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2016年10月 5日

中ロ 神聖同盟 の出現

(これは9月20日発行のNewsweekに掲載されたコラムの原稿です)

1769字
中ロ「神聖同盟」の出現
河東哲夫

12日、中ロ海軍は南シナ海広州沖で共同軍事演習を開始した。両国海軍は既に5度(うち2回は日本海で)共同演習をしているのだが、ロシアから遠く離れた南の係争海域付近に5隻の軍艦(7000トンの対潜駆逐艦が中心)、200名近くの海兵隊 を展開し、「敵が占拠した島を解放する演習」までするのは異例だ。仲裁裁判所の判決で孤立を深めた中国がよほど強くロシアに要請した結果としか思えない。

プーチン大統領は5日G20後の記者会見で、南シナ海の島嶼領有権の問題にロシアは介入しない、ハーグの仲裁裁判所へのフィリピンの訴訟に中国は応訴していないので、判決を受け入れないとの中国の立場を支持する、そして域外の大国がこの海域に干渉するのには反対 だと述べて、米国を牽制した。そしてG20の直後に開かれた東アジア首脳会議はメドベジェフ首相に任せてウズベキスタンに急行すると、2日に亡くなったイスラム・カリモフ大統領の墓に参拝したのである。ここには、南シナ海で中国と対立し、東アジア首脳会議を主宰しているASEAN諸国への配慮が見られない。大国、強国しか眼中にないという、ロシアの悪い癖がまた出た。

今回の中ロ接近が意味するものは何か? ユーラシアに中ロ同盟が出現し、米国を駆逐してしまうのか? いや、そうではない。今の構図は、19世紀ロシアが国内の専制体制を守るため、同体質のオーストリア、プロシアと語らって「神聖同盟」を打ち上げ、産業革命で先行して民主政体を標榜する英国等に対抗した例を想起させる。基本的に「守り」なのである。

オバマ政権の下で8年間、米国は海外派兵を控えてきたが、それでも中国、ロシアは米国の軍事的・政治的・経済的圧力を感じている。そして今回中国は、南シナ海問題で国際的に窮地に置かれ、G20に向けて必死の外交を繰り広げた。経済が成長力を失う一方、子飼いの天津市市長が重大な規律違反の容疑で更迭される等 、経済・政治両面でほつれが見られる習近平国家主席とその側近はもはやなりふり構わない。これまでは、ロシアを「経済が駄目な国」と決めつけ、ロシアが自分の縄張りと見なす中央アジアには札束の威力で土足で上がり込んでいたのが、今やロシアにすがりつかんばかりなのである。

ロシアの方は今、仮初の「外交の勝利」を感じているに違いない。米国は大統領選挙で麻痺し、シリア、ウクライナはロシア寄りの線で切り上げたがっているし、アジアでも3日のウラジオストック東方経済フォーラムに、日本、韓国の首脳がやってきてプーチンに微笑んだ。そしてその直後の杭州G20の場では、米、独、仏、英、トルコ、サウジ・アラビア、エジプトなどの首脳(サウジはサルマン副皇太子)がプーチンとの会談を求めてきたーとロシア側には思えただろう。
これら諸国は、ロシアに軸足を置いているわけではない。安全保障、経済で依存できるだけの力をロシアは持たない。日本の場合は北方領土問題の解決、韓国の場合はTHAAD配備ですっかり悪化した対中関係でのとりなしをロシアに求めているし、独仏はウクライナ情勢の解決、そして英国、中東諸国はそれぞれの状況に応じてロシアを当て馬に使おうと思っているに過ぎない。

この仮初の成功に気を良くしたプーチンが12月に来日する。民進党の前原誠司議員などは、「安倍総理は、12月プーチン来日で北方領土問題のけりをつけ、その『成果』をひっさげて総選挙に訴えようとしている」との趣旨を述べているが、安倍政権はこの口車に乗ると危ないことになるだろう。と言うのは、ロシアは右の外交での「勝利」に傲り、領土問題で日本に譲ろうなどとはしないからである。日本がベタ下りして領土問題にけりをつける必要性もない。領土問題が未解決でも、ロシアは石油・ガスを日本に輸出するし、解決しても「中ロ同盟」の縁を切ってくれるわけではない。領土問題については、解決に向けての前向きのベクトルを維持していく程度が、両国にとって現実的な線だろう。

奇しくもこの9月20日には日銀の政策決定会合、米国連銀の連邦公開市場委員会が重なる。双方がかじ取りを誤ると、世界経済は再び沈み、多くの国で政権が吹っ飛ぶことになるだろう。安倍総理が総選挙を考えるなら、一番のカギはやはり経済ということになる。
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