型空母クィーン・エリザベスは、カタパルトを装備していないが、F-35Bを搭載することで十分の戦力を確保できる。約3万トンと軽空母なみの威容を誇る日本の新型ヘリ空母(正式にはヘリコプター搭載護衛艦)「いずも」、「かが」も、甲板を強化すればF-35Bを運用できると言われる。

c)「軍隊」の実力度
米国、中国、ロシア等は大きな軍事力を有すると思われているが、数はともかく、実際の戦闘能力を有する部隊の数は、米ロ双方において(中国については情報がない)限られてきている。米国、中国は徴兵制を取っておらず、志願制であるが、このため米国では軍隊は「特定の層が常に勤務する」ところと化しており("Generation of War--The Rise of the Warrior Caste and the All-Volunteer Force"Amy Schafer, Center for a New American Security, May 2017)、作戦能力を有するのは一部のエリート部隊に限られてきている。

ロシアは徴兵制が残存しているものの、徴兵忌避が多いうえに徴兵期間も僅か1年のため、実戦に用いることのできる力を持たない。ロシアでも、「契約」に基づく職業兵の比重が増大、その中でも実戦に用いることができるのは少数に限られるようになっている。
最近では「ロボット兵士」がどこまで実用化されるかが話題になっている。しかし自分の「脳」で敵・見方を見分けて殺す自走機械の出現は、危険なことである。日本では、暴力団同士の抗争にも使われるであろう。そのため現在、ロボット兵士を規制するための国際会議が開かれようとしている。但し目下のところ、ロボット兵士の致命的な弱みは、長時間の動力源が未だ開発されていないことである

d)北方領土のロシア軍強化
14頁で小泉氏が指摘しているように、北方領土のロシア軍が強化されている。その主要な目的は、オホーツク海の防護であろう。ここにはロシアの戦略核ミサイルを搭載した原潜が数隻遊弋し、米国に照準を定めているからである。ただオホーツク海のロシア海軍、北方領土の陸軍にしても、その有事の兵站には致命的な弱点がある。それは宗谷海峡か津軽海峡を通らないと兵站物資を本土から搬入できないということである。現在、両海峡は国際海峡に準ずるものとして、通航が自由になっているが、有事には閉鎖することができる。


ギルド発足に当たって

冷戦終結以降、日本が世界を自分の目で見て、自分で生き方を決める必要性が益々増大している。そして世界は政治・経済・社会等、複眼的に分析するべきものだが、日本ではそのうち軍事的視点が特に弱い気味があった。安全保障を日米安保に大きく依存し、安保政策と言えば基地対策であった時代が長かったからである。その弱点を補うべく、次の4名の同人が隔月にこの「軍事から見た世界主要動向」を発行することとした。MK3(エムケースリー)とは、以下の同人の頭文字を取ったもので、いずれからも補助金、助成金の類を受けていない任意団体である。

 (同人名:あいうえお順)
河東哲夫 Japan World Trends代表(欧州及び総括)
小泉悠 未来工学研究所客員研究員(ロシア及び周辺)
近藤大介 講談社週刊現代編集員(中国、朝鮮半島)
村野将 岡崎研究所研究員(米国)
      


コメント

投稿者: 若山 喬一 | 2017年5月30日 06:10

河東さま:すばらしいお仕事です。無料でしたら,引き続き「軍事から見た世界主要動向」をご送付いただけますとありがたいです。

投稿者: 佐藤嘉恭 | 2017年5月30日 08:43

河東大使
かねがねからのことですが、御活躍に敬意を表します。「軍事から見た世界主要動向」は大変参考になります。指導者の発する言葉が混乱を深める結果となってしまった歴史の教訓を思い起こします。

投稿者: 佐藤嘉恭 | 2017年5月30日 08:45

河東大使
御活躍に敬意を表します。「軍事から見た世界主要動向」は大変参考になります。指導者の発する言葉が混乱を深める結果となってしまった歴史の教訓を思い起こします。

投稿者: 佐藤嘉恭 | 2017年5月30日 08:47

河東大使
「軍事から見た世界主要動向」は大変参考になります。指導者の発する言葉が混乱を深める結果となってしまった歴史の教訓を思い起こします。

投稿者: 佐藤嘉恭 | 2017年5月30日 08:47

河東大使
「軍事から見た世界主要動向」は大変参考になります。指導者の発する言葉が混乱を深める結果となってしまった歴史の教訓を思い起こします。

投稿者: 佐藤嘉恭 | 2017年5月30日 08:52

河東大使
「軍事から見た世界主要動向」は大変参考になります。指導者の発する言葉が混乱を深める結果となってしまった歴史の教訓を思い起こします。

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