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世界はこう変わる

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2016年2月 6日

米国のオフセット相殺戦略

日本ではほとんど報道されていないが、米国防省が"Third Offset(相殺) Strategy"と名づけた戦略を策定し、ロシア、中国 の軍備増強で侵食された己の優位を維持しようとしている。
これはロシア、中国を正面から敵視した(と言っても戦争をしかけるのではなく、しかけさせないような軍備を整えるということ)もので、どこまでオバマ大統領の意に沿うものかは不明だが、国防省は既に1年余にわたってこの戦略を宣伝してきている。

そしてこれまでの数年、財政赤字削減のあおりで、国防予算はいつ削られるかわからない、それどころか支出が停止されるかもしれない状況にあったのが、昨年末議会の与野党の間で妥協が成立した。それを受けて2017年度(2016年10月~2017年9月)、国防省は5827億ドルを請求、実に政府予算の半分に相当する額を使って、軍備の再増強に乗り出そうとしている。

米ロ間ではウクライナ、シリアとも話し合いによる解決の努力が続けられているが一進一退、モルドヴァ、旧ユーゴ地域においてはロシアの策動が目立ち、いつでも紛争地域となり得る。さらにロシアは核戦力 、通常戦力両面での増強 をはかっているだけに、これから冷戦的様相が強まり、日ロ関係にもブレーキがかけられる可能性がある。

中国はOffset Strategyの主要対象であるが、最近の国防省関係者は中国よりもロシアの脅威を前面に出して説明をする。米ロ経済関係は米中のものに比較にならない程、小さいことがその背景にある。

以下、2月2日ワシントンのEconomic Clubでカーター長官が行ったスピーチを中心に、当面の米国防戦略の方向をまとめてみた。なお、最近のワシントンでは核兵器近代化(小型化・多種化)についての議論も盛んになっているが、カーター長官はこのスピーチでは言及していない。Economist Clubは政財交流の場であり、ここではカーター長官は軍事技術開発に民間企業の協力を呼びかけることを主目的としているし、オバマ大統領が核廃絶を公約としていることにも配慮したのであろう。以下、カーター長官の発言を要約した箇所にはカギ括弧を付してある。
 
「国防費削減」の重石がとれた予算
 「これまでの数年、議会での与野党攻防のあおりを受け、国防予算が削減や停止を受けかねない、不安定な状況に置かれてきたが、昨年10月末議会で債務上限適用停止の合意が成ったことで、この不安は一掃され、政府は予算の内容に集中できるようになった。2017年度の国防予算政府案は5827億ドルで、これはシリア等での戦費も含む」

「主敵としてのロシア」の復活と多正面同時作戦
 「次の5点を重点事項とする(多数の分野に同時に対処する野心的なもの)。
1) 欧州方面でロシアのaggressionを抑止する。これをEuropean Reassurance Initiativeと呼び、このための予算を昨年の4倍、34億ドル計上する。これにより、米本土からのNATO欧州諸国への部隊ローテーション派遣も増加する。
2) 「アジア・リバランス」を継続する。
3) 北朝鮮
4) イラン
核合意に関係なく、イランの悪性な策動(malign influence)に対して地域の友好国、同盟国、特にイスラエルを守る。
5) テロとの戦い、特にISIS
 
 「以上の対処は従来の空、陸、海においてだけでなく、サイバー空間、宇宙、そして電子戦においても行う」。

軍事技術のマンネリ化の打破・民間企業との協力
 カーター長官は、現在の米軍の先端兵装の多くは、冷戦時代開発されたもので、中ロ等が急速に追いついてきている、これは冷戦以降、米軍が36%も縮小したことと相まって、現場の将官の自信を失わせているとの危機感を表明、2017年度予算では研究開発に714億ドルを計上するとした。そして現代の先端技術の多くは民間企業が開発しているとして、協力を呼び掛けている。そのために、最近シリコン・ヴァレーに事務所を設け、民間とのリエゾンに努めている由(これまでもMITやレイセオン社があるボストンに同種事務所を設けていた)。日本企業にも呼びかけが行わるであろう。なお、かつて米軍がGoogleなどIT企業に顧客情報の提供を求めたことが、国防省に対する不信感を植え付けている由。 カーター長官は副長官時代の2012年、Strategic Capabilities Officeなるものを膝下に設け、外部の人材も雇って、短期間で開発・配備できる新技術の開発をしている。

無人化技術の多用(Human-machine collaboration)
カーター長官のスピーチ等で紹介されている新規技術は次の通りである。彼のスピーチではそのマグニチュードはわからないが、昨年11月レーガン・ライブラリーでのフォーラムでBob Work国防副長官は、「この1年、中ロとの戦闘がこれからあり得るとの前提で考えてきた。Third offset strategyとして、中ロに米国と戦う意欲を萎えさせてしまうような軍備を考える。Human-machine collaborationを目指す」と述べている。

1) 市販のセンサー等を多用して精密度を高めた誘導爆弾
2) 全天候型の小型高速ドローンの大群
3) 偵察用等無人多目的舟艇
4) レール・ガンによるミサイル撃墜

その他
1)海軍では沿岸用舟艇予算を削ってでも、潜水艦能力増強に重点を置く。潜水部隊には2017年81億ドルを計上し、これからの5年で400億ドル以上を充当する。これにより5年でヴァージニア級攻撃型原潜を9隻購入するだけでなく、その多くの艦でトマホーク積載数を今の12から40に高める。

2)サイバー・テロへの備えに17年度は70億ドルを計上、これからの5年間で350億ドルを充当する。

3)過去には、宇宙に軍備競争を及ぼさないように努めた時もあったが、今ではそうしていられない 。これからは戦闘が宇宙に及ぶことも考えなければならない。そのため、昨年は50億ドルの新規投資を行ったが、17年度にはこれを増強する(注:数字を挙げていない)。これにより、公海と同様、オープンで自由な宇宙を確保する。

4)すべての戦闘部署を女性に開放する。人員確保のためである。

日本にとっての意味
1)日本についてカーター長官は、Q&Aのところで、中国の軍事力伸長に対抗する必要性を述べ、アジアの友好・同盟国に言及した中で、ベトナム、豪州、フィリピンの次ではあるが割と長く、「皆さんが多分気づかれているとおり、日本は太平洋地域において軍事力を伸ばしているが、米国の緊密な長期の友人である」と述べている。

2)米軍装備の新方向のうち、human-machine collaborationについては、日本として協力する余地が大いにあるだろう。また将来、多国籍軍に対しては必ずしも自衛隊の人員ではなく、機材・資金の提供を求められる日が来るだろう。

3)カーター長官のスピーチを離れて心配なのは、かつて1987年米ソが共に廃棄した中距離核ミサイルが、右の中距離核戦力全廃条約では禁じられていない(海上配備)巡航ミサイルの形でまた国際政治の舞台に登場してきたことである。先般ロシアはカスピ海から巡航ミサイルをシリアに発射しているが、プーチン大統領は射程4500kmの空中発射巡航ミサイルも保有していることを述べている 。これが日本に到達する距離に配備された場合、日本はどうするのか考えておく必要がある。配備するなと言えば、ロシアはMDの中止を求めてくるであろう。

4)米軍が核兵器の近代化を策していることは、3月末ワシントンで開かれる核安全保障サミットの運営を難しくしよう。

コメント

投稿者: Machining | 2017年8月17日 07:16

I enjoy looking through a post that will make men and women think.
Also, thank you for allowing me to comment!

投稿者: Machining | 2017年8月17日 07:17

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