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世界はこう変わる

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2016年4月21日

16年3月モスクワ紀行 その2 ロシア文明の今後

もうモスクワから帰って一月経ったし、一月では情勢は随分変わり得るので忸怩たるものもあるが、今年2月から3月初旬にかけて3週間ほどモスクワに滞在して得た印象を記しておきたい。例年のようにモスクワ大学ビジネス・スクールで集中講義をし(世界の企業経営の先進例を紹介、ロシアでも採用可能なものを議論)、モスクワ大学地理学科、国際関係大学、高等経済学院で東アジア情勢等につき講演、更にロシア人識者達と懇談して情勢認識をすり合わせた結果である。そのうち、これは「文明としてのロシア」について、今回得た情報、あるいは印象である。断片的であることをお断りしておく。

(「プーチンに新たなアイデアはもはやない」)

今回筆者は、原油価格暴落で2015年GDPが3,7%縮小した直後のモスクワに滞在したので、ロシア人の間の強い停滞感を目撃することとなった。但しロシア人は気分屋で、いつも原油価格の上下とともに躁鬱の間を行き来する。今回収集した言葉には次のようなものがあった。
「ロシアは凝固した。プーチンに新しいアイデアはもはやない。その点、何かしら新機軸を打ち出した1期目、2期目とは違うのだ。これから選挙の季節に入るが、『プーチンでなければ社会の安定が維持できない』という点を売り物にするしかない」
「経済がFree-fallする恐怖を味わっている。ロシアのGDPがインドネシア並になったことはわかっているが、誰がそれを大統領に言えるのだ。人材の質が落ちていく。外国語大学では戦車隊長が学長になった。ツーラでは大統領警護官が知事になった」

(芯のない文明)

以上の次第もあり、筆者にはロシアがこれからどういう国になるのか、想像できない。この社会には芯がないと言うか。ソ連時代には、ペーソスもあった。温かさもあった。前進という感じもあった。今はシニシズムと没価値と無気力と方向感の喪失があるだけだ。
テレビのバラエティー番組にせよ、映画にせよ、何かからっぽで、司会者、登場人物とも心にもないことを言っている。言いたいことをいえない。だから、本来豊かなロシア語が薄っぺたいものにしか聞こえない。いらつく。テレビでよくやっているソ連時代の映画には、本当に心に響くものがある。
その中で、同性愛が社会の前面に出てきている。あるテレビ局の職員によると、今のロシアのテレビ局はゲイだらけなのだそうだ。その職員の目の前の廊下を手をつないで歩いていく男の職員たち。一方が片方の手をまさぐると、片方が「おい、変な気にさせるんじゃねえよ」などという会話をしているのだそうだ。

そして教育水準の低下が止まらない。大学入学の面接で、ある女子生徒が答えたのだそうだ。「レーニン? 確かロシアの最初の大統領。スターリン? うーんと、ああ、レーニンと彼のグルジア(ジョージア)人愛人との息子でしょ」。こういった中で、優秀な若者は外国に行ってしまう。
 そして統治メカニズムが空洞化している。権力の大統領府への集中ばかりが目立つ。ソ連時代は、学者達による諮問委員会の類が大きな力を持っていた。今もあるが、力はない。以前は困ったことが起きると、地元の共産党組織に相談できた。今、そのような組織はない。かくて、ロシア社会を抑えることのできるのは力のみ、力の機関のみになった。

(それでも望みはある)

 それでも、ロシア社会は確実に前に進んでいる。地下鉄で老人に席を譲るのは、もう普通のエチケットになった(ソ連時代もそうだったが)。筆者は2回も譲られて憮然とした。

 そして可笑しいのは、ロシア経済は停滞している間に西側経済に大きく遅れているのだが、西側社会で生産性が向上し「働かなくても、欲しいものがいくらでも手に入る」状況が近づいてきたことで、周回遅れのロシアがまるで西側の先を行くかのような、可笑しな幻覚が生じている。
というのは、「働かなくても給料がもらえる」のがソ連社会主義の「いいところ」だったからだ。世界は「限界費用ゼロ」革命だなどと言っているが、実はロシアはこの点先進国で、世界がロシアに追いつこうとしているだけなのだ。もっともソ連の場合、給料はもらえても、買えるものはろくになかったのだが。
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