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2017年5月24日

日本をめぐる安全保障環境報告MK3 第2号 各論

(以下はMK3「日本をめぐる安全保障環境報告」の第2号から、各論のところです)

目次
2.米国の軍事動向(担当:村野)
1) イージスBMD用迎撃ミサイル「SM-3BlockⅡA」初の迎撃試験成功
2)韓国(在韓米軍)へのTHAAD展開開始
3)武装型無人機UAV「グレイイーグル」の在韓米軍配備開始
4)「カールビンソン」空母打撃群の動き,南シナ海から東シナ海へ
5)その他
6)ロシアのINF条約違反,米政府高官が配備を認める
7)トランプ政権,FY18予算教書概要(国防省,国務省)

3.中国・朝鮮半島の軍事動向(担当:近藤)
1)中国関連
2)日本関連
3)北朝鮮関連

4・ロシア(担当:小泉)
1)北方領土周辺の軍事力配備
2)ロシアのINF条約違反
3)次期装備計画(GPV-2025)と軍事支出

5.欧州・ユーラシア(担当:河東)
1)ドイツの国防費はいつGDPの2%目標に達するのか
2)スウェーデンでの「徴兵制復活」の動き
3)謎の9月ベラルーシ大軍事演習
4)ユーラシアと中国軍

2.米国の軍事動向(担当:村野)
1) イージスBMD用迎撃ミサイル「SM-3BlockⅡA」,初の迎撃試験成功
・2月3日,ハワイ・カウアイ島ミサイル試験場から発射された準中距離弾道ミサイル(MRBM)目標に対し,米海軍のイージス駆逐艦「ジョン・ポール・ジョーンズ」がイージス・ベースライン9.C2(BMD5.1)を用いて自艦のAN/SPY-1Dレーダーを用いて迎撃に成功した。
・現在の日米イージス艦で運用中のSM-3は,SM-3BlockⅠA(射程1200km,迎撃高度600km)。米海軍はBlockⅠBへの移行を開始しており,欧州のイージス・アショアからBlockⅠBに換装する予定。

SM-3BlockⅡAは射程2000km,迎撃高度は1500km超とされ,中国のMRBMへのミッドコース対処や北朝鮮の中距離弾道ミサイル(IRBM)ムスダン(射程4000km程度と推定)のロフテッド軌道発射への対処が可能とされる(河東注:5月発射のムスダン改良型の高度が2000キロを超えたことで、SM-3BlockⅡAでも十分ではないという意見も聞かれる)。BlockⅡAの実用化によって,舞鶴や横須賀にいる海自のイージス艦が1隻で日本全土をカバーできるようになる他,西太平洋上からグアムに向かうMRBMにも対処可能とされる。2018年に配備開始を予定。

2)韓国(在韓米軍)へのTHAAD展開開始
・3月6日、韓国オサン空軍基地にC-17輸送機によって終末高高度防衛(THAAD)システムの第一陣が到着した。
・全バッテリーの到着を待って部隊を編成し,本来の配備先である星州のロッテゴルフ場の手続きが完了次第,同地に配備される予定。

・韓国軍は「(実施中の)米韓合同演習とは関係ない(演習には参加しない)」と説明。前日トンチャンリからのミサイル発射(スカッドER×4)を確認したからではなく,2月12日のIRBM(北極星2号)の発射に影響を受けての決定と見られる。
(河東注:文政権の登場で、THAADの搬入は当面凍結されるのでないか?)

3)武装型無人機UAV「グレイイーグル」の在韓米軍配備開始
・米陸軍は3月12日,韓国軍と米空軍との調整を経て,MQ-1Cグレイイーグル中隊(=12機)を群山在韓米軍基地に常時配備することを決定した。同中隊は,第二歩兵師団隷下第二航空旅団に配属され,在韓米軍と韓国軍のISRおよび戦略計画を支援すると説明されている。
・グレイイーグルは,イラク・アフガンで多用された武装UAV「プレデター」の後継・強化型。ヘルファイヤ対戦車ミサイル4発ないし小型精密誘導爆弾4発を搭載し,高度7600kmで36時間滞空が可能。軍事境界線付近を偵察し,ISR情報を各軍に提供するものと見られる。
 
