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世界はこう変わる

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2015年5月 4日

中国のAIIBについて

「アジア・インフラ投資銀行AIIB」について騒がしいが、少し騒ぎ過ぎだし、「米国主導の時代が終わることの象徴だ。日本は乗り遅れるな」的な大雑把な議論も鼻につく。僕は2年間中央アジアにいて、日本のJICAによる円借款やアジア開発銀行やIMFや世界銀行や欧州復興開発銀行による融資に関わったので、ここに当時感じたことを書いておく。援助の現場で見ると、中国による融資はどう見えたかということ。

AIIBについての世界の議論を見ると、「アジアにはウン兆円のインフラ建設資金需要がある。既存の金融機関だけではとても足りない。だから」というのが多いのだが、どれも借りる側の返済能力に限界があることには考えが及んでいない。例えば僕だって、毎月の資金需要には大きなものがあるのだが、誰も貸してくれない。返してもらえないかもしれないと思っているからだ。

アジア開発銀行もIMFも世界銀行も、その資本は各国の拠出。と言うことは、各国の国民の税金や貯金が原資ということ。その原資をそのまま貸し付けに回すわけではないが、焦げ付き案件が出れば資本金にも傷がつく。だから、IMFや世銀は、ある途上国に対する外国の貸し付けがその国の返済能力を超えないよう、毎年の外国総融資額に枠をはめている。各国政府、各国際機関は、この枠内で、焦げ付かないような優良案件を求めて競争しているのである。

ところがタジキスタンなどで僕が経験したことだが、中国が乗りだしてきて、費用対効果比に大いに疑問のあるインフラ案件にどんどん低利の融資をつけてしまう。それだけで、タジキスタンの返済能力を超えかねないものになるので、日本などはそろそろ円借款を出したいと思っても、できなくなるのである。

中国はタジキスタンにとっての効果より、中国経済にとっての効果を大事にする。つまりタジキスタンに貸したはずのカネは実は中国の鉄鋼会社、中国のセメント会社、中国の建設会社に支払われ、中国の労務者が現地に大挙赴いて、トンネルでも橋でも作ってしまう。中国の内需拡大(セメント、鉄鋼が余りに余っている)、中国の公共工事を外国でやっているようなもので、返済義務はタジキスタン政府にいくのである

多分、数年もたつとタジキスタン政府は中国政府にかけあって、「債務帳消し」などの便宜をはかってもらうのだろう。債務帳消しというのは、社会主義の国の企業と銀行の間、そして社会主義の国同士の間でよくあることで、借りた金は返さないのが常識である(外国に借りた金は律儀に返す)。

これが米国凋落の新しい時代の象徴、と言うのだろうか?

しかも中国が世界中で出している低利融資は、商務部や財務部や中央銀行がまるで競争のように出しているものである。AIIBは中央銀行の息がかかる機関なので、財務部や商務部はいい顔をしないだろう。ということは、AIIBの資金力には限界があるということだ。

文明論とか世界経済史とかの観点は絶対必要なものだが、AIIBについては現場の視点、実務家の意見の方が重要だろう。要するに、今中国が言っていることは、日本だったらJICAに各国が拠出せよというのと同じこと。英国など欧州諸国は、JICAの理事になれるのだったら入っておいて損はないと思うのと同じで、一応AIIBに唾をつけておくということだ。理事になっても、AIIBの金を欧州企業に回してもらえると思ったら失望するだろうが。

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