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世界はこう変わる

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2016年1月22日

2016年アジア、真の底流は何か

(これは1月19日付Newsweekに掲載された記事の原稿です)
                                 
新年、アジアではいくつか新しい枠組みがスタートする。我々は、役に立つものが前からあるのに(たとえば、グローバルな自由貿易、低関税率を保証しているWTO)、それを忘れ、目新しい、しかし中身が空疎な枠組みを過大評価し、乗り遅れるなと叫びがち。ここで、本年スタートするいくつかの枠組みの意味を検証してみたい。TPPは米国の議会による承認が行われるのかどうかわからないので、ここでは省いておく。

 昨年十二月三十一日を期して「ASEAN経済共同体」が発足した。ASEANは事務局があるし(インドネシアのジャカルタ)、先行六カ国間ではほぼ全面的に関税撤廃が実現しているのだが、関税撤廃を全域に段階的に及ぼすとともに、資本や労働力の移動も自由なEUのような共同体に近づこうというのである。

目標や良し、しかし内容となると掛け声倒れ。EUのような域外に対する共通関税は設けられず、規格や資格の相互承認も限定的、人の自由な移動も一部の者に限定され、共通通貨の創設は計画されていないなど、EU並みとは言えない点が多々残る。だが筆者は、現役の外交官時代、ASEAN Way(ASEAN流)という、彼ら独特のものの進め方を何度も味わわされた。なまりのきつい英語で、何を言っているのかよくわからないのだが、問題が起きるとその本質をすぐ理解して、なあなあ(・・・・)の原則で、ごそごそ(・・・・)話し合っては、もやもや(・・・・)とした合意をまとめてしまう。玉虫色でも、分裂、決裂は絶対避け、全体として前向きの合意なのである。今回のASEAN経済共同体もこの流れで見れば、将来へ向けての重要な一里塚と評することができる。
 ASEANも以前は、各国がばらばらで相互の貿易も殆どない、だから枠組みとしての将来性はない、と言われていたものだが、日米欧が盛んに直接投資をして、ASEAN諸国の拠点同士の分業を進めたことが功を奏して、今では域内貿易も全体の二十五%に達している 。ASEAN統合には中身があり、前向きに前進しているのである。

 中国肝いりのAIIB(アジア・インフラ投資銀行)も、今年操業を開始することになっている。リーマン・ショック後、米国の力が一時的に後退したこともあり、これが新しい超大国中国を中心とした国際金融体制発足を意味するかのような大げさな報道が行われている。しかしAIIBは、IMFのような金融危機救済機能は持っていない。東アジアでIMFに相当する機能を持っているのは、日本、中国、ASEANのうち五カ国の間で、金融危機時にそれぞれの通貨、あるいは米ドルを一時的に貸し付ける「チェンマイ・イニシャティブ」である。

AIIBは言ってみれば、日本のODA実施機関であるJICA(長期低利のインフラ建設資金=円借款を途上国に提供)に、世界中から出資を募ったような虫のいい話しで、理事会は名ばかり、中国主導でものを決める体制になっているなど、先輩格のADB(アジア開発銀行)に比べると、国際金融機関の態を成していない。従ってAIIBは世界金融市場で起債するための格付けを得ることができず、格付けなしで起債に踏み切ると言われている。欧州諸国は中国との貿易・投資を円滑に行うために、AIIBに「一口入った」ようなものなのだが、AIIBに十分な資金が集まるかどうか、中国経済の停滞もあって、見通しは良くない。

それ以上に、中身のない枠組みとしては、昨年十二月三日、プーチン・ロシア大統領が年次教書で提唱した、「ユーラシア連合、上海協力機構(SCO)、ASEANが経済パートナーシップを作る」というものがある。ユーラシア連合とは、ロシア肝いりでEUを気取ったものなのだが、メンバーはロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスのみで、ロシアによる域内市場囲い込みの性格が強い。ロシアは、TPPやTTIP(米欧間自由貿易協定)締結の動き、そして台頭した中国に囲まれ、劣勢を挽回するべく、ASEANを引き込み中国までも包含した広い地域に網をかけようとしたのだろうが、ここにはアジアに対するロシアの理解の欠如が透けて見える。

ロシアは、ASEAN諸国はロシアやSCO市場に魅力を感じているのだろうから、TPPから釣り上げて囲い込んでしまおうと思っているのだろうが、ASEAN諸国もロシアも中国もWTOの加盟国で、WTOの定める低関税を既に相互に適用している。それに、ASEANは大市場の中国と自由貿易協定を結んでいるので 、ロシアは二の次なのである。プーチン大統領は、ASEANが勧進元としてやっている東アジア首脳会議をよくすっぽかす。普段の努力をしないのに、中身のない枠組みにASEANをご都合主義で引き込もうとしても、無理だろう。

二〇一六年、世界は同時株安でスタートとなった。BRICSの経済が軒並み不振に陥る中、世界の経済は米・EU・日の景気回復をベースに回っていくかどうか。日本は、枠組みの面ではTPP合意で一区切りつけてあるので、今年は自国経済の活力回復に注力するとともに、五月の先進国首脳会議の議長国として、世界の政治・経済の安定、そして前進を演出していく年となる。
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