4)「カールビンソン」空母打撃群の動き,南シナ海から東シナ海へ
・2月18日,カールビンソン空母打撃群(CSG:Carrier Strike Group)が,ハワイ,グアム,フィリピン海での訓練を経て,南シナ海での定期展開を開始した。
・3月7~10日,日米合同演習のため東シナ海へ移動。この際,「カールビンソン空母打撃群と戦術訓練を含む巡航訓練を行った」と説明。

・3月15日,釜山に入港。米韓合同演習「フォールイーグル」参加へ。
・その後カールビンソンは,3月30日頃まで日本海に所在していたが,4月に入り東シナ海を南下,フィリピン海を通過。4月4日には,随伴艦のアーレイバーク級ミサイル駆逐艦USS マイケル・マーフィー,タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦レイク・シャンプレインとともにシンガポールに寄港した。

・ 4月8日にシンガポールを出港し,豪州に向かおうとしていたカールビンソンCSGに対し,ハリス太平洋軍司令官が,予定を変更して北上するよう指示(河東注:実際にはカールビンソンの動きはそれより遅れ、やっと4月下旬になって東シナ海方面に展開。ハリス司令官はその齟齬について、議会で謝罪している。他方、米国はこの陽動作戦で北朝鮮を戦争準備に駆りだし、防空壕等の有りかを空から偵察できたとの報道もある)。その際,随伴艦にアーレイバーク級駆逐艦ウェイン・メイヤーが加わり,CSGとしてはほぼフルパッケージの編成となった。報道にはないものの,通常CSGには攻撃原潜1隻と補給艦が随伴している。なお,タイコンデロガ級の誘導ミサイル搭載能力は最大122基,アーレイバーク級は最大90~95基。ただし,各艦は対地攻撃用のトマホークのみならず,自艦・艦隊防御用のSM-2,SM-3などのミサイルも搭載しているため,最大搭載数=攻撃能力ではない。特に,防御用ミサイルの搭載数=飽和攻撃に対する防御限界であるため,各種ミサイルの混合割合は公表されない。

・カールビンソンCSGは,サンディエゴを母港とする第3艦隊に属している。第3艦隊と第7艦隊は,日付変更線の東西で責任領域を分担しており,日付変更線を跨いで作戦を行う場合には,自動的に第7艦隊指揮下に編入されるのが通常である。しかし今回カールビンソンCSGは,第3艦隊指揮下のまま,西太平洋で活動する3rd fleet forwardという態勢をとっている。これは,東シナ海や南シナ海に加え,インド洋方面までカバーしなければならない第7艦隊の負担を軽減するため,第3艦隊の所掌エリアが西側に拡大されつつあることを示唆している。なおカールビンソンは,横須賀で短期整備を行っているロナルド・レーガンの代替プレゼンスである(河東注:この点が、空母を10隻しか保有しない米海軍の現在の弱点で、空母はきちきちに運用されている。前出のように、揚陸艦にF-35Bを搭載すると、作戦の柔軟性は高まる)。

5)その他
・日米水上艦隊のハイエンド合同演習「マルチセイル」(3月10~16日)
 ⇒バリー (DDG 52), フィッツジェラルド (DDG 62), ステザム (DDG 63), マキャンベル (DDG 85), マスティン (DDG 89) いかずち (DD 107),はたかぜ (DD 171)らが,水上集団機動、対潜戦を含む相互運用性強化を目的に,合同演習を実施。
⇒日米版Distributed Lethalityをテストした可能性あり。

・日本海にて,BMDに関する日米韓戦術データリンク演習「LINKEX」(3月14-15日)
⇒米イージス艦(アーレイバーク級)「カーティス・ウィルバー」,海自イージス艦「きりしま」,韓国海軍イージス艦「世宗大王」の3隻により,弾道ミサイル防衛に関する情報共有演習が行われた。同種の日米韓演習は2016年6月から始まり,今回で4回目となる。

6)ロシアのINF条約違反,米政府高官が配備を認める
・2月14日,NYTが米当局者の話として,ロシアがINF条約に違反して、中距離巡航ミサイル「SSC-8」を陸上に実戦配備しはじめたと報道した。2014年の国務省コンプライアンス・レポートでは「巡航ミサイル」とのみ記述されており、違反対象機種が明示されたのは初めてである。
・3月9日,下院軍事委員会公聴会に出席したセルバ統合参謀本部副議長は,米政府高官として初めてロシアがINFに違反する巡航ミサイルを配備したことを認め,「新型ミサイルの配備は欧州にあるほとんどの米軍施設にとってリスクになる」と言及した。

