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世界はこう変わる

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2015年11月 2日

新冷戦よりプチ緊張緩和 米ロ対立の歩留まり

(これは「ロシア通信」11月号に掲載されたものです)

ウクライナ、シリアで「新冷戦」?
―米ロ対立の歩留まりー

 
この頃は、ウクライナ、シリアとロシアの攻勢が目立つため、「新冷戦」という言葉が世界の論壇を徘徊している。世界は本当に、米国とロシアの二色に分けられ、交流もままならないようになるのか? 現代の「冷戦」は、米ロ間より米中の間で戦われているのではなかったか?

軍事大国ロシアの復活?

 プーチン大統領の対米強面姿勢は、エリツィン時代にあったことに発する。クリントン政権末期の1999年、NATOが旧ソ連圏のポーランド、ハンガリー、チェコに拡大される。ロシアは、1990年ドイツの再統一とNATO加盟の前に行った話し合いで(当時はソ連)、米国、西独から、NATOを東独から東には拡張しないという言質を得たと思っていただけに(文書は存在しない)、面子をつぶされた。その怒りは、米国がブッシュ政権になって、NATOを更にバルト諸国に拡大し、東欧諸国には(イランのミサイルを撃墜するためと称して)ミサイルを配備することを決定するに至って、表面化する。

 プーチン大統領は2007年2月ミュンヘンの国際会議で、「ロシアは西側のやり方をいつまでも甘受するわけではない」という趣旨のスピーチをすると、冷戦時代のような周辺諸国の領空すれすれの偵察飛行等を復活させたのである。

 この「ロシアの安全を冒す動きには、断固として対処する」というプーチンの気持ちは、2008年8月のグルジア(ジョージア)戦争、そして2014年3月のクリミア併合となって更に露わになった。そしてシリアについては、準同盟相手のアサド大統領を守る姿勢を貫き、9月にはISとの戦いのためと称して先端戦闘機を配備して、反アサド勢力も爆撃するとともに、カスピ海の軍艦から巡航ミサイルを26発、1500キロ先のシリアに発射して、世界を唖然とさせたのである。

「一つではない米国」に過剰反応するロシア

 クリミアであれ、シリアであれ、ロシアは米国の影がちらつくたびに過剰反応している気味がある。そこには、米国がやっていることはロシアもやってなぜ悪いという子供じみた気負い、そしてそれとは裏腹に、ロシアは実は脆弱なのだという恐怖心がほの見える。ロシアは、米国が他国で煽動する「色つき革命」を非常に恐れているのである。2003年グルジア(ジョージア)での「バラ(桃色)革命」、2004年ウクライナでの「オレンジ革命」などは、米国の人権団体などの指導も得て、地元の野党勢力が不満分子を動員、その力で政権を転覆させたものであるが、プーチンの頭の中には、2011年12月モスクワで十万人とも見られる大規模な反政府集会が開かれた情景がこびりついているのに違いない。シリアでの色つき革命を認めれば、それはいつか必ずロシアに波及してくるだろう、という恐怖心である。

問題は、米国のオバマ政権の側にはそれを自分がやっているという意識がないことだ。オバマはアフガニスタン、イラクからの米軍撤退を公約に大統領になった人物なので、海外の紛争への関与には極度に慎重なのである。ところが米国の与野党は傘下に人権・民主主義普及団体(NGO)を抱える。これら団体は多くの国に事務所を有し、地元野党勢力に資金も渡して活動を支援しているのである。情勢が不安定化すると、これら勢力はオバマ大統領に介入を求め、大統領が逡巡すると臆病だとして非難、次の選挙で民主党をたたくのに利用しようとする。

これら団体には米議会等から国務省などを通じて多額の助成金が支払われている。国務省のUSAIDなどを通して配られることが多いため、ロシアにしてみれば大統領の意向で動いているとしか見えない。いくらオバマは自分はやっていないと思っていても、ロシアにしてみれば「オバマは二枚舌だ」ということになるのである。ロシアがそのように思い込んで過剰な反応をすると、今度はオバマ政権が逆ギレする。オバマには、おとなしくなった、言うことを聞くようになったと思っていたロシアが突然、「理由もなしに」飛びかかってきたように見えるからだ。米国人は、子どもが口答えをすると、体罰を加えてでもしつけようとする傾向がある。

新冷戦? それともプチ緊張緩和?

このまま米ロは相互認識のねじれで対立がエスカレート、運命的な対決に至るのか? 否、今情勢は「プチ緊張緩和」の方向を示している。ウクライナでは東ウクライナの親ロシア勢力がすっかりおとなしくなった。プーチンは東ウクライナを抱え込む力はロシアにないことを認識、話し合いで問題を解決しようとしている。米国も、キエフのポロシェンコ政権が過度の反ロ行動に出ないよう、手綱を引き締めている。

そしてこの情勢を見極めたかのように、9月初旬、ドイツのガス会社Wintershallはガスプロムとの間で、天然ガス田(ウレンゴイ)とガス配管インフラ(ドイツ)の「資産交換」を合意、ガスプロムに融資をするのと同等の効果を持つ取り引きを行った。こうやって、制裁措置(融資禁止)をかいくぐったのである。またEU諸国のガス各社はロシアからドイツに至る天然ガス海底パイプライン「ノルト・ストレーム」の複線化のためコンソシアムを結成、制裁破りをすることなく、ガスプロムとの共同事業に乗り出した。加えて10月初旬には、ロシアのノリリスク・ニッケル社が70億ドル相当のユーロ債をEUの資本市場で完売したが、ロシア企業のユーロ債発行は昨年11月以来である。

シリアでは、ロシア軍の行動に対するオバマ政権の反応は不思議に生ぬるく、あたかもロシア兵力を利用しようとしているかのようでさえある。ロシアの方も、これ以上の兵力を送って泥沼に陥る愚は避けるだろう。ロシアは、シリアでアサドの準同盟国としての面子を維持し、今後の話し合い解決における発言力を維持できれば十分なのである。従って、シリアで選挙を行い、正当性を持った政権の下で紛争を凍結してしまう方向なら乗ってくる可能性がある。シリアでは2013年9月、シリアを巡って対立を嵩じさせていた米ロが、化学兵器除去の一点で突然手を握った前例がある。

今のロシアに新冷戦を戦う経済力、軍事力はない。制裁と原油価格の暴落で、予算的制約も高まっている。しかも、本格化しつつある米国大統領選の中で、ロシアがイシューになったらたまったものではない。他方米国も、イラン問題やオバマの公約である核兵器削減ではロシアの協力を必須とする。新冷戦より「プチ緊張緩和」になる可能性の方が高いのである。

ただ、もう大丈夫だと思って安心していると、また驚かされることになりかねない。今では、サウジ・アラビアでロシアが「色つき革命」を起こすことも十分考えられる時代になってきたからだ。中近東、アフガニスタン等からの難民殺到においては、SNSで流される情報が大きな役割を果たしている。ロシアの方がSNSを利用して、サウジの情勢を攪乱、世界の原油価格を暴騰させようとすることだってあり得る時代なのである。
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