Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2017年4月28日

メルマガ 文明の万華鏡第60号発売

(まぐまぐ社より、メルマガ「文明の万華鏡」第60号を発売しました。今月の情勢のまとめとして、メルマガ冒頭の文章をここに転載します。本文はこのブログ表紙上部にある、「購読手続き」を通じてご覧いただけます)

先月号以来、モスクワで2週間集中講義をしたあと、今度は政府の「文化交流ミッション」に参加してトルクメニスタン訪問、5泊中3泊機上泊という苛烈な日程に耐えて、23日朝6時帰国したばかりです。というわけで、今月はロシア、トルクメニスタンのことを集中して報告致します。

米国トランプ政権の陣容が固まるのが遅く(もしかするとそれは官僚組織を破壊するために意図的にやっているのかも)、米中、米ロ関係を初め、国際関係の大枠は宙ぶらりんになったまま推移しています――こう、先月号に書きましたが、今月もその点は全く変わらず。情けないことで、トランプ政権は弾劾に向けて一直線に進んでいるのでしょうか?

 トランプ大統領はラジオのトークショーの出演で知名度を上げた人物。米国のラジオのトークショーというのは、世の中のことをわかりやすく一刀両断、悪者を決めつけて「こいつをやっつければ世界は良くなる」式のものの言い方をするところです。トランプも、トークショーばりに他人の政策を批判することはできても、使いものになる政策を自分で作ることはできないということです。しかも、大統領選の際、多くの専門家、官僚がトランプに反対する声明に署名していますから、各省の幹部を任命しようとしても、人材がいないのでは? 今になっても、各省の幹部の多くが決まっていないために(例えば国務省のサイトを見ても、役職の後に「Vacant」という文字が並んでいて異常です)、米国とは事務的に詰めた話ができない状況。

それもあって、今回北朝鮮のミサイル騒ぎでは、米国空母のカール・ビンソン関連の報道が錯綜を極めました。15日の金日成誕生記念日が一つの山になりましたが、新聞記事を見ていると、「今カール・ビンソン及びその艦隊は東シナ海で北朝鮮を狙って行動中。共同演習の名目で日本の自衛艦が同行し、これらを中国とロシアの軍艦が追尾している。米艦隊からはいつでも特殊部隊が平壌に進発できるし、アフガニスタンでISISの地下トンネルを破壊した米軍「あらゆる爆弾の母」が金正恩の隠れる地下壕を直撃する。追い詰められた北朝鮮は、戦前の日本と同じで、真珠湾に相当する米軍の本拠地をたたいてくるかもしれない。それは日本のどこか?」と思えたものです。

ところが18日には、カール・ビンソンは実はインド洋で豪州と共同演習をしており、北朝鮮方面へはこれから移動するのだ、ということを、米国防総省がしゃあしゃあとして言ったから、こちらはがっくり来ました。政府・自衛隊は米国艦隊の動きは知っていたようですが、軍事機密だということで明らかにせず、北朝鮮に対する脅しになると思って、黙っていたのでしょう。そして中国とロシアは人工衛星から見ていて、あるいは追尾していて、カール・ビンソンはまだインド洋にいることがわかっていたでしょう。

第2次大戦末期、ノルマンディー上陸をめぐって連合軍は大変な宣伝戦を繰り広げ、上陸予定地点は別のところだとドイツ軍を騙そうとしましたが、それにも似た諜報・心理戦でありました。これは米国政府部内の連絡の乱れの結果に過ぎないという報道もありますが、こうやって「トランプ大統領は何をやるかわからない」というイメージを打ち立てたことは、世界の悪者に対する大変な抑止効果になっていると思います(その代わりプーチン大統領などは、こうした人物が核のボタンを持っていることに対して、対応措置を密かに命じていることでしょう)。

先日の日経は、米国が「第2プラザ合意」を狙って工作を開始したという趣旨の記事を出しています。プラザ合意、つまり「ほどほどのドル安」を狙ってドル暴落を誘発した1985年の合意で、これには日米間の事前の合意が最重要な役割を果たしました。

今回は、米中間の事前の合意が一番大きな意味を持つでしょう。日本はその合意の刺身のツマにされる危険性もあり、「元高・ドル安」が起きそうな場合、日本はどうするか、それとも中国は米国と手を握り(米国企業の対中投資優遇などで)、通貨面での負担は日本に押し付け「日本は円高、米中はドルと元同時安」を現出しようとするか、その場合、日本経済はどうなるか、何をしたらいいか、そういった問題を事前に考えておかないといけないでしょう。

今心配になっているのは、タイの政情です。ここではワチラロンコン新国王が皇太子時代から護衛代わりに使っていた空軍部隊出身者を取り立てて、同じく昔から親しいタクシン元首相の意も受けて、現在権力を握っている陸軍内部の人事に介入しているようです。陸軍主流は反タクシン。新国王が企てるタクシン恩赦、タクシンのタイへの凱旋帰国を恐れてシリントン王女(新国王の妹。昔から新国王の人気を上回っていた)の周りに結集。10月に予定されるプミポン前国王火葬の儀の前に何かしかけてくるかもしれないからです。

タイと言えば、ASEAN諸国工業化の模範のような国で、その外交もむにゃむにゃとよくわからない英語でしゃべっているうちに、どの国ともうまく関係をつけてしまうという巧妙なものなのですが、政治家・軍人たちが利権闘争・政争を繰り返すのであれば悲劇的なことです。

それは、工業化⇒生活水準向上・権利意識向上⇒民主化という単純な進歩の図式は成り立たないことを意味しているからです。先進国もそうですが、Greed,Hubris,Bigotry (強欲、倨傲、無知)の「人間の業3点セット」は、どの時代、どんな社会でも進歩(最大多数の最大幸福の実現)を妨げるものなのでしょう。タイについては、多額の日本企業の投資を無にするようなことをしてほしくないものですが、新国王の無表情で蔭のある顔を見ると、不吉な予感がしてきます。

あともう一つ。この1カ月で聞いたいくつかの面白い言葉を紹介します。まず一つは日本に長く住んでいるロシア人女性から聞いたこと。「日本の若い人たち、好きじゃない。大人になるのが、私たちより遅いみたい――でも、音楽みたいな仕事をしている大人はぜんぜん違う。ちゃんとしている上に、腕はすごい。クリエイティブ」。日本の青年はいろいろな面で甘やかされていて、自分で自分の運命を切り開いていく気構えがないと言いたいのでしょう。

次にこれも日本に長く住んでいる、ある中国の友人から聞いたこと。「この頃の中国人は、癒しを求めて日本にやってきます。日本では心が休まると言うのです」。中国の方がよほど資本主義的で、がさつになったということでしょう。

それはそうと、このメルマガは今月で遂に60号。創刊5年経ちました。販売努力が足りず、費用を賄うほどにも至っておりませんが、長年のご愛読に感謝します。継続は力なりで、何とか続けて行こうと思います。
前置きが長くなりました。今月の目次をお目にかけます。

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