7)トランプ政権,FY18予算教書概要(国防省,国務省)
・国防予算要求は,総額6390億ドル(基礎予算:5740億ドル+海外緊急作戦費OCO:650 億ドル)。FY17継続予算比で10%増額(河東注:未だ正式の予算案ではなく、この通り決まるかどうかは未定。なおこの増額分だけで、ロシアの年間国防費にほぼ等しい)。
・強制削減を廃止し,国防省で520億ドル,国防省以外の国防計画で20億ドルを復活させることで,予算管理法(BCA)の上限から540億ドルを増額させる。

・IS打倒の加速化に必要な資源を提供。空爆,現地パートナー支援,海外活動の阻止,資金源断絶など。
・兵器・人員不足,メンテナンス・近代化の遅延,サイバー脆弱性,設備劣化などに対処。
・即応性を立て直し,兵力削減を撤回し,将来の課題に備え,陸軍を強化する。

・海軍艦船の総数を増加させることで,現在・将来の脅威に対処しうる海軍を再建する。
・即応性と十分な装備を備えた海兵隊を確保。
・戦術航空機の即応性を改善,技術的優位の確保,老朽化インフラの修繕といった空軍の取り組みを加速化。メンテナンス,訓練,F-35など重要投資によって脅威に対処する。

・国務省予算本体要求額は,256億ドル。FY17継続予算比で28%(101億ドル)減(全省庁で2番目に削減が大きい。1位は環境保護庁で31%減)。他方,シリア,イラク,アフガンなどで使う国務省向けOCOとして120億ドル計上

→トランプ政権から発表されたFY18の大統領教書の骨子は、国防予算を540億ドル増額する一方、国務省や環境保護庁など非軍事予算をほぼ同額削減し、手当てしないとしている。国防予算の強制削減の根拠となっているBCA(Budget Control Act of 2011)撤廃それ自体は、マケイン上院議員など国防族議員の支持を得ている一方、非軍事予算を乱暴に削減していることは、民主党議員のみならず、共和党主流の一部にも懸念を持たれている。
また、共和党内で小さな政府を志向する財政保守派は、社会保障費のみならず国防予算増額にもおしなべて反対=BCA維持を望んでおり、反対が見込まれることから、上院での可決に必要な60票を得ることが難しく、トランプ予算案は成立しない公算が大きい。そのため、夏にかけ、議会の承認を得られる、より現実的な予算案策定のための大幅見直しが行われる可能性が高く、混乱が予想される。


3.中国・朝鮮半島の軍事動向(担当:近藤)
1)中国関連
・2月23日の国防部会見で、230万→200万の人民解放軍削減が、今年年末までに終わる予定と発表。
・3月5日、全国人民代表大会『政府活動報告』で李克強首相が、今年の重点活動の一つとして、「戦争への準備を強化する」と述べた。

・3月12日、習近平主席が全国人民代表大会の人民解放軍代表団全体会議に出席し、「軍民一体化」を指示。おそらくTHAAD問題も話し合ったが未発表。
・4月初旬にトランプ・習近平会談を開く条件として、中国は「THAADに関するアメリの妥協」を求めている。

・人民解放軍の羅援少将は、中国最大の国際紙『環球時報』(3月2日付)に寄稿し、「反THAAD十策」と題した提言を行った。
①THAADを配備した韓国の星州の元ゴルフ場を「対中国軍事脅威超危険地域」に指定する。②中国国内にTHAADのレーダーに対抗するシステムを配備する。③THAADへの攪乱能力を強化する。④「攻撃は最大の防御なり」で、THAADを破壊できるミサイルを早急に開発する。⑤ロシアと手を組みTHAADに対抗する合同軍事作戦を強化する。⑥世界中で米日韓に対抗する措置を講ずる。⑦THAADに関係する韓国の産業に報復措置を取る。➇配備場を提供したロッテを中国市場から放逐し、THAAD配備の悪影響を見せつける。⑨韓国を旅行する中国人の人数を制限する。⑩国連代表部と世界中の中国大使館から、「THAAD事件」に対する反対声明を発表する。

・2月18日から始めた北朝鮮産石炭の輸入禁止措置は、実際には半数程度を禁輸している状態。THAADが配備される環境下では、中国は北朝鮮と組む。
・3月17日付『人民日報』で、1998年に禁止した人民解放軍によるビジネスを、再度全面的に禁止すると報道。

・3月26日に香港行政長官選挙(親中派の林鄭月娥を擁立)を終え、全国人民代表大会を終え、5月に「一帯一路国際フォーラム」で周辺諸国を味方につけ、今年後半の第19回共産党大会に持っていきたい。党大会後に台湾統一へ向けて乗り出す。

2)日本関連
・3月7日~10日、米空母カールビンソンと護衛艦「さざなみ」「さみだれ」が東シナ海で合同訓練を行ったことを中国が非難。
・3月~5月、護衛艦「いずも」が南シナ海に出て、フィリピン、インドネシア、シンガポール、スリランカに立ち寄ってインド洋の印米日合同訓練「マラバール」に参加することを中国が非難。

→中国は、自衛隊がアメリカ軍と共に南シナ海に出るのかを注視。
→近く、昨年8月のように大量の中国船が尖閣諸島に襲来する可能性がある。

3) 北朝鮮関連
・1月に国家保衛省と党中央組織指導部の権力闘争が表面化。金元弘国家保衛相以下、国家保衛省の幹部たちが粛清される。
・幹部粛清と、軍事備蓄米放出(食糧不足)、燃料不足などで朝鮮人民軍の士気は上がらず。
・金正男暗殺で、息子の金ハンソル一家は、マカオ→台北→オランダと向かったのでは?


4・ロシア(担当:小泉)

1)北方領土周辺の軍事力配備
・2月23日、「祖国防衛者の日」に際して議会での公聴会に出席したショイグ国防相は、「クリル諸島に新たな師団を配備する」と発言。クリル列島の南端部にあたる我が北方領土にはすでにロシア陸軍の第18機関銃砲兵師団(約3500人)が配備されているため、ショイグ発言が何を意味するのかについて憶測を呼んだ。

・3月20日の日露2+2で来日した際、ショイグ国防相は当該師団についてさらに発言。「新師団(単数形)は過去6年に渡り、沿海州、アムール州、サハリン州で設立が進められてきた」「ロシア連邦の領土と国境を空と海から守る」としており、通常の陸軍の師団ではない可能性が高い(タス通信も「いかなる軍種・兵科の部隊なのか不明」とする)。おそらく去年配備された地対艦ミサイルも含めて統合運用する沿岸防衛師団のようなものではないか。

・また、このような方向性であるすれば、北方領土を含むクリル列島での軍事力強化はさらに進む可能性がある。たとえば同列島には現在、広域防空システムが配備されていないが、北極圏での軍事力建設から類推するとこの種のシステムが配備される可能性は低くない。

・ことに択捉島には1990年代初頭までMiG-23を装備する1個戦闘機連隊が配備されていた。同連隊が基地としていたヒトカップ湾沿岸のブレヴェストニク飛行場は濃霧で度々使用不能となるなど不利な条件を抱え、現在も大規模な再建作業の兆候が見られないことから、ロシアは戦闘機の再配備は考えていないだろう。代わりにS-400のような広域防空システムを配備すれば、基地施設は比較的小規模で済み、天候に左右されない運用能力を発揮できる。S-400の場合、現在の最大射程は250kmほどであるが、将来型の40N6ミサイルを採用した場合の最大射程は400kmに達する見込み。
  このほか、オホーツク海周辺における軍事力強化の動向は次の通り。

・オホーツク海周辺ではサハリンへのS-400/S-300V4防空システム及びMiG-31戦闘機配備の構想
・カムチャッカの第52沿岸ロケット旅団もバスチョン地対艦ミサイルに装備更新(おそらくシムシル島に分遣されている部隊もこれに併せてバスチョンに装備更新)
  →千島列島全体をバスチョンでカバーできる体制に
  さらにショイグ国防相は上記公聴会において、「2017年中に全てのロシアの海空国境をミサイル網でカバーする」と発言。

2)ロシアのINF条約違反
・米NYT紙が、ロシアのINF(中距離核戦力)条約違反について詳しく報じる。違反対象とされるのはSS-C-8地上発射型巡航ミサイル(GLCM)とされ、後に米軍制服組トップも違反がGLCMであると認めた。
・SS-C-8の正体は不明だが、9M729長距離巡航ミサイルの地上発射システムと見られる。9M729は3M14カリブル巡航ミサイルの地上発射型という説が有力。発射システムの外観は陸軍の標準的な戦術ミサイル・システムであるイスカンデル-Mに「よく似ている (closely resemble)」とされる。したがって装輪機動式システムなのだろう。ただし、SS-C-8がカリブル地上発射型を指している場合、現行のイスカンデル-M用発射システムに搭載するにはやや長すぎると思われる。したがって発射システムの全長はイスカンデル-Mよりもやや長くなっていることが予想され、これを以って「closely resemble」としているのであろう。

・NYT紙報道でもうひとつ重要な点は、昨年末の段階でカプスティン・ヤールに居たSS-C-8の1個大隊がロシア中央部に移駐したが、別の1個大隊がまだカプスティン・ヤールに居たとしている点である。カプスティン・ヤールはアストラハン州にあるロシア軍の演習場であり、陸軍の戦術ロケット部隊が新装備を受領する場合には、転換訓練の総仕上げとして同演習場で実弾射撃訓練を行ってから実際の任地へと展開するのが普通である。
・したがって、NYT紙報道を素直に受け取ればSS-C-8の1個大隊が昨年時点で実戦配備につき、もう1個大隊が実戦配備に向けた最終段階にあったことになる。おそらく2個大隊で1個ロケット旅団を編成すると見られ、これに対して米国が時期NPRでどのような対応を取るのかが要注目。

3)次期装備計画(GPV-2025)と軍事支出
・時期装備計画である2025年までの国家装備プログラム(GPV-2025)は、本来2016年にスタートすべきところ、予算規模を巡る軍と財務省の対立で2018年にスタートが繰り延べ。7月には予算総額を最終決定の予定。軍は総額20兆ルーブルくらいまで折れてきたが、財務省は12兆ルーブルの線で譲らず。

・2017年度国防予算は前年度(3兆9000億ルーブル)から約1兆ルーブル減の2兆8000億ルーブルへと大幅減。ただし、2016年度の3兆9000億ルーブル中、8000億ルーブルは軍需産業の焦げ付いた融資を政府保証で返済するために補正でついた予算であり、もともとは3兆1000億ルーブル強程度であった。

・GPV-2025ではT-14戦車、S-500防空システム、T-50第5世代戦闘機などを調達する予定。T-50戦闘機は第1段階エンジンが出力不足のため、第1バッジは試験用の導入に留める模様。出力強化型の第2段階エンジンの開発を待って本格配備か(ということは配備はまだかなり先)。クズネツォフの後継となる新型空母の話は浮かんでは消えているが具体的な話はまだ未定。次期戦略爆撃機PAK DAを開発中だが、Tu-160の生産ラインも復活。したがってPAK DAは相当先に繰り延べて結局はTu-160でやっていくのではないかとも思われるが、ツポレフはすでにPAK DA設計段階を2016年に完了し、2017年4月には最初の試作機建造契約を結んだ。

・最優先項目は今後も戦略核だが、精密誘導兵器によってその役割は徐々に低下するだろうとの見方も(例:ショイグ国防相発言、2月21日)。C4ISRや無人兵器の開発は依然として立ち遅れが目立つ。
・AI(人工知能)を活用した自律型攻撃UAVの開発計画も浮上。これは2007年のモスクワ航空ショーで公開されたミグの「スカート」ジェット無人攻撃機をベースとしたもの(ただし主契約社はスホーイに変更)。AIによって遠隔操縦の効かない環境下でも自律行動し、攻撃や偵察を行うとしている。スカートの形状を見る限りステルスを意識している模様。

・これとは別にターボプロップ双発の「アルティウス-M」無人機の開発も進行中。米軍に20年遅れてようやく大型無人機の実用化に目処がついてきたか。


5.欧州・ユーラシア(担当:河東)
 欧州・ユーラシアでの政治・軍事情勢は日本には間接的な意味しか持たない。それでも比較的に意味を持っている事象は次のとおりであった。

1)ドイツの国防費はいつGDPの2%目標に達するのか
米国の働きかけで、NATO諸国は国防費をGDPの2%以上にするという目標をつとに掲げている。しかしこれまでに達成しているのは英国、ギリシャ、エストニア、ポーランドのみである。
日本にとって最も注目されるのはドイツの動きなのだが、メルケル首相は昨年10月、「現在GDPの1、2%の国防費を2%にすると、米国に約束してある。今年は343億ユーロ。2020年には392億の予定だったが、2%にするとすれば600億ユーロ以上にしないといけない。」と言明して注目を引いた。本年度の国防費が8%も増えているからである。
しかしこれもNATOでの合意を敷衍して言っただけのようで、2月のミュンヘン安全保障問題会合では、「遅くとも2024年までに2%にする責任を認める。しかし今年のように8%もの国防費増加は簡単ではない」として、右発言よりは後退している。

2)スウェーデンでの「徴兵制復活」の動き
  NATOで徴兵制を維持しているのはデンマーク、ギリシャ、ノルウェーのみのようだ。ドイツは、2011年に徴兵制の「停止」を発表している。
  ところが3月2日、スウェーデン(EU加盟国だがNATO加盟国ではない)のフルトクビスト国防相は、「2018年から徴兵制度を復活する。男女を問わない。ロシアの軍事的脅威に対応するため」と声明して、反響を呼んだ。これは徴兵といいながら、IT等のためのエンジニアを4000名ほど選抜・採用するということで、政府への臨時雇用と変わらない。
 冒頭述べたように、先進国の軍隊は少数精鋭化しつつある。ロシアも米国も、コマンド的な勢力を多用している。米国は既に1973年に徴兵制を停止し(登録義務は残っている)、現在その軍隊は特定の者が繰り返し就役することが多くなっている。スウェーデンの動きも全面徴兵ではない。日本でも自衛隊関係者には徴兵願望も見られるが、政権が憲法改正を提起しようとしている今、「徴兵制」という言葉を出せば、すべては画餅に帰すだろう。

3)謎の9月ベラルーシ大軍事演習
  9月にベラルーシで大規模なロシアとの共同軍事演習が予定されている。同国は数年に一度はロシアと大々的な共同軍事演習をするので、不思議ではないのだが、今回はロシア軍が年間を通じて徴用する鉄道貨車の約80%分を徴用しており(2月22日付Jamestown Newsletter)、何を狙っているのか、わからない。

  ベラルーシのルカシェンコ大統領は最近、ロシアに楯を突く場面が多かった。それは、原油価格の下落でロシア経済が苦しくなり、ベラルーシの面倒を十分見ることができなくなった時期と一致している。ベラルーシはロシアから石油、ガスを安価に仕入れ、これを精製、あるいは化学製品に仕立てて欧州に転売することを繰り返してきたが、ロシアがこの値段を吊り上げようとしていることが、両国の間の摩擦の背景にあるだろう。ロシアは2014年以来、ベラルーシにロシアの軍事基地を設けることを提案、ルカシェンコの反発はますます厳しくなっていたが、3月末に両国首脳は会談して懸案を一応解決し、当面摩擦は和らいでいる。この面からは、9月にロシアから大軍を送り込んで威嚇する必要はなくなっている。

4)ユーラシアと中国軍
   中国は5月14日、北京で「一帯一路国際フォーラム」を主宰。一帯一路の政策を華々しく国際化した。ぶちあげた東西横断鉄道の建設は遅々として進んでいないが(完成したと言われる路線は、既存の鉄道をつなぎ合わせただけのもの)、トルクメニスタンからは3本の天然ガス・パイプラインを既に敷設しているし、アフガニスタンにもアイナック銅山を初め数件の利権を有する。これらを自国の軍隊で守りたいと思う日も来るだろうし、現にアフガニスタンのワハン回廊(新疆地方への狭い出口)には中国軍が駐留しているとの報道もある。ウィグル独立運動分子の往来を防ぐためだろう。

   では、中国軍は西方に遠方展開する能力をどのくらい持っているだろうか? これは存外限られている。鉄道が少ない。しかも中国と中央アジア・ロシアの鉄道のゲージは異なるので、国境での乗り換え、あるいは車輪の付け替えで、軍隊は脆弱な腹をさらすことになる。

また中国は、長距離航空輸送能力を欠く(民間機を大量に徴用すれば別の話しだが、エアバス、ボーイングがメンテをするかどうか)。新型のY-20輸送機にしても、エンジン推力の不足等、問題を抱えている。現有のIl-76は貨物室が狭く、Y-8は戦車を運べない。従って、中国軍は本土において運用されるべきもので、米軍はもちろん、ロシア軍よりも遠方への展開能力を欠いていると見てよかろう。

コメント

投稿者: 平野 裕 | 2017年5月30日 09:01

万華鏡はいつも最後まで読ませていただき、かなり
ヒントになります。剽窃はいっさいしません。
今度の安保報告も必ず読みます。情報量が多そうですね。楽しみです。

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